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十節ノヨン



床が鳴る音で目が覚める、

それは誰かが走っている音だった。


暗闇を作っていた瞼をあげれば、

そこに映ったのはパパに向かって走る叔父の姿だった。


その顔はまるで悪鬼の様で、

長く読んで来た聖書の中の怒れる悪魔を連想させた。


そして、唐突に自分の上に影がさすのに気づく、

横たわったままの自分の身体の影と、その影とが一つに混じって、

まるでライオンの様な一つの絵を作って居た。


「姉ちゃん……!大丈夫か?」


私を覗き込む顔、

ほんの少し頭を傾ければその正体はすぐに分かった。


……本当は声を聞いた時に分かっていた。


「……草月。」


私を見下ろし、覗き込む。

その心配そうに揺れる瞳は間違いなく愛おしいだった一人の弟の物だった。


顔は今にも泣き出しそうにゆがんでいる、

昔の私がよくして居た、そんな見覚えのある顔だ。


こうしてよく見てみると今までずッと似ていないと思って居た草月の顔が、とても自分と重なっている様にも思える。


「良かった……本当に、無事で良かった……」


草月がそう呟いた瞬間、

私の左頬に少し暖かい液体が落ちて来た。


それは私の肌を伝って唇を湿らす、

ほんの少し口内に染み渡ったそれはとてもしょっぱい味がした。


最初はそれが何か分からなかった、

遠くで叔父とパパが組み合っている、

何故だか能力を使っていないし、

同じ英雄の宇津木さんも父に助勢していない様に見える。


そして、

またふと、草月の顔を見てみる。

その瞬間、私の口内に入ってきた、

そのしょっぱい液体の正体がわかった。


「……草月、泣いているの?」


顔を俯かせて、

小さく肩を震わせる草月、


私よりも大きな弟の姿は、

何時もよりも酷く小さく思えた。


だから私は聞いた、

昔みたいに、

意地っ張りな草月に。


だけど、草月はやっぱり意地っ張りだった。


「な、泣いてなんかねーよ!」


私の方から少しだけ視線をずらしながら怒鳴る草月。


……お姉ちゃんが心配してあげてるんだから少しは素直になりなさいよ。


そっぽを向いて怒鳴る、

草月の照れ隠しは何よりもわかりやすい。


そんな可愛い弟だからこそ、

私は草月の事を泣かしたくは無かった。


だから、


「嘘を吐くと地獄で閻魔様にした抜かれるわよ?」


あえて、

正しく、間違った解答。

ずれた答えを言う。


そうすれば、草月は昔からそうだから。


「姉ちゃん……、そこはイエス・キリストじゃねーの?」


イエス様が舌を抜くなんて話は聞いた事が無いから良いんじゃ無いの?


「……姉ちゃんらしいや」


そう言って笑ってくれる草月、

その朗らかな笑顔の下には沢山の悲しみが詰まっている事を私は知っているから。


でも、私にその悲しさを消す事は出来ないから、

せめて……、その優しさのまま、少しの間だけでも忘れていてあげて。



私と草月の話し合いが終わった時、

それは起きていた、


ついに、パパが自らの能力、

『ケルビム』を発動したらしかった。


周りにまばゆいばかりの光が溢れ出る、

パパと叔父が何か喋り合っている様だけど、突如鳴り響いた轟音でその声はかき消された。


その音の余りの大きさに私は無意識の間に、

ーー昔、お化け屋敷でした様にーー草月に縋ってしまっていた。


その音もきっと『ケルビム』から発せられる物の一部だと思う。


部屋中が音と光で満たされる、

今やその二つがこの空間を支配していた。


しかし、だけども、

叔父『ダヴィデ』も負けてはいなかった。


叔父の力、即ち旧約の英雄、

ダヴィデが行った様な投石の力によって、

父親は壁に飛ばされていた。


ただ、それでも父親には埃一つついて居なかった、

毎日の掃除の賜物でもあらけれど、

それ以上にそれだけに父の能力『ケルビム』が優れている証拠だろう。


それに対して怒りを隠そうともしない『ダヴィデ』、

対には部屋中にある全ての物……。


机や椅子、

ヒトすらもその能力で持ち上げ始めた。


つまり、私たちも。


そして、このままいったら投げられる!

と言うその瞬間。


どんと、開け放たれた部屋の戸の前に一つのシルエットが浮かんで居た。


そしせ誰よりも、何よりも愛おしいヒトの声が、

この爆音の中に響いた。


「もう辞めなよ、父さん!」


感謝しつつ、その門に入り、ほめたたえつつ、その大庭に入れ。主に感謝し、そのみ名をほめまつれ。 主は恵みふかく、そのいつくしみはかぎりなく、そのまことはよろず代に及ぶからである。

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