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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
降り積もる雪
297/301

◆5-30 見定める者達




 カーーン………

 硬木に硬木を叩き付ける様な音。


 喧騒激しい広場に、乾いた音が水を差す。

 混乱の最中に居る者達は皆、周章狼狽(しゅうしょうろうばい)する空気を切り裂いたその音に気を取られ、一時沈黙した。


 「お…おい、あれ…!」

 一人が音の源を指差し、皆がそちらを振り返る。

 この騒ぎの元凶、硬く太く黒い幹の真ん中。丁度、人の頭より一つ上。

 そこに太い矢が突き刺さっていた。


 矢は未だ、突き立った時の衝撃を逃がす為、上下に激しく震えている。

 普通の矢ではない。人の腕よりも太い矢。

 それが見事に貫通していた。


 「あれは…城壁塔に設置してある機械式大型弩弓(いしゆみ)の矢ではないか?」

 門兵の誰かが呟いた。

 その問に答えるかの様に、再度、高い音が響き渡った。

 ヒュン……カーーーン………

 それは間違い無く外壁の端から。

 湖にせり出した城壁塔の射出口から発射されていた。


 二射目は一射目の少し上。

 そこに同じ太さの矢が貫通し、激しく振動している。

 黒い幹を二本の太い矢が貫いた。

 ビキビギビキキ………乾いた音が響き渡る。

 余分な力を逃す為の残留振動が、貫通孔を押し拡げていく。

 裂け目は縦に伸び、硬質化した黒い幹に白く歪な縦線が走った。


 カーーーーン………

 高い音が三度(みたび)

 前二つの貫通孔の更に上。

 三本目の巨大な矢が、ヒビの拡がった跡に沿うかの様に幹を穿った。


 バキバキバキ………

 完全に硬質化していた幹は、貫通孔を押し拡げようとする力を逃す術がない。

 騎士を取り込み、臓物を喰らい、エレノア迄も糧にしようとした黒い触手の中心(ほんたい)は、縦線に沿って二つに裂けていった。


 ミシミシ…バキバキバキ……

 幹となっていた部分には大きな亀裂が走る。

 周囲で猛威を振るっていた黒い触手は動きを止め、痙攣するかの様に、小刻みに震えだした。


 捻じれ絡み合った黒い幹の根本は二つに割れ、その狭間に取り込まれた騎士の遺体が顔を覗かせる。

 割れた幹の間から飛び出した()()()は、原型を留めず、絞り切られた雑巾の様になっていた。

 エレノアに絡みついていた触手も剥がれ落ち、急速に萎んでいった。



 「アレは…バリスタの矢よね…?」

 アビゲイルは、黒い幹に突き立った矢を見ながら呟いた。


 突き立ったモノを凝視する。

 軌道を安定させる為の螺旋状の切り込み。

 大人の腕よりも太い軸。二股に分かれた矢筈(やはず)

 間違い無く機械式大型弩弓(バリスタ)の矢。

 射線から割り出した発射位置は、私達の足下の斜め下。

 水素の気球を作っていた時に見上げた塔の開口部。今は見下ろす位置。

 城壁塔の中から発射されたみたい。


 カーーーーン!!

 四発目が命中。 

 拡がっていくヒビに駄目押しの一撃。

 黒い幹は綺麗に割れ、倒れた。

 痙攣していた触手も急速に枯死し、静寂が訪れた。


 「こんな簡単な方法で…」

 「バリスタの使用は最初に除外した戦術だったね」

 「しょうがないじゃない。だって……」


 城壁塔のバリスタは、空飛ぶ大型魔獣や近付く騎馬戦車を迎撃する為の物。

 魔獣達が陣取っていた丘の上までは射程外。

 たとえ射程圏内に入ったとしても、地を駆け回る魔獣に当てるのは至難。戦力としては不確定。故に、元から作戦には組み込まなかった。

 当然の判断。たとえ立案者が私でもそうしただろう。


 私はハッとして壁から身を乗り出し、塔の発射口を覗き込んだ。

 「お姉様…?」

 「…誰が撃ったの?」

 射出口からは、迫り出した機械式大型弩弓(バリスタ)先端部と矢が、ほんの僅かに見えるだけ。

 観測手も見えない。誰が射出したのか判らない。

 「く…見えない…!」

 「どうしたの?当然、門兵が撃ったのでしょう?」

 「違う…門兵じゃない!」


 バリスタは発射準備と射角をとる作業だけで複数人の力が要る。時間も取られる。簡単に発射出来るものではない。

 それなのに、『黒い木』の発生直後に動作させて、ピタリ真ん中に撃ち込んでいる。しかも連続四射。それはつまり…


 「(あらかじ)め、こうなる事を知っていないと撃てないでしょ!準備に時間の掛かる兵器なのに…」


 射った奴は、ガラティア(おねえちゃん)計算予測(予言)以上の事が出来るか、『黒い木』を発生させた張本人(犯人)か……。どちらにしろ、普通の人間ではない。

 アビーと(リーヴ)もそれに気付き、急いで壁上から顔を出して下を覗き込んだ。


 ヒュン……ドス……

 その直後、五発目が発射された。しかしそれは、それまでの軌道を大きく逸れた。

 少し奥まった位置に。何もない草むらの中に突き立った。


 正確に四発も当てたのに、五発目を外した…?

 いえ、そんなはず無い。『黒い木』は既に倒れている。もう射つ必要が無い。

 それに、あそこまで射線が逸れる…つまり、意図的に射角を動かした…。


 私は『眼』を発動させ、矢の突き立った場所に意識を集中させた。

 「…何?あれは……」

 大勢の騎士や魔獣達の魔素に紛れていた『モノ』が()()()


 物凄くドス黒くて濃い魔素の塊。なのに薄い。正確には、先程までは薄かった。

 矢が突き立って暫くした後、掘り当てた泉が噴き出すかの様に、何も無かった場所から魔素が噴き出した。


 「あれ?景色が…歪んで見えるわ…?」

 「矢の突き刺さった場所から、湯気みたいなものが立ち昇ってるよ。お姉様」

 『眼』の無い彼等にも見える位に濃い魔素の対流。


 草陰に隠れていた。それが何かは判らない。が、恐らく『元凶』が居たのだろう。

 異常な程に濃い魔素と、そこに含まれる悪意を感じ、私は思わず身震いした。



 こんな所にまで根を延ばすなんて、相変わらず節操がありませんね。

 聖教国経由は不可能ですから、帝国を大回りして来ましたね。

 帝国の魔女(スカアハ)には、ちゃんと監視しておく様にと言わないといけませんねぇ…。


 祝福を観覧()に来て、まさかあのBBAに…おっと、汚い言葉はいけませんね…。まさか、あの下衆醜女(くそババァ)に遭遇するとは。

 しかし運が良かった。間に合いました。

 危うく大切な駒を壊されるところでした。


 黒の森の魔女(デーメーテール)が動けない今、この地の護りはガラティアだけ。その隙を狙いましたか。

 バルバトスは良くやってくれていますが、少々心許ないですね。

 未知の技術は禁止事項(コード)に抵触します故、私の防衛手段を授ける訳にもいきません。…とはいえ、放置すると次は彼女が壊されかねません。

 今回は、丁度良い兵器があって助かりました。


 …しかし、困りましたね。

 常にこちらを観ている事も出来ませんし。…どうしましょうか?

 取り敢えず、出来る範囲で保険だけでも掛けておきましょう……この程度なら、禁止事項(コード)に触れないでしょうし。



 ああ…!くそっ!

 苦労して延ばしたのに!

 フィクス・ベネナータを発芽させた時の魔力から、位置を特定されたのかしらねぇ…?

 あの嫌味野郎…まさか、あの場にアイツも居たなんて…。


 しかし、アイツが直接手を貸してまで護ったニンゲン…。『エレノア』といったかしらね。面白いわぁ…。

 手の空いてる子供達(リベリ)に監視させましょうか…。

 幸い、帝国にも聖教国にも子供は()()し。監視は容易よね。

 機を見て取り込むか、無理なら殺してしまいましょう。


 先ず、今は北方に集中しなければね…。

 聖教国との戦争に持っていければ一番自然。容易だったのだけれど…。もしそうなれば、ヤツの悔しがる顔も拝めて一石二鳥だったのに。

 でもまぁ…次善の策が無いわけではないけどね。少し無理矢理だし、不自然なのは否めないけれど。


 そろそろ帝国の()()も満ちるでしょう。

 あの子は実に良くやってくれているわ。流石、私の傑作。

 帝国の魔女(ババァ)の子供達が少ぅし厄介だけど…少数だし。どうせ流れは止められないでしょ。

 王帝のヤツが覚った様子は無いけれど、気付いた(知った)としてもどうしようもないわね。

 内乱を起こす訳にもいかないでしょうし。

 たとえ先回りしようと動いたとしても、こちらの手の方が長くて速いからね。


 …聖教国に潜ませている子供達(リベリ)…あの子達にも手伝わせましょうか。暇を持て余してるでしょうし。

 それに、何やら面白い玩具を隠し持ってるみたい…。

 実際に試用して(つかって)みたいでしょうからね。


 新たに世界(はぐるま)、回しましょう。

 サイコロを振って、駒を進めましょう。


 このゲーム、次こそ勝たせてもらうわ。

 観てなさい…キロン。

 そのニヤけたクソ面、歪ませてやるわ。




 

ちょっと小休止。

一週間程お休み頂きます。


次回はジェシカのお話の更新から。

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