第9話。なんの仕掛けもない
背中が少しひんやりする、気がする。
「湿ったか?」
上着を脱いだ瞬間グラリと揺れた気がしたが、悲しいかな、そんな揺れも慣れてしまった。
気にせず上着を眺めたり触ったりしたが、特に湿ってる様子もない。ついでに嗅いでみたが、まだいけそうだった。うん、多分もう一回ぐらいはいける、と思う。
「でも洗っても乾くのか、ここで?」
干すとこもないしなぁ……、そう零しながら周囲を見る。岩に囲まれた場所で、干場なんかあるわけもないし、ついでに太陽もない。このまま着続けるか上半身裸でいるしかないのかもしれない。
「俺にも魔法とか使えたらいいのに……」
ふぅとため息を吐いて、上着を着る。
くぼみの水で顔を洗い、ブルブル振るった。垂れてくる水は腕で拭って……あとはそのうち乾くだろう。
「そうだ、忘れないうちに……」
岩壁に近寄り、確認する。
昨日?付けたナイフの跡に触れ、その下にまたナイフで切り付けた。これで2本――起きるたびに付けていくつもりだ。
「さて、と」
今日は岩壁を調べてみようと思った。
突然水が流れたり、くぼみができたり、岩壁が動いて出入りできるのなら、なにか仕掛けがあるのかもしれない。そう思って岩壁を一つ一つ見、手で触れていった。……当たり前だが、どれも同じにしか見えない。
溝の近くもそうだ。どう見ても同じ土の色だし、手で触れてみてもただその形に曲がっているだけ。掘られたりしたような跡は当然なく、水が出てるところを見に行っても岩壁に流れてくる穴があるだけだ。もちろんくぼみも。一枚板っていうとおかしいけど、どこにも継ぎ目なく一つの岩でできたように違和感がない。まぁ……いきなり盛り上がってできたものだから、継ぎ目もくっつけた感じもないんだろうけど。
「こ、こっちはどうだ……?」
昨日ルナウが入ってきた辺り。
そちらを慌てて見に行くが、どれだけ目を凝らしても、どれだけ触れても、へこみもないただの岩壁だった。これが動いたとか、ただの夢だったとしか思えないほど。
「はぁ……」
ため息を吐いて岩壁に額をつける。すると途端に周囲がぐらぐら揺れた。顔を上げると、少し離れたところの岩壁が動き始める。さっき触ってなんの切れ込みもへこみもないと確認した場所が、ズズズズズ……と。動くための仕掛けもない。本当にただの岩なのに、それはなんの引っかかりもなく移動していく。
「おーっす。ってお前、そんなトコでなにやってんの?」
メシだぞ?――盆を持ってそう首を傾げるルナウを呆然と見つめた。




