十節ノサン
地面、冷たい床にその長い髪を乱して横たわる娘を見て思う。
無力。
それが勇者であり、父であるイマリの心境そのものだった。
☆
「“チク……ショウ‼”」
なんで……、
なんでオレは何時も無力なんだ……!
救えた筈の命達、
自分のエゴの為に刈って来た命達。
そして、
ただひたすらに愛した娘。
全てが、渇いた砂の様に其の手からこぼれ落ちて行く。
サラサラと落ちるそれを、
オレは見ている事しか出来なかった。
だから。
だから!攻めて優香は助けたかった!
草月も救ってやりたかった!
なのに……⁈
「余りに無力……か?イマリ」
その時、
俯く彼の後ろ、イマリと草月が入ってきたドアの方向。
そこには、その二人のよく知る顔が有った、
その男を『ダヴィデ』は憎々しそうに睨む。
「宇津木……、なぜ貴様がココに?」
そう、それはかつてイマリとともに世界を救った英雄の一人。
最年長の、宇津木だった。
その顔を見て、イマリは心底の恐怖と、同時に安堵に包まれた。
それは草月も同じだった。
「う、宇津木さん!」
父子、図らずに同時にその名を呼ぶ。
「おいおい、この大学の元々の所有者は俺の元・師匠たんだぞ?俺が鍵を持っていないとでも思ったのか?」
そう良いながら振り回されるのは、他ならない、鍵。
その様子は余裕に溢れていて、
過去の因縁を差し引いても『ダヴィデ』に怒りを植え付けた。
「貴様ぁ……⁈」
今や『ダヴィデ』の眼は燃える石炭の様に燃えており、
復讐の業火に満ちて居た。
だが、
宇津木はそんな『ダヴィデ』をの事をあえて無視をすることにした。
「おい、伊万里……」
その宇津木の声はひどく低い物で、聞く物に恐怖を与える物だった。
事実、名を呼ばれたイマリの身体は石の様に固まってしまって居た。
決して宇津木の能力では無い。
「情けなく無いか?たかが自分の娘に拒絶為れただけで何をそんなにヘコむ?まさか、本当は自分が愛されると、受けいられる斗でも思って居たのか?」
老いた目を鋭くしながら宇津木はイマリを責める、
それは、夢中に成った子供を諌める様でも有った。
「…………」
イマリのそれに対する返答は無言、
ただ、唇を引き結び、耐える様にしている。
しかし、わかっているのだろう、
決して自分が違うと言えないと言うことを。
「お前は分かって居た筈だろう、あの時から、知って居た筈だろう拒絶為れることを」
世界の始まりと、終局の魔法の言葉、
その言葉を言うだけで、優香は壊れてしまう。
そして、自分自身も壊れた優香を見ることに耐えきれず、壊れてゆくだろう。
そのことを理解したのは優香が8歳に成った頃だった、
その時には既に優香の笑顔は草月ただ一人が独占する物だった。
そして、イマリが自らの事を無力だと悟ったのも、その時だった。
「宇津木ぃ!!!無視するな!」
だけど……
それは、その事実は草月を傷つける物でしか無かった。
そのことを知っているのは今は亡き神父、
英雄の宇津木、海江田、大井川、
そして、イマリ本人だけだった。
「宇津木ぃぃぃ!!!」
迫る、
走る、
圧倒的な、恐怖。
恐れる物、それは絶望を産んだ。
無力な存在、自分自身、
自分の無力さに、
無力な自分に、絶望した。
だが、それは希望でも有った、
ヒトは0からは何も作れない。
だが、この世界に0は無かった。
ゆえに。
1は希望、全ての始まりであり、
愛すべき世界だから。
その日、あなたがたは言う、「主に感謝せよ。そのみ名を呼べ。そのみわざをもろもろの民の中につたえよ。そのみ名のあがむべきことを語りつげよ。




