第10話。ある意味お約束というか……
メシなんてどうでもいい。それよりも今動くべき――そう思った瞬間、ズズズズズ……と音が鳴った。
(ヤバい!)
「あれ? なんで閉じるんだ? って、おい……」
そうのんきに呟くルナウの横を慌てて駆け抜けるが、先程よりも動きが速い!
「クソッ……!」
目の前で元に戻った岩壁に拳を叩き付ける。何度かやったが、土すら零れ落ちない。ただ手が痛むだけだった。
「あ-……」
ルナウのなにか察したような声が上がる。
振り返れば、ルナウが口を半分開けて、なんとも言えない顔をしていた。
「……お前、今逃げようとしてた?」
「…………だったらなんだよ」
そう答えれば再び「あー……」と声を上げ、ルナウが首をそらした。そのまま首を左右に振り、「そうだよなぁ……」と呟く。
「ま、メシ食え。メシ」
何故か床から土がせり上がり、台ができる。そこにルナウが盆を置いて座った。
他にすることもないし、コイツの前でやれることもない。ついでにメシと聞けば腹が減ったと思ってしまったわけで。
唇を噛み締め、トボトボとルナウの側に行き、座った。
盆の上にあるパンを手に取り、口に入れる。昨日よりも心なしかボソボソしたように感じるパンを噛んでいると、ルナウが「おらよ」と水を盆に置いてくれた。軽く頭を下げ、水でそれを流す。
「暇だよなぁ。こんなところに閉じ込められてやることもないよなぁ……」
同情するルナウの言葉に「お前が言うな」と思いつつも頷いてしまう。
岩壁を調べてみたが、専門家でもない俺が見たところでなにも分からなかった。もう少しやってみたところで先程の様子では例え出口になりそうなものがあっても、すぐに閉じられてしまうだろう。
他にできることは素振りぐらいしかない。だが、一日中そんなこともやってられない。
「俺にどうしろって言うんだよ……」
こう言っちゃなんだが、いっそ死んだ方がマシかもしれない。こういうのを飼い殺しっていうんだろうか。だが俺を飼い殺したところで一体なんになるって言うんだ? それともジワジワ追い詰められて死ぬ姿が見たいのか?
「どうもしなくていいんじゃね?」
「こっちがおかしくなるわ」
「……だよなぁ……」
たはー、と困ったようにルナウが頭を傾ける。
盆に残ったパンを見て「コレ食っていい?」と言いながら手をのばしてくる。途端ゴツッという音とともに「痛っ!」とルナウが頭を押さえた。
(……コイツもこりねぇよな……)
食われる前にパンを取り上げ、噛みちぎった。
ルナウが唇をとがらせてこちらを見てくる。
「そもそも。なんで『どうもしなくていい』んだよ。ってかなんで俺は生きてんだよ」
「まぁそれはメトラのせいかな」
「……メトラの?」
どういう意味だ。
ジロリとルナウを睨めば、「俺を睨んでもしょーがねぇだろ」と言われる。たしかにそうだが、それだけじゃない。
「お前はメトラの手下なんだろ」
「手下じゃねぇ。でも世話になってる」
「同じようなモンじゃねぇか」
「全然違ぇ」
「なにが違うんだよ」
そう言って再び睨めば、ルナウがはぁ……とため息を吐く。
「ま、聞いといてやるよ。
他に聞きたいこととか希望みたいなのはあんのか?」
「……服、洗いたい」
目を丸くしたルナウが首を動かし、「あー……」と呟く。
「……分かった、それも聞いてみる。
じゃ、俺は戻るな。また落とし穴に落とされたくないし」
口を尖らせて言う姿におもわず笑ってしまう。
先程入ってきた壁に盆を持って近付いていく姿を見て、次開いた時に走り込めば出られるか――そう思った時だった。
ルナウの足元が、また開いた。
「! なんでだよ!」
ルナウの悲鳴が遠ざかっていき、落とし穴が閉じる。
何事もなかったかのように元通りになった土を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。




