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第二章〈後編〉「似合ってるのに」


「やぁ、アンナ」


それはいつものように戦場で死者を弔っている時だった。

一瞬風が吹いた後、そこには先日出会った黒翼を背負った黒衣のベルフェゴールがいた。


「…ベルフェゴール、さん…」

「さん付けとか他人行儀だなぁ。ベルフェゴールって呼んでよ」

そう言ってベルフェゴールはニヤリと笑った。


以前と同じような笑い方。

優しい顔立ちなのに笑うと彼が紛うことなく悪魔であることを実感する。


「何をしにきたんですか?」

「ん?アンナに会いにきた。ダメ?」


ダメに決まってる。

私たちは天使と悪魔。

本来ならば敵同士なのだから。



しかも今は任務中。

アンナは一人の天使の死体に向き合いそっと白薔薇を捧げる。


「お疲れ様でした。神がお待ちしてますよ」

優しく話しかけ魂を回収した。



「それがアンナの任務?」

「そうです。一日中死体を探して、白薔薇を捧げて魂を回収する。

魂を天界に連れて帰るのが私に与えられた任務です。

まるで死神のようでしょう?」

アンナはポツリと呟いた。


「そうかな、俺には逆に天使のようだと思える。回収された魂は天界に戻るんだろ?アンナじゃないと出来ない任務だと思うけど」

「貴方は悪魔なのにどうして天使の私に優しくしてくれるんですか…?」

「なんでだろう。アンナが気になるって言ったら変?君のこの白い髪の毛も青い瞳もその薔薇の眼帯も綺麗だと思った。

アンナのことをもっと知りたいって初めて君の姿を見た時思ったんだ」


アンナのふわふわの白い髪の毛をベルフェゴールは毛先を摘み弄ぶ。

金色の瞳にまっすぐに優しく見つめられアンナの胸はドキドキと音をたてた。


「信じられません…」

「なんで?」

「だって私はこの眼帯が大嫌いだから。

だから。

あまり見ないでください」

アンナは思わず後ろへ下がった。

ベルフェゴールの手からアンナの髪の毛がスルリと離れてゆく。



アンナは右目を覆う白薔薇を隠すように両手で抑え込んだ。


「……どうして?」

「……醜いからです」

小さな声だった。


ベルフェゴールが少し首を傾げる。


「何が?」

アンナは震えながら言う。


「この眼は……嫌いなんです。

大切な友達を失いました。この神意のせいです。」


あぁ、エミリア。

今頃貴女は私のことを恨んでいるのでしょうか。

大好きだった貴女に冷たくされたあの日から私はこの眼がなによりも大嫌いです。

神から賜った物でなければ抉り出したい程に。



「私は…この右目が大嫌いなんです…」

しばらく沈黙が流れた。


ベルフェゴールはアンナを見つめる。


そして。

ふっと笑った。


「……でもさ」

アンナはベルフェゴールの声に顔を上げる。



「その眼帯、似合ってるのに」



アンナの呼吸が止まる。


「…本当に?」

「うん、アンナって感じがする」

そう言ってベルフェゴールは笑った。


それはとても優しい笑顔でアンナの顔が真っ赤に染まる。


優しいベルフェゴール。

ベルフェゴールはまた笑った。


どうしてだろう。


胸がうるさい。

こんな気持ち、知らない。


ふわふわして。

苦しくて。

でも嫌じゃない。


だからこの胸のときめきは一体なんなのか。


アンナにはまだ分からなかった。





耳まで真っ赤にしたアンナの姿を見てベルフェゴールはまた笑った。


そっとアンナの手を引いて薔薇の眼帯にキスを一つ落とす。


「…なっ…?!」

「だから、嫌いなんて言うなよ。

アンナがこの眼帯を嫌いでも俺は好きだよ」


両手で頬を包み込まれ囁かれる。


それはアンナにとってずっと誰かに言って欲しかった言葉。


甘い甘い囁きに堕ちていく。



この日アンナは恋をした。

生まれて初めての恋の相手は敵対関係にあるにも関わらず、誰よりも優しい悪魔の青年だった。


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