第1話。……どうしてこうなった?
……今日で何日経ったんだろう?
壁を削って線を引いていたのに、いつの間にかそれが消えている。
元々岩で囲まれた場所だ。昼夜の区別なんてつくはずもなく、眠くなったら寝、目が覚めたら起きる生活をしている。そんな状態で正確な時間なんて分かるわけがないし、時間が分かるような、そんないい値段のするアイテムを買う余裕なんてない。
だから例え石やナイフで削ったはずの線が残っていたとしても、分からない。だが……
「引いた線が5本なんてことはないだろ……」
そんなの、いくらなんでも挫折が早すぎる。
勿論、飽きたり挫折したわけじゃない。思いついて何回削ったところで、気付くと5本に戻っていた。それに気付いた段階で、諦めた。
欲を出さなきゃ今頃は――そんな無駄な考えを、頭を振って放り投げる。
ため息を吐いた後に顔を上げた。
見えるものは岩岩岩。どこを見ても岩。しかも出口なんてない。でもちゃんと息はできるし、水もある。メシはいつもパンと肉だけど、何故かある。閉じ込められている割にはいいのかもしれない。でも出られない。
もうどれぐらいの時間が経ったのか本当に分からない。
分かることはただ一つ。
俺は――潜り込んだダンジョンに閉じ込められていた。
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俺の名前はクリフ。緑が濃くなる薫風月に17歳になった。
15歳で村を出て冒険者になり、今はログ・メトラのダンジョンに潜っている。
ログ・メトラは険しく高い山々が連なるガル・ルダ高地にあるダンジョンだ。鉱石採取の依頼が冒険者ギルドに貼ってあり、そのためにここにやってきた。
依頼は達成したが、ついでに自分の武器も――そんな欲を出して再度潜ったのが運の尽き。
山岳地帯にあるダンジョンなだけあって、3階層程度でも鉱石が豊富に採れる。機嫌良く掘ってカバンに入れて、さあ帰ろうとしたら――手をついた壁に穴が開いた。
「はぁ?!」
驚いているうちに体はどんどん穴から落ちていく。元いた通路から「おい、誰か落ちたぞ!」とかいう声が聞こえたが、あっという間に聞こえなくなる。
どんどん落ちて、どんどん落ちて、途中で気を失って……気がついたら岩だらけの部屋で目が覚めた。
「……ッ、おーい! 誰かー!」
声を上げたり、壁という壁を調べてみたり、叩いてみたり、採った鉱石を投げ付けてみたり。
思いつく限りのことをやってみたけど、なにも変わらない。
「嘘だろ……?」
欲張ってダンジョンに潜ったから? でも3階層ぐらい誰でも入っていたし、近くには他にも同じような冒険者たちもいた。今までだって壁を触ったことだってある。なのに、誰が壁に穴が開いて落ちるだなんて思う?
「俺、ここで死ぬのかな……」
このままここで一人飢えて死んで、ダンジョンに食われるんだ――そう思うと涙が出てきた。
体に気を付けろと送り出してくれた両親。近所のおじさんたち、幼なじみで妹分のマーヤ。みんなにはもう会えないんだ。
考え出すと涙がボロボロ出て、鼻水も出てくる。袖をぐしょぐしょに汚しながら泣いていても、体は正直だった。
グーッと腹が鳴る。
「おなかすいたな……」
そう呟いた途端、ゴゴゴゴゴ……と山鳴りのような音が鳴った。ビックリして辺りを見回すと、いつの間にか部屋の一角が開いている。そして何故かそこに鎮座している宝箱。
「え、なんで急に宝箱?! さっきまでなにもなかったじゃん!」
おもわず叫んだが、罠としか思えない。
じっと見ていると、何故か宝箱の蓋がパカリと開いた。
「なんで勝手に開くんだよ?!」
でも急に漂ってきた、空腹を煽るようなこの匂いは……
「いたたたたた!」
グルグルグルグルと、まんまと煽られた腹が痛いほどに音を立てる。
この匂い、知ってる。前に通ったウィンド・ブレイクの町にあるレストランで……。
ゴクリと唾を飲み込み、立ち上がる。
おそるおそる剣を構えて近付くが、なんの気配も感じない。
ビクビクしながらその中をのぞき込めば、そこには信じられないものがあった。
「なんで宝箱にこんなものが……?」
もう一度のぞくが中身は変わらない。
そこには――こんがりと焼けた、かたまり肉が入っていた。
「うまそう……」
口の横から垂れたよだれが宝箱の床に落ちた。
本日は3話更新予定です。しばらく毎日更新していきます




