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ダンジョンコアに懐かれた結果、外に出られなくなりました  作者: 末野愛


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12/28

第12話。だから干し場がないって

(ホントなんで……)


 はぁ……とため息を吐いて、おそるおそる振り返った。

 そこには広場にある噴水のような囲いがあった。ただ、噴水より囲いが高く――

 一歩そちらに近付くと、噴水から水が噴き出る。ジョボジョボと囲いの内側に水が次々と落ち、やがてそこから湿気を含んだ温かい空気が広がった。

 水の音が変わる。

 ボチャンボチャンと雨の降り始めのような音がしていたものが、ビチャビチャという音に変わる。溜まった水に、水が落ち続ける音だ。

 噴水が止まる。

 静かになった囲いに近付けば、もわもわと湿った空気が体にまとわりついた。水に触れると――温かい。湯だ。


「……これで服を洗えってか?」


 服を洗うにしては大げさなものだ。大きすぎるし、なにより干し場がない。

 こんな岩に囲まれた場所でいつ洗った服が乾くというのか。


 はぁ、とまたため息が漏れる。

 昨日、突然この噴水ができた。できたことに驚き、水が噴き出たことに驚き、それが湯だったことにも驚いた。

 煮て食われるのか――そう思い、周囲を警戒したがなにも起こらない。リュックから干し肉を取り出し、ちぎったそれを入れてみた。……なにも変わらなかった。慎重に湯に触れてみても温度が変わることもなかった。

 煮られないのか。いやもしかすると、油断した途端に鍋の中のようにグラグラ言い出すのかもしれない。

 距離を取って見ていると、囲いからゴボゴボと音がした。


(やっぱり……!)


 慌てて見に行くと、予想とは違うことが起こっていた。

 煮えたのではない、湯がなくなっていた。

 空になった噴水の中に入り、残っていた干し肉のかけらを拾い上げる。匂いを嗅いだ後にかじってみると……柔らかくなっていたが、味がなくなっていた。

 そして今日も、囲いの中に湯が満ちる。水面は噴水が止まった今も揺らぎ、のぞき込んだ自分の顔がゆらゆらと揺れている。

 眉を寄せて眺めていると――


「うわっ! ッ、……!!」


 突然背中が押され、囲いの中に落ちた。

 慌てて起き上がり、ゴホゴホと咳き込む。


「なんッ、だよ、一体……!」


 咳き込みながら見回すが、なにもない。もちろん誰もいない。

 一体誰に押されたというのか。

 そしてそれよりも。


「……ビチャビチャだ」


 川に落ちた時みたいに、全身びしょぬれになった。

 何度目かになるため息を吐いて、湯に潜った。ここまで濡れたのならもう一緒だろう。


(煮られて死ぬならそれまでってことだ……!)


 どうせならひと思いで殺されたいが。せめてもの嫌がらせでまずくなるように水浴びでもしてやる。

 水に潜って、頭をわしわしとかきむしる。張り付いて気持ち悪い服や靴を脱いで、囲いの上に置く。いつまで経っても煮立たない湯は意外に気持ちよく、うつらうつらと目が重たくなってくる。

 カクンと頭が揺れ――……その後の、記憶がない。


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