第12話。だから干し場がないって
(ホントなんで……)
はぁ……とため息を吐いて、おそるおそる振り返った。
そこには広場にある噴水のような囲いがあった。ただ、噴水より囲いが高く――
一歩そちらに近付くと、噴水から水が噴き出る。ジョボジョボと囲いの内側に水が次々と落ち、やがてそこから湿気を含んだ温かい空気が広がった。
水の音が変わる。
ボチャンボチャンと雨の降り始めのような音がしていたものが、ビチャビチャという音に変わる。溜まった水に、水が落ち続ける音だ。
噴水が止まる。
静かになった囲いに近付けば、もわもわと湿った空気が体にまとわりついた。水に触れると――温かい。湯だ。
「……これで服を洗えってか?」
服を洗うにしては大げさなものだ。大きすぎるし、なにより干し場がない。
こんな岩に囲まれた場所でいつ洗った服が乾くというのか。
はぁ、とまたため息が漏れる。
昨日、突然この噴水ができた。できたことに驚き、水が噴き出たことに驚き、それが湯だったことにも驚いた。
煮て食われるのか――そう思い、周囲を警戒したがなにも起こらない。リュックから干し肉を取り出し、ちぎったそれを入れてみた。……なにも変わらなかった。慎重に湯に触れてみても温度が変わることもなかった。
煮られないのか。いやもしかすると、油断した途端に鍋の中のようにグラグラ言い出すのかもしれない。
距離を取って見ていると、囲いからゴボゴボと音がした。
(やっぱり……!)
慌てて見に行くと、予想とは違うことが起こっていた。
煮えたのではない、湯がなくなっていた。
空になった噴水の中に入り、残っていた干し肉のかけらを拾い上げる。匂いを嗅いだ後にかじってみると……柔らかくなっていたが、味がなくなっていた。
そして今日も、囲いの中に湯が満ちる。水面は噴水が止まった今も揺らぎ、のぞき込んだ自分の顔がゆらゆらと揺れている。
眉を寄せて眺めていると――
「うわっ! ッ、……!!」
突然背中が押され、囲いの中に落ちた。
慌てて起き上がり、ゴホゴホと咳き込む。
「なんッ、だよ、一体……!」
咳き込みながら見回すが、なにもない。もちろん誰もいない。
一体誰に押されたというのか。
そしてそれよりも。
「……ビチャビチャだ」
川に落ちた時みたいに、全身びしょぬれになった。
何度目かになるため息を吐いて、湯に潜った。ここまで濡れたのならもう一緒だろう。
(煮られて死ぬならそれまでってことだ……!)
どうせならひと思いで殺されたいが。せめてもの嫌がらせでまずくなるように水浴びでもしてやる。
水に潜って、頭をわしわしとかきむしる。張り付いて気持ち悪い服や靴を脱いで、囲いの上に置く。いつまで経っても煮立たない湯は意外に気持ちよく、うつらうつらと目が重たくなってくる。
カクンと頭が揺れ――……その後の、記憶がない。




