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16.私に返せるもの

 世菜(せな)先輩と二人で駅前へ移動した。

 私の自転車のカゴに先輩の荷物を積んだら、先輩が自転車を押してくれた。

 メックでそれぞれ頼んで、奥の方のテーブル席に座った。

 先輩の前には大量のハンバーガーやポテトが積んであった。


「お腹空いちゃって」


 世菜先輩は少し恥ずかしそうだけど、男の子ならそんなものなのかな。柚希(ゆずき)も最近たくさん食べてるし。


「ていうか、先輩は帰らなくていいの?」

「うち、土曜日は両親とも仕事だからさ。あと昼前に解散だったから、みんなそれぞれその辺で食べてから帰ってるよ」

「そうなんだ」

(みどり)黄乃(きの)さんも学校に顔を出してから帰るって言ってたし。中庭にいただろ? 俺は花菜(かな)ちゃんに会いたかったからまっすぐ裏門に行ったんだけど」


 先輩たち、いたかなあ。

 そういえば中庭のベンチで固まっている人たちがいたから、そこにいたのかも。

 気づかなかった。

 世菜先輩はハンバーガーを三口くらいで食べてお茶を飲んでいた。

 すごいな。ポテトも大きいサイズなのにもう半分くらいない。


「お土産買ってきたよ。えっとお菓子と、お茶と、アクセサリーと」

「えっ、待って、もしかしてそれ全部私に?」

「まさか。家に買った分もあるよ。部活の分は翠たちに任せた。こっち半分が花菜ちゃんの分」

「それにしたって多いですよ。もー、こんなにもらっちゃって……」

「ごめん、つい」


 いつの間にか先輩のトレーの上はアップルパイとお茶だけになっていた。

 そんなにお腹を空かせていたのに、こんな大荷物を抱えて私に会いに来てくれたのか、この人は。


「ありがとうございます、先輩。沖縄はどうでしたか?」

「やっぱり海がきれいだった。あと花の色が鮮やかでさ。流行のくすみカラー? なにそれ、みたいな原色ですごくきれいだった」


 先輩はスマホを取り出して写真アプリを見せてくれた。

 どれもこれも鮮やかで、明るくて、眩しい。

 ……アプリの中に初日に送ってきた写真が、ない。

 先輩は垂れた明るい茶色のタヌキみたいな瞳を輝かせて、どうだったかを話している。

 だから女子に囲まれて撮った写真をどうしたかなんて聞けなかった。


「そうだ、沖縄と言えばシーサー!」


 写真を見ていた先輩がそう言って紙袋に手を入れた。


 取り出したのはシーサーのぬいぐるみ二つとペアのストラップだった。

「なんで二つずつ?」

「シーサーは狛犬みたいにペアで守るものだから」

「なるほど」


 渡されたシーサーのぬいぐるみはキリッとしているのにどこか情けない顔立ちで、なんだか先輩に似ている気がした。


「ぬいぐるみはまあ、いいですけど、ストラップはこれ……」


 二つセットで入っているけど、たぶん友達やカップルで一つずつ持つやつじゃないかな。

 顔を上げたら、先輩がいつものふにゃっとした顔で私を見ていた。


「先輩、一つあげますね。スマホにでもぶら下げておいてください」


 テーブルの真ん中にシーサーのストラップを置いた。


「えっでも」

「私もそうしよう」


 カバンからスマホを出してシーサーをぶら下げた。どうかな。お守り的な効果とかあるのかな。


「……俺とお揃いになっちゃうけど」

「嫌ですか?」

「嫌じゃないです」


 先輩もシーサーを手に取ってスマホに着けて、小さく揺れるそれを、嬉しそうに見つめていた。


「そういえば首里城の天守閣にはシーサーじゃなくて龍が乗ってたよ」

「シーサーが乗ってると思ってたんですか?」

「思ってた。親シーサーみたいな大きいのが乗ってると思ってたけど、違った」


 先輩は笑いながら、また写真を見せてくれた。親シーサー……?


***


「わ、もうこんな時間だ」


 先輩は一通り話を終えて、時計を見て目を丸くした。


「ごめん、こんな時間まで引き留めちゃって」

「大丈夫です。家には連絡してありますし」


 まあ、私の代わりに柚希に手伝いを頼んだだけだけど。

 ママから『せっかくなんだから、ゆっくりおしゃべりしておいで』って返事が来ていたから大丈夫。


「でも、そうですね。先輩も疲れてるでしょうし、そろそろ帰りましょうか」


 立ち上がって二人分のトレーを片付けた。

 自転車まで戻って、先輩からお土産の紙袋を受け取る。


「お土産、こんなにたくさんありがとうございます。あ、そうだ」


 紙袋に入っていたプルメリアの飾りのついたゴムを取り出して髪を結んだ。


「似合いますか?」

「うん。すごくかわいい。プルメリアの花言葉って『陽だまり』とか『気品』って書いてあったから花菜ちゃんにぴったりだと思ったんだ」


 先輩の手が伸びてきて、ポニーテールにした私の髪に触れた。顔が私の頭に近づいて、すぐに離れた。


「先輩……?」

「似合ってる」

「……ありがとうございます」


 先輩の顔が赤いのは、たぶんバカみたいに暑いせいだ。

 だから、私も熱くて、汗が止まらないし、心臓もうるさいのも仕方ない。

 全部、六月なのに熱すぎるせいだ。


***


 家に帰って、お土産の中から箱菓子を出してママに渡す。

 そうすると、いい感じに家族に分けてくれる。

 私は汚れてもいいジャージに着替えて、玄関で長靴を履いた。


「パパー、ただいまー! 手伝いあるー?」

「ある。バイトを追加で雇いたいくらいある」

「私がやるよ!」


 畑に入ると、草陰から柚希が顔を出した。


「姉ちゃんはまず俺にいきなり手伝いを押しつけたことを謝れ!」

「ごめーん。もらったお土産のお菓子あげるから」

「サーターアンダギーある?」

「あるけど、それは私のだからダメ」

「うるせえな、柚希、草むしりは終わったのか? 花菜、じいさん手伝って明日出荷分の花の用意しろ!」

「へいへい」

「はーい」


 パパに怒鳴られて、私と柚希はそれぞれの仕事に向かった。

 おじいちゃんに部活や藤也(とうや)の話をしながら、出荷する花を選んでいく。


「おじいちゃん、この小さいカラー、もらっていい?」

「いいよ。あ、それはダメ。明後日に出す。そっちのはいい」

「何が違うの?」

「まだそれは見分けられねえか。葉っぱがさ……」


 教わりながら、いくつか花をもらった。

 カラー、ルリタマアザミ、それからデルフィニウム。青と白の花にグリーンを足して、こんなもんかな。

 私には藤也や藤也のお父さんみたいにセンスのあるものは作れないけど、それでももらった分の気持ちくらいは返したかった。


 先輩はどんな思いで、私にたくさんのお土産を選んできてくれたんだろう。

 私は先輩に、ちっとも優しくなかったのに。

 お菓子や髪飾り、ポストカードにキーホルダー。ぬいぐるみはシーサーだけじゃなくて、マナティと、あとなぜか海ぶどう。海ぶどうのぬいぐるみって、なにさ。

 でもちょっとかわいかったから、あとでカーテンタッセルにぶら下げておこうと思う。


 たぶん、本当にかわいいのは海ぶどうじゃなくて、それを選んだ先輩の方なんだ。

 先輩は、本当にたくさん写真を撮って送ってくれた。正直、通知がうるさかったし、写真集でも作るつもりかなってくらい量があって、全部は見られていない。

 それでも、それだけの景色を私に見せたいと思ってくれたことが嬉しかった。

 だからまあ、私ができるお礼をしようと思ったんだ。


 適当に束ねた花を、小さいバケツに水を張って入れておく。

 包むのはあとで適当に買ってこよう。

 先輩はどんな顔で受け取るだろう。

 いつもの、ふにゃっとした顔をしてくれたら、嬉しいなあ。


***


 週明けの朝、水やりのときに花を渡したら、受け取った世菜先輩は顔をくしゃっとさせてうつむいてしまった。


「え、どしたの。大丈夫?」

「だめ」

「ダメなんですか?」

「うん……嬉しすぎて心臓が破裂する」

「そんなに……。うちの出荷できない花を、もらってきただけなんですけど」


 先輩は花を抱えたまま、小さく首を横に振った。


「だけ、じゃないよ。花菜ちゃんが俺のために持ってきてくれたものだから、すごく嬉しい。どうしよう。どうやって取っておけばいいんだろう。そうだ、写真撮らせて」


 花を私に持たせて、先輩はスマホで何枚か写真を撮った。

 それを見て、満足そうに頷いている。


「待ち受けにしよう」

「や、やめて! 恥ずかしいから!」

「俺しか見ないよ」

「そうかもだけど……!」


 花を返すと、先輩は目を細めて私を見た。

 うーん、ここまで喜ばれるとは思わなかったな。


「ありがとう、花菜ちゃん。嬉しい。大事にするね」

「お土産のお礼ですから、気にしないでください。さ、水やりしましょう。先輩がいなかった間、私が一人でやってたんです。今日は先輩が頑張ってください」

「うん。任せて」


 二人でホースとじょうろで水を撒いていく。

 朝だけど陽射しが眩しくて、水を受けた花がキラキラ光っていて、それを見る先輩の顔が嬉しそうで、なんていうか夏だった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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