第15話 掲示板回:雑用って何だったんだ
【検証】暁の剣の攻略配信、何がまずかった?【状態異常】
1:名無しの視聴者
昨日の暁の剣の攻略配信見たやついる?
2:名無しの視聴者
見た。
黒瀬は強かった。
でも配信としては地獄だった。
3:名無しの視聴者
最速突破って言って中断はきつい。
4:名無しの視聴者
でも灰刃蜥蜴は倒してたぞ。
戦闘力はやっぱ本物。
5:名無しの視聴者
そこは誰も否定してなくね?
問題は倒したあと全員状態異常になったこと。
6:名無しの視聴者
倒したのに負けた感あった。
7:名無しの視聴者
黒瀬ファンだけど、昨日は見てて怖かった。
玲奈さんが休憩って言った時点で止まってほしかった。
8:名無しの視聴者
携帯食かじってるところから空気悪かったよな。
あれでB級中層行くの?
9:名無しの視聴者
高級携帯食らしいぞ。
10:名無しの視聴者
高級でも喉通らなきゃ意味なくね?
11:名無しの視聴者
比較対象が田舎のモンスター食堂なのが悪い。
あっちはおにぎり握ってた。
12:名無しの視聴者
牙猪しぐれ煮おにぎり、犯罪だろ。
13:名無しの視聴者
氷結トラウト味噌大葉おにぎりもやばい。
朝から米炊いた。
14:名無しの視聴者
暁の剣の攻略配信スレなのに飯の話になるの草。
15:名無しの視聴者
でも今回、飯の話がそのまま攻略の話なんだよな。
16:名無しの元探索者
横から。
B級以上は食事と水が攻略時間に直結する。
強い弱い以前に、体を動かせる状態を維持できないと終わる。
17:名無しの視聴者
また専門家来た。
18:名無しの元探索者
専門家というほどじゃない。元C級。
でも灰刃蜥蜴の血霧は経験ある。
あれは討伐直後の処理が大事。
19:名無しの視聴者
どうするのが正解?
20:名無しの元探索者
首を落とす前に血の逃げ道を作る。
粉塵区域なら、布を湿らせて鼻と口を覆う。
戦闘後は解毒だけじゃなく温かいものを入れて、汗を出す。
21:名無しの視聴者
温かいもの。
22:名無しの視聴者
また神代じゃん。
23:名無しの元探索者
そう。
昨日の神代の配信で調査隊に出してた汁、あれ理にかなってる。
味噌と生姜で体温を上げて、牙猪の脂でカロリーを入れて、山菜で胃を動かす。
あれは飯だけど、同時に状態管理。
24:名無しの視聴者
雑用って何だったんだ。
25:名無しの視聴者
雑用という名の生命維持担当。
26:名無しの視聴者
暁の剣、神代を追放したあと急に失敗増えたの、そういうこと?
27:名無しの視聴者
決めつけはよくない。
でも昨日の配信見ると、穴が見えすぎた。
28:名無しの視聴者
黒瀬は強い。
強いけど、周りが消耗してるの見えてない感じがした。
29:名無しの視聴者
白鳥玲奈が止めようとしてたのに押し切ったよな。
30:名無しの視聴者
玲奈さん、なんか顔つき変わってなかった?
31:名無しの視聴者
あれ、黒瀬に言いたいことありそう。
32:名無しの視聴者
監査部が動いてるってマジ?
33:名無しの視聴者
ダンジョン庁の正式監査通知スクショ出てた。
旧廃坑の件と神代の登録情報の確認らしい。
34:名無しの視聴者
神代、未登録高位帰還者扱い?
35:名無しの視聴者
あの動き見たらそうなる。
鉱牙狼一撃はおかしい。
36:名無しの視聴者
ミコト様も未登録神獣扱いされそう。
37:名無しの視聴者
ミコト様、今朝の配信でおにぎり監督してたぞ。
監査官の前で「我は監督者である」って言ってた。
38:名無しの視聴者
しゃべったの?
39:名無しの視聴者
鳴いただけ。
神代には通じてる。
40:名無しの視聴者
便利な言い逃れで草。
41:名無しの視聴者
でも昨日の暁の剣見たあとに神代の朝配信見ると、落差がすごい。
あっちは焦って進んで状態異常。
こっちは調査隊におにぎりと汁を持たせて、安全札まで作ってる。
42:名無しの視聴者
村のばあちゃんたちが「赤い札は触らない」って確認してるのよかった。
43:名無しの視聴者
あれ現場管理として普通に優秀。
44:名無しの視聴者
神代本人が自分のこと過小評価しすぎなんだよな。
45:名無しの視聴者
「雑務でしたから」って言ったとき、佐伯監査官が「不正確です」って返したの痺れた。
46:名無しの視聴者
佐伯さん、冷たい人かと思ったらちゃんと見てくれるタイプ。
47:名無しの視聴者
検体確認という名の味見。
48:名無しの視聴者
味噌煮込み食べたあと箸止まってなかったの笑った。
49:名無しの視聴者
神代の周り、まともな人が増えてきて安心する。
50:名無しの視聴者
黒瀬はどうするんだろ。
51:名無しの視聴者
また動画出すんじゃない?
52:名無しの視聴者
原本提出拒否した時点でだいぶ印象悪い。
53:名無しの視聴者
白鳥玲奈が補助記録持ってるって噂ある。
54:名無しの視聴者
それガチなら流れ変わる。
55:名無しの視聴者
流れはもう変わってる。
56:名無しの視聴者
黒瀬、村に行くって配信外で言ってたらしいぞ。
57:名無しの視聴者
は?
58:名無しの視聴者
やめとけ。
59:名無しの視聴者
本当にやめとけ。
60:名無しの視聴者
ミコト様に怒られるぞ。
61:名無しの視聴者
神猫結界、対人にも効くんですか?
62:名無しの視聴者
効きそう。
63:名無しの元探索者
冗談抜きで、村に押しかけるのは悪手。
今の神代は一人じゃない。
村も、配信を見てる人間も、監査部も見てる。
64:名無しの視聴者
ほんとそれ。
65:名無しの視聴者
でも黒瀬、焦ってそうなんだよな。
66:名無しの視聴者
焦ってる人間が一番何するかわからん。
◇
俺は、その掲示板も見ていなかった。
正確には、莉子さんが「見なくていいです」と言いながら要点だけ教えてくれるので、だいたいの空気は知っている。
「雑用って何だったんだ、というスレが伸びています」
「雑用は雑用ですよ」
「その返し、今ネットに出したら怒られます」
「なぜ」
「悠真さんが一番わかってないからです」
朝の納屋キッチンには、調査隊の人たちがいた。
ダンジョン庁から派遣された四人。防護服ほど大げさではないが、魔素測定器や封鎖用の杭を背負っている。山道を越えてきたせいで、全員の額に薄く汗が浮かんでいた。
俺は大鍋の蓋を開ける。
味噌と生姜の香りが、湯気と一緒に広がった。
鍋の中身は、牙猪の薄切りと山菜の汁。
灰刃蜥蜴の血霧の話を聞いていたので、体を温め、汗を少しかけるようにした。調査隊は戦闘に行くわけではないが、廃坑周辺の魔素に触れるなら、何も入れないよりはいい。
「食べてから行ってください」
調査隊の若い男性が、遠慮がちに手を上げた。
「勤務中ですが」
佐伯さんが横から言った。
「現地活動前の体調管理として許可します」
「ありがとうございます」
全員が一斉に椀を受け取った。
最初は仕事の顔をしていた彼らが、ひと口飲むと明らかに表情を緩める。
「……うま」
「生姜が効いてる」
「山道のあとにこれは助かる」
「おにぎりもいいんですか」
「どうぞ」
牙猪のしぐれ煮おにぎりは、すぐに消えた。
温かい米を噛む音。
海苔の香り。
味噌汁の椀を置く音。
その一つ一つが、昨日から張り詰めていた村の空気を少しずつ解いていく。
村長はそれを見て、嬉しそうに目を細めた。
「人が来て、飯を食って、山に入る。昔は当たり前だったんだがなあ」
「昔は廃坑も働いていたんですか」
「ああ。鉱山があった頃は、朝から握り飯を持って男衆が山へ入った。女衆は味噌汁を大鍋で作ってな。危ない仕事の前に、腹だけは満たしておけって」
俺は鍋をかき混ぜながら、その話を聞いた。
たぶん、この村はずっとそうやってきたのだ。
危ない場所へ行く人間を、飯で送り出す。
戻ってきた人間を、飯で迎える。
俺が今やっていることは、特別な英雄行為ではなく、この村に昔からあった営みの延長なのかもしれない。
ミコトは調査隊の足元を歩き回り、靴の匂いを嗅いでいる。
「にゃ」
「ミコト様、検査ですか」
莉子さんが聞くと、ミコトは真顔で鳴いた。
「にゃあ」
「合格だそうです」
「わかるんですか」
「たぶん」
調査隊の一人が、緊張した顔でミコトに頭を下げた。
ミコトは当然のように胸を張る。
その様子を、佐伯さんが端末に記録していた。
「佐伯さん、それも記録するんですか」
「伴侶個体の村民および外部調査員への反応です」
「猫の靴チェックですよ」
「現時点では、そう分類します」
真面目だった。
調査隊が廃坑へ向かったあと、村は少し落ち着いた。
俺は残った汁を小鍋に移し、昼用に味を整え直す。煮詰まった分、少し湯を足し、刻んだ葱を入れる。香りが新しくなる。
莉子さんはスマホを確認していたが、急に表情を硬くした。
「悠真さん」
「はい」
「黒瀬蓮が、こっちに向かっている可能性があります」
包丁の音が止まった。
「本人が?」
「はい。都内から出たという目撃情報と、車内らしき写真が出ています。目的地は明言していませんが、コメントで村の近くを特定しようとしている人がいる」
俺は息を吐いた。
場所は完全には出していない。
でも、廃坑、村、山道、配信の断片。
探す人間が本気になれば、たどり着く可能性はある。
「村長に伝えます。あと、村の人には外で騒がないように」
「警察にも連絡します」
「お願いします」
ミコトが、作業台の上に飛び乗った。
白い尾が、ぴんと立っている。
「来るなら来るがよい」
「喧嘩はしない」
「我は喧嘩などせぬ。境を示すだけである」
ミコトの金色の目が、山ではなく村の入口の方を向いた。
俺は小鍋の火を止める。
黒瀬が来る。
それで何かが変わるのかはわからない。
ただ、もう会議室の時とは違う。
俺は一人で立っているわけではなかった。




