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十節ノニ

前回は申し訳ありませんでした!


ギリギリと締められる感触、

叔父の太い指がネットリと私の肌に食い込んでくる。


異常な程の熱を持っているのに、叔父の指から伝わるのは冷たい、濃厚な死の気配。


ゆっくりと私に向かって歩を進めてくる硬い硬い『死』、


その向こう側、

嫌だ……!行きたくない!


そう思った瞬間、

誰も入ってこれないはずのこの部屋に入ってきた、

見知ったその顔を見た時。

私は意識を手放した。


☆☆☆


「兄貴……お前……!」


部屋に駆け込んできたのは世界中で勇者と称えられる男、その人だった。


彼が兄貴と呼んだ男のてから少女の身体が力無く崩れ落ちる。


「なんだ……、遅かったな、勇者様」


皮肉を込めて釣り上げられる口元、

勇者の目元はそれに比例してだんだんと釣り上げられて行く。


「おいおい、怖い顔して睨むなよな、バカか?」


そういって、

足元に転がる少女を蹴り上げる男。


そんな男の行動についに勇者の

ガマンに限界が訪れた様だった。


「てめぇ!その薄汚い足を優香からどかせ!」


勇者の怒号が響く、

心の底からの怒り。


それを受けてなお、『ダヴィデ』は涼しい顔を崩さなかった。


「今更何を父親面してんだよ?自分のエゴだろ?そんな事、優香が望んでいるとでもいうつもりか?」


それを聞いた瞬間、

勇者は黙り込んでしまう。


確かに、自分のエゴにすぎぬのだと……。

しかし、

またそれを否定する様に声が響いた。


「望んでるよ!姉ちゃんは……それを望んでる!」


それは、

勇者の息子……草月の声に他ならなかった。


「ッチ……タイミングが速すぎる……!」


『ダヴィデ』は忌々しそうに草月をにらめつけ、

吐き捨てる様に言った。


しかし、

草月はそんな彼がまるで見えていない様に、

彼の足元に転がる姉のそばに駆け寄って行った。


その表情(かお)から読み取れるのは……

恐怖。


近しい、何よりも愛する姉が死んでしまっているという、

絶対的な恐怖と悲しさ。


駆け寄った草月の見たものは、

浅いながら、生きている事を誇示する様に、胸を上下に動かす姉の姿だった。


「い……生きてる……!」


床に片膝を尽きながら、草月は姉が生きている喜びに震えた。


その目にはうっすらと涙のあとが見える。



しかし。


彼の父と、その兄とはそうではなかった……。


☆一歩離れた場所……


「生きて……いたか」


勇者・伊万里は誰にでも無くつぶやいた、

強いて言うならば、それは自分自身だろう。


手にうっすらと汗が滲んでいるのがわかる。


「どうした、イマリ?そんなに娘が生き残った事が悲しいか?」



つぶやく勇者に対して、

その兄『ダヴィデ』は皮肉って言った。


ただ、兄が弟をからかう、

それだけの様子で。


しかし、

勇者の反応は、

予想とは全く違った物だった。


「ち……違う!」


それは、何かに対する明確な拒絶。

兄の答え、質問、

全てにおいてだった。


それを聡る兄。

弟の愚かさを、再確認する事となる。


「……お前は、『パンドラの箱』の物語を知っているか?」


唐突に語り始める、『ダヴィデ』、

彼の真意がわからず勇者はさらにうろたえる。


「『パンドラの箱』にはな、多くの厄災が詰まって居たんだ、しかし、その中には最後にちっぽけな『希望』が残ったんだ……」


何が言いたいのか、

兄の言葉はどこに向かうのか?


それがわから無い、イマリ。


「『パンドラの箱』は人類にとって不要な物が詰まっている存在……、希望もまた、人の心を蝕む絶望の一種だ……」


その言葉は、

理解もできてい無いイマリを追い詰め続けて行く。


「絶望は死に至る病だ、お前は……希望を。絶望を抱いているんじゃ無いのか?」


愚かな者は心のうちに「神はない」と言う。彼らは腐れはて、憎むべき事をなし、善を行う者はない。


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