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第五章 恋をした悪魔


先日のキスが昨日のことのように頭から離れない。

キスなんてもう何度も行っている作業のはずなのに。


思い出すと耳が熱く、思わず耳を手で抑える。

あの時アンナは全く抵抗しなかった。


ただ静かに泣いていた。

「泣いてるの?嫌だった?」

「違います。ただ嬉しくて」


嬉しい?


「私、多分貴方のことが好きなんです」

「多分なの?」

「私は神に使える為に存在してきました。

天使に余計な感情はいらない。

だけど貴方に触れられるとドキドキして、ふわふわした気持ちになるんです。

これが恋というものなのでしょうか」


アンナのオーシャンブルーの瞳がゆらゆらと揺れる。


あぁ、綺麗だと感じた。


抱きしめている身体は折れそうなほど細い。

白いふわふわの髪の毛の毛先を手慰みに弄ぶ。

ふわりと漂う薔薇の香りにクラクラとした。



しっかりしろ。

これは任務だ。


この天使を堕とせ。

攻略対象に情など不要。


頭がお花畑なこんな天使を一人堕とすのにどれだけ心を揺さぶられている。

情け無い。


それでも七つの大罪のベルフェゴールか。


俺はアンナのことなんてこれっぽっちも愛してなんかいない。


俺は任務でアンナに優しくしているだけ。

任務だからアンナの求める言葉をくれてやっているだけ。



それなのにこの胸の痛みはなんなんだろう。

もっと君の笑顔が見たいと思う気持ちはなんなのだろう。


もし明日からアンナに会うなと言われたら。

もし別の悪魔に任務を引き継ぐと言われたら。


嫌だ。


そう思った自分にベルフェゴールは小さく舌打ちする。



悪魔が恋なんて笑ってしまう。

少し可哀想なこの天使に同情しすぎてしまったのかもしれない。


薔薇を手向け、死者の魂を回収する。

そんなアンナを本当に天使のように綺麗だと思ったのは気のせいだ。


任務に集中しすぎただけのまやかしだ。



ベルフェゴールはただ笑った。

いつも通りに笑ったつもりだった。


だがそれは、それは本人でもわからない。

アンナだけに見せるとても優しい笑顔だった。


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