②橘 恒一(代表)のコメント
静かな黒画面。
わずかに遅れて、画面がフェードインする。
そこにはキッザニアのロゴが入った壁を背景に、中央に立つ一人の人物。
東京キッザニア代表取締役社長、橘 恒一。
その背後には、数名のキッザニア運営スタッフが静かに並んでいる。
誰も動かない。
音もない。
数秒の沈黙の後橘が、ゆっくりと口を開く。
「このたび、サイバーサイジング社代表取締役両CEO、アレックス・アダソン氏、アラクネア・アダソン婦人が、社会の象徴的存在を狙い、その社会構造そのものに影響を及ぼそうとする明確な意図を伴った、世界に向けても極めて深刻かつ象徴的な意味を持つ悪質かつ痛ましい凶行によりその命を奪われたとの報に接し深い衝撃とともに、今なお言葉を見出すことができません。
アダソンご夫妻両CEOとの関係は、我々キッザニアにとって、単なるパートナーではありませんでした。
我々キッザニアと共に子どもたちの未来に真摯に向き合い、理念を言葉だけでなく行動で示し続けた存在でした。2014年の初対面および契約に向けた会合以来、その関係は今日に至るまで継続してまいりました。
これまでサイバーサイジング社様におかれましては、世界各国の重要顧客企業に対し、両CEOご夫妻自らが現地に赴き、SP、また状況に応じて当該国・地域の支社長を伴った上で、顧客企業の代表者と直接対面し、初対面においては名刺交換を行い、その後必ず現場視察を実施されるという形が取られておりました。
本プロジェクトにおかれましても、両社にとって重要性の高い案件であったため、最終的な意思決定として、両社CEO同士による直接の対面と現地視察を経て合意に至りました。
その初対面の場となった2014年の会合においては、両CEOご夫妻がSPを伴いご来日され、日本サイバーサイジング社様の夏美サーベラス支社長の同席のもと、橘との名刺交換が行われました。
その場では、夏美支社長が通訳として両者の意思をつなぎ、続いて現場視察が実施されるなど、同社における正式な対面の手順に則った形で対話が進められ、理念だけでなく実行可能な構造としての共有が図られました。
一方で、サイバーサイジング社様におかれましては、1999年の創業以来、IT事業および社会インフラに関わる業務提供を主軸としており、体験型パビリオンといった分野への関与は、本プロジェクトが初めての取り組みであり、同社にとっても新たな領域への挑戦であったものと理解しております。
我々キッザニアが両CEOご夫妻と初めてお目にかかった際、同じく企業を率いる立場として、世界の文明インフラを築き上げてこられ、さらには各国の要人とも交流を持たれるほどの存在であることに、深い敬意とともに、その責任の大きさを強く実感したことを今でも鮮明に覚えております。
その後、幾度となくお忙しい中キッザニアの現場に足を運んでいただき、また我々自身も日本サイバーサイジング社様の丸の内支社、さらにはアメリカ本社に赴き、直接お互い対話を重ねてまいりました。
そうした積み重ねの中で、幾度となく両CEOご夫妻と現場でお会いする中、その関係は単なる事業上の連携やパートナーという言葉では言い表せないほど、深い信頼に基づき、互いに未来を共有する関係へと深まっていったと感じております。
また、私自身にとっても、ご夫妻は単なる取引先ではなく、同じ責任を担う立場として共に未来を考える存在であり、日本サイバーサイジング社様の夏美サーベラス支社長を含め、その信頼関係は現場レベルにおいても確かに築かれていたものでした。
昨年、サイバーサイジング社様が創業25周年という大きな節目を迎えられましたことに、あらためて心よりお祝いを申し上げますとともに、1999年の創業以来、四半世紀にわたり世界の文明と社会基盤を支え続け、世界各国・地域に125の支社を展開し、150人に及ぶ支社長が現地に常駐する体制、さらには約10万から15万人規模に及ぶ社員の皆様によって支えられる組織基盤を築き上げてこられてきた両CEOご夫妻のご功績に、深い敬意を表します。
また、各拠点においては、それぞれの国や地域の特性、法律、拠点の規模に応じながら、社員の皆様とそのご家族の生活を包括的に支える福利厚生環境が整備され、拠点内で生活の多くが完結し得るほどの充実した基盤が築かれてきたことも、両CEOご夫妻のもとで積み重ねられてきた重要な成果の一つであると受け止めております。
加えて、同社を支えてこられた社員の皆様およびそのご家族におかれましても、このたびの出来事により大きな影響を受けておられることを深く案じております。
各拠点において整備されてきた福利厚生施設や生活基盤においても、現在さまざまな混乱が生じているとの報に接しており、日常生活の継続に困難を伴われている方々もいらっしゃるものと受け止めております。
また同社は、我々キッザニアの2006年の開業に先立ち、すでに長年にわたり世界の基盤を支え続けてこられました。その歩みは、後発である我々にとって常に先を行く存在であり、その実績と責任の積み重ねは、見習うべき指標として深い敬意とともに受け止めてまいりました。
その一つ一つの積み重ねの中で、両CEOご夫妻は“構造としての責任”を体現されていたと、今あらためて強く感じております。
日本サイバーサイジング社のパビリオンは、両CEOご夫妻の明確な意思と、揺るぎない責任のもとに築かれたものです。
しかしながら現在、そのパビリオンが閉鎖という状況に至っていることは、我々とっても大きな喪失であり、この出来事の重大さを物語るものでもあります。
その意思は、たとえ今後どのような状況にあろうとも、この場所に確かに刻まれ続けていくものと信じております。
本来であれば、両CEOご夫妻が築かれてきたその構造は、我々キッザニアと共に次の世代へと引き継がれ、新たな形として発展していくはずでした。
また、日本サイバーサイジング社パビリオンにつきましては、2019年に東京キッザニアにて開業した後、まず当該拠点における運用と成果を確認したうえで、キッザニア甲子園およびキッザニア福岡への展開を段階的に進めていく構想がございました。
この計画は、両CEOご夫妻、日本サイバーサイジング社の夏美サーベラス支社長、私当社代表橘、ならびに現場運営責任者である水瀬綾乃を含め、構想段階から継続的に協議が重ねられてきたものでござ
ます。
しかしながら、社会情勢の変化、特に新型コロナ感染症の影響もあり、展開時期については慎重な検討が続けられておりました。
そのような中で、具体的な準備に入る前に、さらにこのような悲劇が起きてしまい、当該構想が実現されることはありませんでした。
当時は、状況の改善を見極めたうえで、段階的に次の展開へと進むための準備も整えられつつありました。
その過程において、このような事態に至ったことに、深い痛恨の念を抱いております
また、我々キッザニアに限らず、世界各国においてサイバーサイジング社様と関係を築いてこられた多くの企業様においても、両CEOご夫妻との関係は単なる取引にとどまるものではなく、共に歩み、未来を見据えていくものであったと考えております。我々と同様に、同社と関係を築いてこられた多くの関係者にとっても、到底受け入れ難い出来事であると受け止めております。
このたびの出来事により、世界各地において多くの企業様が深刻な影響を受けており、同社との関係が一部事業にとどまっていた企業様においても、その影響により当該事業の継続が困難となり、一部事業の停止や撤退を余儀なくされるなど、事業の継続が困難な状況に至っている例が生じているものと認識しております。
そのような中、同社と深い関係を築いてこられた世界中の企業様においては、キッザニアと同様に哀悼の意や想いを言葉として表明することのできる状況にある企業様もあれば、未だ困難な状況の中で対応に追われ、その想いを発信することすら困難な企業様、さらには事業の継続そのものが叶わなくなってしまった企業様、あるいはあえて沈黙という形でこの事態に向き合われている企業様も存在しているものと受け止めております
それだけに、今回の一連の事態により、その継続が断たれてしまったことへの喪失は計り知れず、さらに、この極めて異例かつ重大な変化が社会に与える影響の大きさを思うと、我々は今、その全容を未だなお把握しきれておりません。
なお、日本サイバーサイジング社パビリオンにつきましては、現在運営を停止しております。今後の対応につきましては、関係各所と連携のうえ、慎重に検討してまいります。
ご来場のお客様にはご心配とご不便をおかけいたしますが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
また、現在閉鎖中ではありますが、日本サイバーサイジング社パビリオン前におきましては、ご来場の皆様に哀悼の意を表していただけるよう、献花台を設置しております。
献花のほか、おもちゃや折り紙、お菓子、お亡くなりになられたアダソンご夫妻両CEOの似顔絵、アダソンご夫妻やサイバーサイジング社様に向けたお手紙など、お子様からの想いを込めた品もお供えいただけます。
皆様のお気持ちを大切に受け止めさせていただきます。
ご遺族の子息であるアダソン兄弟におかれましては、このたびの突然の出来事による深い悲しみはいかばかりかと、心よりお察し申し上げますとともに、両CEOアダソンご夫妻にはこれまでのご尽力に深く感謝申し上げます。どうか安らかにお眠りください。
改めまして、サイバーサイジング社代表取締役両CEOアダソンご夫妻のご逝去に際し、当社一同、深い哀悼の意を表するとともに、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
東京キッザニア代表取締役社長 橘 恒一」
その声は最後まで崩れることはなかった。
ただ一度だけ、わずかに呼吸が止まった。
橘が、深く一礼する。
その動きに合わせて、背後のスタッフも同時に頭を下げる。
音はない。
わずかに間を置いて、画面が、ゆっくりとフェードアウトする。
最後に表示される。
『KidZania Tokyo』
本コメントはキッザニア公式サイトに掲載されるとともに、日本国内の主要報道機関を通じて広く報じられた。
その映像は、公開直後から各メディアおよびオンライン上で繰り返し再生され、SNS上では多くの反応が寄せられた。
視聴者からは、追悼の言葉や感謝の声が相次ぎ、いいねやコメントが短時間で拡散的に増加していった。
子どもたちの姿とともに記録された献花の様子、そして橘の言葉は、単なる企業コメントを超えたものとして受け止められ、多くの人々の間で共有され続けた。
また、世界各地のサイバーサイジング社の顧客企業の中にも、同様に追悼声明や追悼映像を発表する動きが広がっていった。
それらの映像もまた、各国のメディアやSNS上で繰り返し再生され、企業の枠を超えて多くの人々の目に触れることとなった。
いいねやコメントとして寄せられた反応は、単なる共感にとどまらず、この出来事が社会全体に与えた影響の大きさを示すものでもあった。
しかしそうした言葉や記録が発信されている一方で、何も発信されないまま沈黙を続ける顧客企業もまた、同じ数だけ存在していた。
その差は、単なる意思の違いではなかった。




