第21話 掲示板回:村を見に行くな
【緊急】田舎のモンスター食堂、廃坑ダンジョン危機らしい【行くな】
1:名無しの視聴者
田舎のモンスター食堂のコミュニティ見た?
配信停止、村への来訪禁止、場所詮索禁止って出た。
2:名無しの視聴者
見た。
文面が莉子さんっぽい。
めちゃくちゃ冷静。
3:名無しの視聴者
廃坑ダンジョンの魔素流出って何?
4:名無しの視聴者
水源に影響出てるらしい。
村側の沢が危ないとか。
5:名無しの視聴者
やばいじゃん。
6:名無しの視聴者
現地行って手伝おうかな。
7:名無しの視聴者
やめろ。
8:名無しの視聴者
絶対やめろ。
9:名無しの視聴者
コミュニティに「来訪は救助活動の妨げになります」って明記されてるだろ。
10:名無しの視聴者
野次馬が一番邪魔。
11:名無しの視聴者
でも心配なんだよ。
12:名無しの視聴者
心配なら自治体の支援窓口が出るまで待て。
場所特定ゲームするな。
13:名無しの視聴者
莉子さん、コメント欄の固定に
・村名を書かない
・推測地名を書かない
・切り抜きで位置情報を出さない
・支援物資は公式窓口まで待つ
って書いてる。
14:名無しの視聴者
有能。
15:名無しの視聴者
悠真は今何してるんだ?
16:名無しの視聴者
避難所で汁粥作って、沢見て、廃坑浅層入ったっぽい。
17:名無しの視聴者
情報量。
18:名無しの視聴者
料理人の動きじゃない。
19:名無しの元探索者
いや、上位の後方支援ならかなり理にかなってる。
水源汚染は戦闘職だけでは止められない。
20:名無しの視聴者
また専門家。
21:名無しの元探索者
魔素汚染は、倒せば終わりじゃない。
死骸、血、水、灰、風向き、避難者の体調、食事。
全部見ないと広がる。
22:名無しの視聴者
つまり神代案件?
23:名無しの元探索者
神代みたいな人間が一番必要な場面。
戦闘できる料理人というより、危険物を生活に戻す技術者。
24:名無しの視聴者
危険物を生活に戻す技術者、いい表現。
25:名無しの視聴者
でも本人は「飯作ってます」って言いそう。
26:名無しの視聴者
言う。
27:名無しの視聴者
ミコト様は?
28:名無しの視聴者
浅層で結界張ったらしい。
調査班の人が匿名で「白い神獣に助けられた」って書いてた。
29:名無しの視聴者
匿名の意味。
30:名無しの視聴者
ミコト様、神獣なのにおにぎり小さいって文句言ったらしいぞ。
31:名無しの視聴者
安心した。
32:名無しの視聴者
神獣でもおにぎりサイズに不満を持つ。
33:名無しの視聴者
黒瀬はどうなった?
34:名無しの視聴者
集会所で物資運んでるって噂。
35:名無しの視聴者
え、黒瀬蓮が?
36:名無しの視聴者
水と簡易トイレ運搬。
37:名無しの視聴者
皮肉とかじゃなく、今はそれが必要。
38:名無しの視聴者
因果応報としては地味だけど、効くな。
剣じゃなくて荷物持てって言われるの。
39:名無しの視聴者
白鳥玲奈は治癒手伝ってるらしい。
40:名無しの視聴者
玲奈さん、立て直してほしい。
やったことは消えないけど。
41:名無しの視聴者
神代が「謝罪は受け取るけど戻らない」って言ったの、よかった。
42:名無しの視聴者
過去に勝つより村の水守る方が大事ってやつ。
43:名無しの視聴者
今北産業。
44:名無しの視聴者
村の水源が危ない
悠真が飯と処理で動いてる
現地行くな
45:名無しの視聴者
わかりやすい。
46:名無しの視聴者
支援窓口まだ?
47:名無しの視聴者
自治体とダンジョン庁が調整中らしい。
勝手に物送るなって。
48:名無しの視聴者
莉子さんの固定コメント、どんどん増えてる。
49:名無しの視聴者
「善意で村の場所を探す行為も、村の負担になります」
強い。
50:名無しの視聴者
ほんとそれ。
51:名無しの視聴者
田舎のモンスター食堂、飯テロチャンネルだったはずなのに、村の危機管理チャンネルになってる。
52:名無しの視聴者
でも根っこは同じじゃない?
食べる場所を守ってる。
53:名無しの視聴者
いいこと言うな。
54:名無しの視聴者
ミコト様の安全祈願画像作った。
55:名無しの視聴者
場所特定につながらないやつなら貼れ。
56:名無しの視聴者
猫のシルエットにおにぎり。
57:名無しの視聴者
かわいい。
58:名無しの視聴者
祠って情報出てる?
59:名無しの視聴者
未確認。古い水守りの祠が関係してるかも、くらい。
60:名無しの視聴者
供物とかそういうやつ?
61:名無しの視聴者
祠に何か食わせる展開ある?
62:名無しの視聴者
神代ならダンジョンの主にも飯出しそう。
63:名無しの視聴者
ありそうで困る。
64:名無しの元探索者
冗談に見えるけど、供物や魔素の流れを「食わせる」「抜く」と捉えるのは古い結界処理では実際ある。
倒すだけだと水脈が壊れる場合がある。
65:名無しの視聴者
つまり、本当に飯で解決する可能性?
66:名無しの元探索者
飯というか、処理。
でも神代なら飯に見えるだろうな。
◇
莉子さんは、カフェ・こもれびのカウンターでノートパソコンを開いていた。
店内には、避難してきた人たちの毛布が並んでいる。テーブルは壁際に寄せ、床に座れる場所を作った。厨房では、村のおばあさんたちが交代で湯を沸かしている。
コーヒーの香りは、今日は薄い。
代わりに、ほうじ茶と味噌汁の匂いがした。
「地名コメント、また削除」
莉子さんは淡々と作業する。
外から見れば、ただのコメント管理かもしれない。
でも、今の彼女が守っているのは村の住所であり、避難者の静けさであり、明日の復旧の余力だった。
スマホには、悠真から短い連絡が入っている。
『浅層確認終了。水脈分岐あり。戻る』
その一文だけで、莉子さんは息を吐いた。
「戻るって書いてる。よし」
隣で蒼太の母親が湯飲みを配っていた。
「神代さんたち、大丈夫ですかね」
「大丈夫とは言い切れません。でも、戻るって書いたなら戻ります」
莉子さんはそう答えた。
自分にも言い聞かせるように。
カフェの隅では、蒼太がミコト用に持ってきた煮干しの袋を握りしめている。もう何度も開けたり閉じたりして、袋の角が柔らかくなっていた。
「ミコト、食べるかな」
「食べるよ。文句を言いながら」
莉子さんが言うと、蒼太は少し笑った。
その笑顔を守るために、コメント欄から余計なものを消す。
地味な作業だ。
けれど、必要な作業だった。
集会所の方では、黒瀬蓮が水の段ボールを運んでいた。
最初のうちは、誰も彼に声をかけなかった。
村の人たちは彼が誰なのか知っている。
神代悠真を追い詰めた相手だと、知っている。
それでも、段ボールが重そうに傾いた時、村のおじいさんが無言で反対側を持った。
「そこ、段差あるぞ」
「……ありがとうございます」
黒瀬は小さく言った。
その声が、本人にも不自然に聞こえた。
誰かに礼を言うことに、こんなに力がいるとは思わなかった。
剣を振る方が簡単だった。
前に立って称賛される方が、ずっと慣れていた。
だが今、必要なのは段ボールを落とさないことだった。
玲奈は処置場所で、負傷者の手を握っていた。
治癒魔法を使いすぎないよう、佐伯さんから制限されている。だから彼女は、呼吸を合わせること、体勢を変えること、悠真が作った粥を飲めるように支えることに集中した。
「少しずつで大丈夫です」
調査員が粥を飲み、汗をかく。
黒い汗が薄くなる。
玲奈はその様子を見て、昔の自分を思い出す。
悠真のスープを飲んだあと、体の奥から戻ってくる感覚。
治癒魔法だけでは、届かない場所がある。
今なら、それがわかる。
深夜。
悠真たちが廃坑から戻った。
集会所の戸が開いた瞬間、冷たい風と黒水の匂いが入り込む。
だが、その中に米と味噌の匂いも混ざっていた。
悠真の手には、泥で汚れた空の布包み。
ミコトは肩の上で不機嫌そうにしている。
「おにぎりが小さかった」
第一声がそれだった。
蒼太が駆け寄り、煮干しの袋を差し出す。
「ミコト、おかえり」
ミコトは袋を見て、ようやく少し機嫌を直した。
「うむ。ただいまである」
莉子さんは、悠真の顔を見た。
疲れている。
でも、立っている。
「状況は」
「水脈分岐を一時処理しました。奥に祠へ続く旧道があります。たぶん、そこが根本です」
佐伯さんが続ける。
「次は中層です。朝を待って、本格隊を組みます」
悠真は頷いた。
その前に、彼は台所へ向かった。
「まず、戻った人の分を温め直します」
誰も止めなかった。
掲示板では、まだ人々が議論している。
だが、村の夜は画面の外にあった。
鍋の蓋が開き、湯気が上がる。
その白い湯気だけが、黒水の匂いを少しずつ押し返していた。




