第22話。……対ゴブリン
頭があって腕があって足がある。
獣じゃない。土のような皮膚の色で、人間のように胴体から手足がのびている。だがその腹はひどく膨れ上がっている。上半身は裸、下半身には申し訳程度の布が股間を覆っている。その手にあるのはこん棒か。
「あれは――……」
「ゴブリンだねぇ」
隣に立つバーロンがそう呟く。
ゴブリン――村の近くにも出るヤツだ。大丈夫、倒したことはある。きっと、大丈夫。
背負った剣を抜き、構える。心なしか剣先が揺れていた。
「きみ、まさか……」
あきれたようなバーロンの声がする。
「ゴブリンぐらい、戦ったことがある」
「……だよねぇ」
「一人じゃ、なかったけど……」
「?!」
バーロンが息をのんだ音がする。
悔しくなって、グッと唇を噛みしめた。
(だって仕方ないじゃないか……)
まだモンスターを狩ったり、ダンジョンに潜れるCランクじゃない。
薬草採取や採掘ばっかりで、モンスターが出た時は近くにいるヤツらや行商人の護衛さんたちと一緒に戦ったんだ。俺一人でなんて、遭ったことない。
「……よく動きを見て。
落ち着いてやれば大丈夫だ」
「うん」
バーロンがため息を吐いた後、そう励ましてくれる。それに頷き、深く息を吐いた。
ゴブリンがキョロキョロと辺りを見回し、こちらを見た。
目が、合った。
「ギギギギ……!」
ゴブリンがこっちに走ってくる。口はゆがみ、その目がらんらんと輝いていた。
「…………!」
とっさに一歩下がろうとした時、ドンと体がなにかにぶつかった。
肩にボンと力がかかり、「ヒッ……!」とおもわず声が上がる。
「落ち着け。よく見ろ、焦らなくていい」
「でも……!」
ふぅ……と頭の上でため息を吐く音が聞こえた。
「『レンティオ』」
「ギャッ?!」
数歩先で腕を振り上げていたゴブリンの体がビクリと震える。
ギギギ、とまるできしむ関節を動かしているかのように、体がゆっくりと前に進んでいる。
おもわず振り返ると、バーロンがゆっくりと頷く。
「ゴブリンの動きを遅らせた。
ゆっくりと落ち着いて……一撃で倒してやってくれ」
「……分かった」
グッと手に力を込めると、肩から重みが消えた。
一歩、また一歩とゴブリンに近付く。ゴブリンが血走った目でこちらを見ていた。
「……ごめん」
ずるしてごめん。いや、違うか。俺のために――ありがとう。
呟いた後、一歩分の距離を開けて立ち止まり、剣を振りかぶり……斬り下ろした。
「てやぁ!」
「ッグギヤアアァァァァァ……ッッ!!」
素振りとは違い、途中で抵抗がある。だが体重を乗せて斬り下ろせば、その体が斜めにズレた。
ゴブリンが断末魔の声を上げ――光の粒となって消えた。
剣を握る手にモヤモヤした感じがある。重いような、まだ斬り下ろせていないなにかがあるような、そんな感じだ。
手から震えが伝わり、体までガクガクと震え出す。剣を取り落としそうになった時、
パンパン!
大きな音が響き、体がビクリと震えた。
音がした方を見れば、バーロンが叩いた手をすっと前に伸ばす。つられてそちらを見ればまた、盛り上がった『なにか』が見えた。
「次だ。
……大丈夫、ゆっくりでいい」
息を整えろ。
そうバーロンが言った途端、『なにか』がみるみる大きくなっていった。




