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冤罪で追放された異世界帰還者、拾った神猫と田舎でS級モンスター料理配信を始めたら、俺を捨てた連中が勝手に曇っていく  作者: さくらろ


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9/19

第9話 掲示板回:追放者、実は有能説

【田舎飯】例の神猫配信、見てるやついる?【異世界帰還者?】


1:名無しの視聴者

最近おすすめに流れてくる田舎の料理配信、なんなんだあれ。

猫がかわいい。


2:名無しの視聴者

どれ?


3:名無しの視聴者

納屋みたいなとこでモンスター肉焼いてるやつ。

角兎の味噌焼きと牙猪の生姜焼きでバズった。


4:名無しの視聴者

あー、見た。

飯テロすぎて深夜に米炊いた。


5:名無しの視聴者

猫がかわいい。


6:名無しの視聴者

猫の話しかしてないやついるな。


7:名無しの視聴者

いや猫が本体だろ。

あの白い猫、絶対ただの猫じゃない。

配信中に魚の焼き加減を前足で止めてたぞ。


8:名無しの視聴者

神猫ミコト様な。

名前覚えろ。


9:名無しの視聴者

あの配信者、元《暁の剣》の追放者らしいぞ。


10:名無しの視聴者

は?


11:名無しの視聴者

暁の剣って黒瀬蓮がリーダーの大手攻略者チームだよな。

テレビにも出てる。


12:名無しの視聴者

追放者が田舎で料理配信?

情報量が多い。


13:名無しの視聴者

名前、神代悠真だっけ。

昔、暁の剣にいた雑用係みたいなやつ。


14:名無しの視聴者

雑用係が氷結トラウトさばけるのかよ。


15:名無しの視聴者

氷結トラウトって廃坑系ダンジョンの冷水層に出るやつ?

素人が触ったら指持ってかれる魚だろ。


16:名無しの視聴者

そうそう。

なのに昨日の配信で塩焼きにしてた。

皮パリッパリ、身ふわっふわ。

コメント欄が「米」「酒」「村どこ」で埋まってた。


17:名無しの視聴者

あの回やばかった。

焼いてる途中で脂が炭に落ちて、じゅって音した瞬間、俺の腹も鳴った。


18:名無しの視聴者

村のじいちゃんが「これは魚じゃな」って真顔で言ってたのよかった。


19:名無しの視聴者

配信者本人、ずっと「普通に焼いただけです」みたいな顔してるの怖い。


20:名無しの視聴者

あいつ、冤罪で追放されたって噂あるぞ。


21:名無しの視聴者

はいはい、また信者の妄想。


22:名無しの視聴者

黒瀬さんが追放するってことは相応の理由があったんだろ。

暁の剣に迷惑かけたやつを持ち上げんなよ。


23:名無しの視聴者

黒瀬ファン来た?


24:名無しの視聴者

別にファンじゃないけど、問題起こしたから追放されたんじゃないの?

今さら田舎で猫使って好感度稼ぎとか、ちょっとね。


25:名無しの視聴者

猫使って好感度稼ぎは草。

猫に使われてる側だろ、あれ。


26:名無しの視聴者

ミコト様「悠真、火が強い」

悠真「はい」

完全に上下関係できてる。


27:名無しの視聴者

コメント欄は平和なのに掲示板はすぐこうなるな。


28:名無しの視聴者

配信コメント欄

「おいしそう!」

「猫かわいい!」

「村のおばあちゃん元気?」

「通販まだ?」


掲示板

「追放の真相がー」

「黒瀬がー」

「猫が本体」


29:名無しの視聴者

最後だけ同じじゃねえか。


30:名無しの視聴者

料理技術が異常すぎるのはガチ。

牙猪の解体、見たやついる?

あれ普通の猟師でも無理だろ。


31:名無しの視聴者

包丁の入り方が綺麗すぎる。

血抜きも早いし、臭み消しも最低限。

なのに肉の旨味だけ残してる。


32:名無しの視聴者

でも料理人なんだろ?

異世界帰還者なら珍しくないんじゃね?


33:名無しの解体士

横からすまん。

珍しくないわけがない。


34:名無しの視聴者

なんか来た。


35:名無しの視聴者

自称専門家?


36:名無しの解体士

自称でいい。

俺は解体場勤務十七年。地球産の獣も、ダンジョン個体も扱ってる。

あの神代って人の手元、普通じゃない。


37:名無しの視聴者

具体的に頼む。


38:名無しの解体士

まず角兎。

角の根元に魔力の芯がある。雑に抜くと肉に苦味が回る。

配信では、ほぼ迷いなく芯の外側だけ切っていた。

あれは個体差を見て刃を入れないとできない。


39:名無しの視聴者

へー。


40:名無しの解体士

牙猪も同じ。

牙猪は肩の筋膜が硬い。力任せにやると肉が裂けて食感が落ちる。

神代氏は刃を寝かせて、筋膜だけを剥がしていた。

しかも配信しながら、村のおばあさんに味噌の量を聞きながら。


41:名無しの視聴者

あれ雑談しながらやってたよな。


42:名無しの解体士

普通は無理。

集中しても難しい。

さらに氷結トラウトはもっと異常。


43:名無しの視聴者

魚も?


44:名無しの解体士

氷結トラウトは死後硬直が早い。

内臓に冷気袋があって、破ると身が水っぽくなる。

配信では腹を開く角度が完璧で、冷気袋に触れていない。

それどころか、袋の冷気を利用して身の温度を保っていた。


45:名無しの視聴者

なにそれプロすぎん?


46:名無しの解体士

プロでもそこまでやる人は少ない。

俺なら店で出す前提でも緊張する。

あの人は「今日は塩がいいですね」くらいの顔でやっていた。


47:名無しの視聴者

追放者、実は有能説。


48:名無しの視聴者

いや有能どころじゃなくない?


49:名無しの視聴者

でも暁の剣では雑用だったんだろ?


50:名無しの解体士

雑用という言葉の範囲がわからん。

ただ、あのレベルの処理ができる人間がパーティにいたなら、食料管理、素材管理、傷薬の材料処理、魔力汚染の除去まで任せられる。

攻略効率がかなり変わるはず。


51:名無しの視聴者

つまり、縁の下の力持ち?


52:名無しの解体士

縁の下どころか、土台。


53:名無しの視聴者

黒瀬さんたちが強かったのって、神代がいたからってこと?


54:名無しの視聴者

決めつけはよくない。

でも抜けた後の暁の剣、最近ちょっと荒れてるよな。


55:名無しの視聴者

この前の配信で黒瀬、顔色悪かった。

白鳥玲奈もずっと黙ってたし。


56:名無しの視聴者

玲奈さんは何か気づいてそう。


57:名無しの視聴者

おいおい、妄想で現役チーム叩くなよ。

神代が本当にすごいなら、なんで今まで表に出なかったんだよ。


58:名無しの視聴者

本人が表に出る気なさそうだからでは。


59:名無しの視聴者

料理配信も、バズりたい感じじゃないよな。

毎回、村の人に食わせるのが先。

コメント読み上げも莉子って女の子が横から教えてる感じ。


60:名無しの視聴者

莉子ちゃん有能。

昨日も変なコメント拾わずに「焼き上がりの音、入ってますか?」って流してた。


61:名無しの視聴者

あの管理役いなかったら、悠真ぜんぶ真正面から返事しそう。

「冤罪ですか?」って聞かれて「ええと、飯が冷めます」って言いそう。


62:名無しの視聴者

言いそうで草。


63:名無しの視聴者

黒瀬側が暴露動画出すって噂あるぞ。


64:名無しの視聴者

またか。


65:名無しの視聴者

タイトルだけ見た。

「追放者・神代悠真の真実」みたいなやつ。

サムネが黒背景で赤文字。


66:名無しの視聴者

古い。


67:名無しの視聴者

でも伸びるんだよな、そういうの。


68:名無しの解体士

もし動画で「料理しかできない無能」と言うなら、業界の人間は笑うと思う。

料理しかできないのではなく、危険素材を食材に変えられる。

これは攻略後方職として最高峰の技能だ。


69:名無しの視聴者

専門家砲きた。


70:名無しの視聴者

気持ちいいな。


71:名無しの視聴者

ていうか、あの猫もやばい。

ミコト様、氷結トラウトが跳ねた瞬間に尻尾で桶押さえてたぞ。

猫か?


72:名無しの視聴者

神猫だって言ってんだろ。


73:名無しの視聴者

結論

・悠真は料理がうまい

・解体技術が異常

・猫が本体

・村人が幸せ

これでよくない?


74:名無しの視聴者

よい。


75:名無しの視聴者

米炊いてくる。



 俺は、その掲示板を見ていなかった。


 正確に言うと、存在は知っていた。莉子さんが「今、悠真さんの名前でスレ立ってます」と難しい顔をしていたからだ。


 ただ、俺の手はそれどころではなかった。


 大鍋の中で、牙猪の骨から取ったスープが白く濁っている。そこに氷結トラウトのアラを少しだけ加えると、獣の太い旨味に、冷たい川みたいな澄んだ香りが重なった。


「悠真、灰汁」


「はいはい」


 ミコトが作業台の上で尻尾を振る。俺はお玉で灰汁をすくい、味見用の小皿にスープを落とした。


 納屋キッチンの外では、村の人たちが折りたたみ椅子を並べている。今日の配信は、限定メニューの試作だった。氷結トラウトの塩焼きで村に客が来るようになってから、ばあちゃんたちが張り切ってしまい、「汁物もあったほうがいい」と言い出したのだ。


 ありがたい話だった。


 俺が追放されたとか、冤罪だとか、誰が何を言っているとか。


 そういうものから一番遠いところで、鍋は静かに湯気を上げていた。


「悠真さん、コメント欄は今のところ平気です」


 スマホを確認していた莉子さんが言う。


「平気じゃないときもあるのか?」


「あります。なので見なくていいです」


「そうか」


「本当に見なくていいです」


 念を押された。


 俺は苦笑しながら、刻んだ山菜を鍋に入れた。香りが一段明るくなる。ミコトが鼻をひくひくさせ、満足そうに目を細めた。


「うむ。悪くない」


「それはよかった」


 配信画面の向こうでは、コメントが流れている。


『湯気だけでうまい』

『音がずるい』

『ミコト様チェック入りました』

『村の人たちの器かわいい』

『今日も平和で助かる』


 莉子さんはその中から、料理の質問だけを拾って俺に渡してくれる。塩の量、魚の下処理、牙猪の臭み抜き。俺は答えられる範囲で答えた。


 そのとき、莉子さんのスマホが震えた。


 配信用とは別の、私物のほうだ。


 画面を見た瞬間、莉子さんの顔色が変わった。


「……悠真さん」


「どうした?」


「村の子が一人、いないそうです」


 納屋の空気が、すっと冷えた。


 外で椅子を並べていた村長が、こちらに駆け寄ってくる。息が荒い。額に汗がにじんでいた。


「悠真くん、すまん。蒼太が、廃坑のほうへ行ったかもしれん」


「廃坑?」


 俺は火を弱めた。


 廃坑は、ついこの前から様子がおかしくなっている。内部に冷気が溜まり、ダンジョン化の兆候が出ていた。氷結トラウトが出たのも、そのせいだ。


 子供が入っていい場所ではない。


「いつからですか」


「夕方から姿が見えん。母親が探しとったんだが、友達が言うには、光る石を見に行くって……」


 莉子さんがすぐに配信端末を手に取った。


「悠真さん、配信を切ります。説明は私が」


「いや」


 俺は壁に掛けていた上着を取った。包丁を置き、代わりに古い鉈とロープを腰に下げる。


 ミコトが作業台から音もなく飛び降りた。


「悠真、急げ。風が変わった」


 その一言で、迷いは消えた。


 莉子さんが配信停止のボタンを探す。けれど手が震えているのか、画面が切り替わらない。コメント欄がざわつき始めた。


『え、なに?』

『廃坑?』

『子供って聞こえた』

『悠真さん?』

『ミコト様が本気の顔してる』


「莉子さん、村の人に入口を塞がないよう伝えてください。あと救急と役場に連絡。誰も中に入れるな、と」


「はい!」


「配信は」


 切っている暇がなかった。


 俺はスマホがまだこちらを映しているのを横目で見た。湯気の上がる鍋。並んだ器。心配そうな村人たち。そして、廃坑へ向かって走り出す俺とミコト。


 コメント欄が一気に流れる。


『待って』

『配信ついたまま』

『救助?』

『無事でいて』

『悠真さん、行って!』


 夜の山道へ踏み出した瞬間、冷たい風が頬を打った。


 廃坑の奥から、かすかに魔力の匂いがする。


 俺は息を吸い、走る速度を上げた。


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