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第十章 神に愛されるより、貴方に綺麗だと言われたい


白薔薇のアンナはもういない。


そこに存在していたのは真紅の翼と薔薇の眼帯を携えた姿のアンナだった。

赤い翼を広げベルフェゴールを守るように立ちはだかり手を広げた。



「私はずっと貴方のいう通りこの神意が嫌いでした…。

友人の死期を見て喜ばしいと思いますか?

尊敬する上官様方の死期を見てどれだけ心が痛かったか貴方は理解できないでしょう。

だから眼帯で蓋をした。

この白薔薇の眼帯で」


真っ二つに砕けた白薔薇の眼帯を手にアンナは声を上げた。


「貴方に与えられたものなどもう入りません!

今の私にはこの真紅に染まった薔薇がある。

この罪に塗れた色の薔薇を、そしてこの眼帯を似合ってると言ってくれたベルフェゴールを私は何よりも愛しています!」


真紅に染まった翼。

真紅のドレス。

真紅に塗れた薔薇の眼帯。




ベルフェゴール。


貴方はこの姿をどう思うでしょう。

ねぇ、貴方の本心を私に聞かせてください。

能力で得た私の求めている言葉なんかじゃなく。

貴方の言葉で私に教えてください。



その瞬間。

後ろから思いっきり抱きしめられた。


「綺麗だよ。なによりも。

以前よりずっと似合ってる」


その言葉にまた涙が溢れた。


初めて思った。



神に愛されるより。

この人に綺麗だと言われる方が。


ずっと幸せだと。



「で、どーする?カミサマ。

俺は七つの大罪の一柱・ベルフェゴールだ。俺と今戦うなら他の悪魔も俺の上官も黙ってない」


ここでこの長く続いた戦争に決着をつけるつもりかい?


先程壁に叩きつけられた衝撃で口から流れる血を拭いながら神にベルフェゴールは宣言する。


そう。

彼は七つの大罪の悪魔「ベルフェゴール」。

並の悪魔とは力が違う。



神は直接戦わない。

そのために戦う天界追悼官たちが存在する。


「今ここに一人の元天使の少女の為に天界追悼官たちを集めて戦場を手薄にするかい?」


「バカらしい。そいつはもう天使ではない。

堕ちた堕天使風情にそのようなことを行うものか。

貴様ら悪魔との決着は必ず戦場で。

その日を震えて待て」


そう言い残し神は消え去った。


「ッッ…!」

ベルフェゴールは地面に膝をつく。

先程の神の攻撃が彼の身体を深く傷つけていた。

力の差は歴然だった。

神が引かなければ今頃死んでいたかもしれない。


七つの大罪の自分でさえこの有様なのだ。

この戦争はまだ長らく続いていくのだろう、と思った。



「ベルフェゴール!大丈夫ですか?!」

「平気…。あぁ、やっぱりアンナにはその姿が似合ってるよ。とっても綺麗だ。

白い髪の毛に真紅がとっても映えてる」


アンナの頬にそっと手を当てる。


「俺の為に堕天させてごめん。

騙すような真似をして本当にごめん」

「違います。これは私が選んだ道です。

ベルフェゴールと共にこれからも生きていく道を選んだ証。

この姿を私は今何よりも誇りに思います」


ゆっくりと二人の影が重なる。

何度目かの二人のキスは血の味と、薔薇の香りがした。


「愛してるよ、アンナ」

「私も貴方のことを愛しています、ベルフェゴール」


二人は廃れた神殿で光が差し込む中、何度もキスを重ねた。



白薔薇のアンナは堕ちた。

ベルフェゴールの手によって。



だがそれはシナリオ通りではない。


彼女は自ら堕ちることを選んだのだ。

初めて自らの意志で神に逆らった。



「赤翼のアンナ」



生まれ変わった彼女を人々はこう呼んだ。

それはアンナにとってなによりも誇らしく、そして愛しい名前だった。



愛する貴方が綺麗だと言ってくれたから。

私は今の自分が好きです。


それは以前と比べものにならない程に。


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