孤高の王女様、八百屋の箱の上で「しおきゃらめる」に屈する
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聖女様を陥落(?)させたカイのもとに、次なる強敵――お忍びの王女様がやってきます。
現代の「あの甘いお菓子」の威力、ご覧ください。
翌日。
俺の『なんでも屋』の周囲には、昨日とは違う空気が漂っていた。
「おい、聞いたか? 昨日の夜、ギルドのリアナさんがここから出てきた時、顔を真っ赤にして放心してたらしいぜ」
「嘘だろ。あの鉄壁の聖女様が、こんな路地裏のゴミ箱の上で何されたってんだよ……」
冒険者たちの視線には、嘲笑の代わりに『戸惑い』と『猛烈な嫉妬』が混じり始めていた。
だが、当の本人は相変わらずだ。
俺は八百屋の空き箱に座り、昨日リアナさんが置いていった100ギルを指先で弄んでいた。
「……そこの主。一つ、聞きたいことがある」
不意に、目の前が暗くなった。
見上げれば、ボロボロのローブを深く被った小柄な人影。
だが、隠しきれないその立ち振る舞いと、隙間から覗く美しい銀髪。
この街を治める領主の愛娘にして、次期王位継承候補。セレスティーヌ王女で間違いない。
「お悩み相談なら100ギルです。……立派なローブですね、お嬢さん」
「……気づいているのか。まあよい。……昨日、あの受付嬢に何をほどこした?」
彼女の声音は冷たく、威厳に満ちていた。
だが、その喉元は緊張からか、微かに震えている。
「ただのリラクゼーションですよ。疲れを抜き、少しばかり『甘いもの』を差し上げただけです」
「甘いもの……? ……フン、宮廷の菓子職人が作るものより優れたものが、このような場所に……」
そう言いかけた彼女の鼻腔に、俺が魔法瓶から取り出した『特製キャラメル』の香ばしい匂いが届いた。
砂糖を焦がし、岩塩をひとつまみ。現代知識で再現した『塩キャラメル』だ。
「……っ!? な、何だ、この芳醇な香りは……。焦がした蜜の匂いの中に、海風のような香りが……」
「食べてみますか? 100ギルで座ってくれれば、おまけしますけど」
セレスティーヌ王女は、しばらく葛藤するように拳を握りしめていたが、やがて――。
「……主がそこまで言うのなら、座ってやらぬこともない」
そう言って、泥のついた八百屋の箱に、おずおずと腰を下ろした。
国宝級の銀髪が、薄汚れた路地裏でふわりと揺れる。
「はい、どうぞ」
「……毒見は不要だ。私が、直接検分してやる」
彼女は小さな手でキャラメルを受け取ると、意を決したように口に含んだ。
刹那。
「――っ!?!? ……ん、んんんっ!?」
王女の瞳が大きく見開かれ、潤んだ。
口の中に広がる濃厚な甘みと、それを引き立てる塩気のハーモニー。
この世界の「ただ甘いだけ」の砂糖菓子しか知らない彼女にとって、それは暴力的なまでの衝撃だった。
「……なに、これ。噛むたびに、幸せが溶け出してくる……。私の知っている菓子は、ただの泥だったというの……?」
「気に入ったなら良かった。……さて、お嬢さん。肩が、悲鳴を上げていますよ」
俺は昨日と同じように、彼女の背後に回った。
王族としての重圧、膨大な公務。彼女の細い肩は、リアナさん以上にガチガチに凝り固まっている。
「……主、何を……あっ、く、くるな……っ! 不敬だぞ……っ!」
「仕事ですから。動くと危ないですよ」
俺の手が、彼女の華奢な肩に触れる。
ビクン、と猫のように背中を丸める王女様。
だが、俺の親指がツボを的確に捉え、グイと押し込んだ瞬間――。
「あ、はぁ……っ! あぁぁぁ……っ!」
彼女の喉から、気高い王女にあるまじき、情けない嬌声が漏れ出した。
口の中には禁断の甘み。体には未知の快感。
彼女の知性は、一瞬で八百屋の箱の彼方へと吹き飛ばされた。
「……ふぅ、ふぅ……っ。主……おそろしい男だ。私の心を、こうも簡単に……っ」
施術が終わる頃には、セレスティーヌは俺の膝に頭を乗せ、頬を赤く染めて放心していた。
その指先は、もっとキャラメルを、もっと癒やしを、と俺の服の裾を弱々しく掴んでいる。
「……明日も、来て良いか。……いや、必ず来る。これは王命だ……良いな?」
潤んだ瞳で上目遣いに睨まれ、俺は「困ったお客様だ」と苦笑するしかなかった。
その様子を、物陰から「次は私の番ね……」と剣の柄を握りしめた女騎士団長が、血走った目で見つめていることにも気づかずに。
王女様も、箱の上でとろけてしまいました。
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