第26話。なに? なにが起こったんだ……?!
屈んで土を触る。土がパラパラと当たる平面で、さっき見たのが錯覚だと思えるほどくぼみも盛り上がりもない。
(でもたしかに見た……)
ゴブリンが消えた後、盛り上がっていた土を。そしてそれが消えた様子を。
そんなことができるのはただ一人。
「……メトラ?」
ゴッ……とどこかで重い音が鳴った。いつも聞く、なにかが起こる時の地鳴りとは違う、でも似た音。
「ありがとうな」
そう呟いた途端、足元が激しく揺れ出した。
「うわっ?!」
バランスを崩してとっさに手をつく。
慌てて周囲を見ると、パラパラと端の方で土が落ちていた。頭の上含めてここにはなにもないが、このままではマズイんじゃないか?!
ただ広いだけの場所で逃げ道もない――そんな場所でオロオロしてると、側に人が立った。見上げればバーロンがいる。
ホッとした瞬間、バーロンの見通すような目にドキッとする。
「……なにをした?」
いつもと雰囲気が違う。いや、こんな様子だった時があった。あの時は――……
体がガタガタと震え出し、止められない。目から、涙が勝手にあふれてきた。そうだ……
(怖い……)
怖い。怖い怖い怖い。
目の前でバーロンがふぅとため息を吐き、屈んで近付いてくる。その姿にビクリと体が震えた。
「……怖がらせてごめんよ。
ただ、教えてほしぃ。きみは、なにをした?」
「なにって……」
俺はなにをしただろう? ただ――……
「ただ、メトラに……お礼を」
「お礼?」
「ゴブリンが逃げそうになって急に止まったから。ゴブリンを倒した後、地面を見たら土が盛り上がってて……でもすぐに消えて。今はなにもなくて……メトラかなって思ったら、お礼言わなきゃって……」
思い付くままに話すと、目の前のバーロンの顔がどんどん下がっていった。ついには片手で頭を押さえている。
いつもなら言える「大丈夫か」の言葉も、今は出ない。
そのままバーロンを見守っていると、はあぁぁぁぁぁ……と大きなため息の音が聞こえて、体がビクリと震えた。
「……分かった、うん、すごくよく分かったよ……」
バーロンがゆらりと立ち上がる。
まだ揺れている地面に仁王立ちになると、その手にステッキのようなものが現れた。それを両手で握りしめ――……
「?!」
ガンッ、と床にめり込むほど突き立てる。
途端、揺れが止まった。
「大丈夫かぃ?」
辺りを見回していると、バーロンから何事もなかったように問いかけられる。口を開けたまま頷けば、うんうんと頷かれた。
「で? きみはなんでここに?」
「……起きたらここに……」
「『起きたらここに』? ここにいたのかぃ?」
その言葉に頷けば、バーロンがまたため息を吐いた。
「起きたらここにいて……気付いたらゴブリンが出てきたのかぃ? あとその剣も勝手に?」
うん、とまた頷く。バーロンのため息が大きくなった。
「……戻ろぅか。もうすぐ飯時だしね。
ああ、その剣は持っていくといぃ。きみが持てば、メトラも喜ぶだろぅ」
「え? あ、うん……」
こんな売ればいくらになるのか分からないような剣、俺が持ってていいんだろうか。
(でも『持っていけ』って言われたし……)
「ほら、こっちだよ」
「あ、うん……」
いつも通りのバーロンの後ろを、落ち着かないままに付いていく。ちらりと後ろを振り返るが、もうモンスターが湧いてくる様子もなかった。




