第14話。『初対面』とは
呆気に取られていると、目の前の男が下げた頭を戻す。
手に持っていた高さのある帽子を頭にかぶり、手にした杖に寄りかかった。
「少年? 言葉を忘れたのかぃ?」
じゃあその口はいらないねぇ――そう言って杖を掲げる姿に慌てて「待て!」と叫ぶ。
その声に、「おや?」と口にした男は、ニヤニヤとした様子でこちらを見てきた。
「なにを待つんだぃ? 待ったらなにがあるんだぃ?」
おもしろいものだといいねぇ。
そう言って笑う男に内心焦りつつ、口に出した。
「アンタ誰だ」
「……口が悪ィねぇ、少年。最初はなんて言うんだぃ?」
はじめまして、だろ?
目の前でやれやれと肩をすくめられる。
そんな素振りにだまされるわけもない。コイツは――ヤバい。多分ルナウより強い。
視線を動かし、武器になりそうなものを探す。なにもない。剣は遠く、今いる地面もツルツルしていて石の一つもない。壁から岩をはがそうにも、そうする間におそらくやられる。
背中を、汗が伝い落ちる。目の前には口の端をゆがめてこちらを見る、杖を持った自分よりも強い男。対して自分は武器どころか身を守るものもなにもない。この場で動いているのは溝の水だけだが、飛び込むほどの幅もない。
(父さん、母さん、ごめん……!)
体に気を付けるようにと言ってくれた両親。
村を出る日に母さんの目元が赤くなっていたのを、気付かないふりをした。意識すると、つられて泣きそうだったから。
マーヤ。村を出る日、真っ赤にした顔で、薬草をいっぱい入れた袋を押し付けられた。
他にも村のみんなが声をかけてくれた。干し草を卸しに行くヤンさんは、分かれ道まで荷台に乗せてくれた。
次々に今までのことが頭に浮かんだ。これが――よく聞く「死ぬ間際」ってやつなんだろうか?
男が首を少し傾げた。必死に抑えようとしても、体は勝手にガタガタと震え出す。
(もう――無理だ)
そう思った瞬間、目の前に男が立っていた。その腕が上がる。のけぞる間もなく――頬を引っ張られた。
「……ふぇ?」
「さ・い・しょ・は・な・ん・て・言・う・ん・だ・ぃ?」
目を丸くするが、男の顔は離れない。それどころか、一層頬を横に引っ張られる。
「~~~~ッ! いひゃいいひゃいいひゃい!!」
「挨拶もできないのかぃ、少年? 里の親御さんが泣くよぅ?」
挨拶できない子は鬼に食われてしまうよぅ? とか言ってるけどなんの話か分からない。
とにかく、痛い!
「はっ、はじめましてっっ!!」
あまりの痛さに目の端から涙がこぼれる。うんうんと男が頷き、「うん、合格」と言って手を離した。
「~~~~ッ!」
ジンジンと痛む頬を押さえて屈み込むと、「大丈夫かぃ?」と布を差し出される。
涙目で睨んだ。
(誰のせいだよ……!)




