第三章 禁じられた秘密の逢瀬
その日から、アンナとベルフェゴールの会う頻度は増えていった。
それは神に隠れてひっそりと行われる秘密の逢瀬。
時にはアンナの任務中、戦場で。
時にはアンナが薔薇を摘みに行くお花畑で。
そして時には誰も知らない神殿の廃墟で。
ベルフェゴールはいつも優しく、そしていつもアンナの欲しい言葉をくれた。
それがアンナにはとても嬉しかったのだ。
今まで自分は役立たずの死神のような存在だと感じていた。
薔薇の眼帯が大嫌いだった。
でも。
ベルフェゴールが「眼帯、似合ってるよ」と優しく声をかけてくれたから。
アンナは少しだけ自分の眼帯が好きになれた気がした。
どんどんベルフェゴールに惹かれている自分がいた。
ベルフェゴールに会えなかった日は寂しさを感じ、会えた日には胸がときめいてドキドキと鼓動がうるさい程高鳴った。
ある日お花畑で二人は夢を語る。
「なぁ、アンナ。この戦いが終わったら何になりたい?」
「…お花屋さんです」
「それは死者に手向ける為の花?」
そこでアンナは花が咲いたように笑った。
「違います。生きてる人に渡す花です」
ベルフェゴールの心臓がドクリと跳ねる。
悪魔軍にはこんな風に笑う悪魔はいない。
なんなんだ、この天使は。
自分はこんな感情知らない。
こんな感情を人に抱くのは初めてだった。
気がつくとベルフェゴールはアンナの細い身体をそっと抱き寄せていた。
「……ベルフェゴール……?」
突然縮まった距離にアンナの心臓が大きく跳ねる。
金色の瞳が真っ直ぐに自分を見つめていた。
逃げようとは思わなかった。
怖いとも思わなかった。
ただ――
この人になら触れられてもいいと、そう思ってしまった。
ベルフェゴールがゆっくり顔を近づける。
アンナはそっと目を閉じた。
そして二人の唇が重なった。
愛おしい気持ちがどんどん強くなっていく。
守りたいと思った。
君を神から奪いたいと願った。
これが二人にとっては初めてのキスだった。
初めてのキスは甘く甘美な味がして、とても幸せだと感じるものだった。
「好きだよ、アンナ」
「…私も貴方のことが好きです」
赤く頬を染めたアンナを抱きしめる。
ふわりと薔薇の香りが鼻を掠めた。
これでいい。
これでいいんだ。
全てが順調に進んでいる。
だって。
俺の任務はアンナを堕とすことなのだから。
だから、君を愛おしいと思うこの気持ちすら全て任務の一環なんだ。
可哀想で可愛いアンナ。
君はもう俺の手の中に堕ちた。
アンナを抱きしめながらベルフェゴールはそっと微笑んだ。
全てが計画通りだと。




