第4話。誰かが見ている……?
用を済ませてから、急にできた溝をじっと見る。変わらずジャバジャバ流れる水をそっと掬ってみた。濁りもなく、キレイに見える水だ。見ている間に手の中から零れ落ちてしまったので、もう一度掬って嗅いでみる。……先程器に入っていた水同様、なんの匂いもしない。
「……飲めるのか、コレ?」
それなら助かるけど。
もう一度覚悟を決め、掬い直した水を飲んでみる。……うん、普通の水の味だ。どうやら、水の問題は解決できるらしい。ただ……
「溝から汲むの、ちょっと大変だな。もう少し掘ってみるか……?」
そう呟いた途端、またゴゴゴ……とダンジョンが揺れた。
「今度はなんだ?!」
尻餅をついて見回すと、驚くことが目の前で起こっていた。
壁から突起物ができ、一部の溝が消えた。そしてその突起物から、残った溝へと水が落ち始めたのだ。
「…………」
……一体なんなんだ、これは?
ゆっくりと立ち上がり、突起物に近付く。見ると中がえぐれていて、そのくぼみは洗い桶ぐらいの広さと手首から肘ぐらいの深さがある。そこに底まで見えるきれいそうな水がなみなみと入っているが、不思議なことに一部へこんだところから水が溝へと落ちていても、その深さは変わらない。
しばらく見続けていても、それらは消えずに、ずっと変わりなく水を落としていた。
そのくぼみからもう一度水を掬って飲んでみる。……やはり普通の水だ。普通すぎて、逆に気味が悪い。
ため息を吐いて首を振る。頭の中がもう限界だ。とりあえずなにかできること――そうだ、荷物の確認でもしよう。
荷物を開き、外に一つずつ出していく。まずは落ちる前に採っていた鉱石。それから2~3日分の携帯食料と水。火打ち石と火種、怪我した時用の傷薬、ポーション1瓶(良かった、割れてない……)、ロープ、腰にはナイフと採掘用のハンマー、あと剣がある。
(こんなことになるんだったらランタンも……ってあれ?)
よく考えてみれば暗くない。こんな、窓もないどこもかしこも岩だらけの部屋で、不思議と手元が見えるのだ。光源もないのに。
「……? なんでだ?」
首をひねってみても分からない。勿論突然湧いて出た水も、突起物も、さっきの獣人と肉の塊も、全然分からない。
まるでこちらの状態を見て動いているかのようで……。
もう一度首を振り、ため息を吐く。岩肌に近付いて、ナイフを手に持った。
「当てにならないかもだけど、とりあえず今日の印として……」
壁に切り付け、筋を付ける。
当てにならないかもしれない。でも何回寝て起きたかは分かる。時間は分からないけど、そうしないと感覚が本当に分からなくなってしまう。
「……コレが消えてたらもう終わりかもな……」
傷ついた岩肌に、祈るような気持ちで額を当てた。




