第24話。俺のため? 誰のため?
「も……むり……」
剣が手から落ちた。
拾おうにも、体を曲げた途端に一緒に倒れ込む自信がある。というか、もう立ってさえいられない。
膝から力が抜けて座り込む。そのまま前に手をついて、はぁはぁと息を吐いた。まるで全力で走った時のように息が整わない。
「くるし……」
「あぁー、もぅ。しょぅがなぃなぁ……」
『レヴィア』と聞こえた途端、体が少し楽になった。……だが楽になっただけだ。まだしんどいし、疲れも残ってる。
バーロンを見上げれば、肩をすくめられた。
「なんでも魔法に頼っちゃだめだろぅ?
それより、ちゃんと息しなよ?」
「……してる、だろ……」
「そうじゃぁない。
剣を振る時に息をしろって言ってるんだよぅ。大事だよぅ、呼吸?」
言われた言葉に、ぐぅと息を飲み込む。たしかに力むと息が止まっていたような気がする。
「あくまで自然体に。息を止めて力んだところで、なんにもならないよぅ?
素振りの時から気を付けなぁ」
「…………わかった」
「…………素直だなぁ」
そう言ってバーロンが笑う音がする。
……バーロンが嘘を言ってるとは思わない。それに昔、村の大人からも言われたことがある。
ふぅ、と大きく息を吐くと、「まぁ、こんなもんかなぁ」とバーロンが呟く声が聞こえた。
再びバーロンを見れば、こちらへと歩み寄ってくる。
「今日のお散歩は終わり、ってことさぁ。
もうこれ以上続けるような体力ないだろぅ?」
「……モンスターと戦うのは散歩って言わない」
「まぁ、そうだねぇ」
言い返すと、バーロンがおかしそうにクククと笑った。
「さっきも言ったけど、きみのためさぁ。
まぁ……メトラのためでもあるんだけど……おっとぉ!」
そう言ってバーロンが急に横に飛ぶ。
見ればそこにこぶし大の岩が落ちてきた。……いやいや、ヤバすぎるだろう!
「あぶなぃ、あぶなぃ……」
そう呟きながらバーロンが戻ってくる。だが口調の割に、その表情は楽しそうだ。
首を傾げると、笑みを浮かべながらも首を振られた。
手を差し出されたので、その手を取る。……立ち上がれるぐらいには体力が戻った。
そのまま前を歩き出すバーロンの背中に声をかける。
「……『メトラのため』って、どういうことだ?」
「んー?」と振り返ったバーロンはなんだか楽しそうだ。ニヤニヤしている。
「きみがくさってたり、元気がなぃと心配だってことさぁ……、ぅおっとぉ?!」
突然脇から鋭く尖った岩が突き出てくる。
それをバーロンが紙一重で避けていた。
「あぶなぃなぁ……」と岩を見ながら呟いているが、それをかわせるバーロンがおかしい。それとも……上のランクの人たちは、みんなあんな風にかわせるんだろうか?
「まぁ、今は自分のことだけ考えてればいいさぁ。
明日からも、コレ続くからねぇ」
「マジか……」
がっくりとうなだれれば、「まぁしょぅがなぃねぇ……」とバーロンの笑い声を含んだ声が聞こえてくる。
「まぁ今日はメシ食って振り返って。で、風呂入って寝な」
親か。
そう思ったが、言い返すほどのことでもない。
グッと飲み込んで、バーロンの後を追いかけた。……一瞬逃げようかとも思ったけど、まだ無理だと思った。




