第2話。襲撃
「うまそう……」
おもわずそう呟いた途端、さらに匂いが強くなった気がした。
ゴクリと唾を飲み込み、手を伸ばそうとし……ハッと我に返る。
(もしかしたら丸呑みされるかも……?!)
体を戻し、宝箱から距離を取る。離れて見ても、宝箱は微動だにしない。いや、動く方がおかしいんだけれど。
剣を構え、宝箱を睨み付ける。
どこからか風が流れてきたのか、岩だらけの空間に溶けたバターと「肉焼きました!」という脂の甘い匂いが広がり、体がそれに包まれる。
(ああ、たまらない……!)
食いたい、今すぐ食いたい!
一歩踏み出した時、ふと気付いた。
なんで宝箱の中のかたまり肉がそんな匂いするんだ?
宝箱の中で調理されたのか?
そもそもなんで宝箱の中にかたまり肉があるんだ?
なんで、突然宝箱が現れたんだ?
「……!」
どう考えてもおかしい。
剣の柄をギュッと握りしめる。腹がギュウゥゥゥ……と痛いほど鳴る。口の中がよだれでいっぱいになる。
動くか?! ――そう思った時だった。
「だーっ! かったりぃ! さっさと食えばいいだろうが、このバカが!」
「ぶべっ!」
いらついた声が聞こえたとともに、顔にビタンとなにかが飛んで来た。
ずるり……と顔の上で滑るものを取り上げると、やや小さくなったかたまり肉がある。鼻の横から口に伝ったものをおもわず舐めると、おいしい肉の味がした。胃が早く寄越せと悲鳴を上げてくる。
だが今はそれどころではない。
声がした方向を見れば、先程まで宝箱があった場所に獣人がいた。茶色い三角の耳を後ろに向け、前傾姿勢でこちらを睨み付けている。そしてその手には……
「……なんで皿?」
おもわず呟くと、目の前の獣人が「ああン?!」とすごんできた。
「お前がとっとと食わねぇからだろうが! チクショ、こんな肉……ッ!」
ポトリと。
目の前の獣人の口から雫が落ちる。いやいやいやいや。
「じゃあ食えば?」
「食えねぇから怒ってんだろうが、コラー!」
訳の分からないことを叫び、獣人が消えた。
「?!」
気付くとすぐ目の前に獣人の顔があった。白く整った顔の中に今にも燃え上がりそうな赤い目と噛み締められた唇から鋭い牙が見える。
(ヤバい……!)
勢いのまま体を倒され、かばう余裕もなく頭を打つ。が、何故か体が痛くない。
目の前に獣人。
両腕は膝で押さえられ、逃げられないようにのし掛かられている。
握っていたはずの剣がない!
(ヤバいヤバいヤバいヤバい……ッ!)
敷き藁の上にいるような感触の背中に冷や汗が流れる。
獣人が、腕を大きく振りかぶった
「――――っ、ぐむっっ!!」
口の中になにかが突っ込まれる。
息ができない。舌に触れるこの柔らかい感触、そして鼻に抜ける甘く幸せな匂いは――
体を抑えていた重みがなくなる。ふわふわとかすんでいく意識の中で「落ちたヤツは食っちまってもいいよな?」という声を聞いた気がした。




