「焼け焦げた森」
俺は目覚めた。
分厚い雲が上空を高速で移動している。
ぽつり、ぽつりと雨粒が顔に落ちた。
散々降った後なのか、これから降り出すのかはわからなかった。
体を起こすと、焼け焦げて、真っ黒になった木があった。
うっすらとした記憶だが、俺はこの木に助けられたのだと感じる。
周りの木々も、辺り一面同じ様子だった。炭になって、細くなってしまっていた。
だが、熱は感じなかった。
全身、ずぶ濡れになっていた。
俺は立ち上がると、生存者を確かめようと叫んだ。
「ミサキ!」
思いつく順に名前を言っていた。
「キズン!」
叫び、探し、歩き回る。
「ナガレ、いるか、誰か?」
黒焦げになった森を歩きながら、俺は何度も叫んだ。
歩いていると、灰色の岩の塊があった。
岩は、それを押さえつけるかのように樹の根が上から下へと伸び、包んでいた。
その木は焦げていない。生きた木の根だった。
「……岩?」
「違う。これはトロルだ」
声がその岩の反対側から聞こえた。
「ナガレ、そこにいるのか」
「ああ。この上から根を張っているのは俺たちが作り出した『樹人』だ。トロルを封印したのだ」
俺はその岩のようなトロルを左手に見ながら、回り込んだ。
「じゃあ、俺たちは勝ったのか」
「現時点では」
反対側に出ると、ナガレの姿を見つけた。
ナガレは、両足を投げ出して地べたに座り込んでいた。
「大丈夫か?」
「いや、足が動かない」
「わかった。すぐに街に行って医者にみてもらおう。ここにいてくれ、ミサキを探してくる」
「……」
俺はミサキとキズンの名を叫びながら、周囲を歩いた。
同じように岩のようになったトロルを見つける。
いくつあるかを数えながら、歩いていく。
五体分のトロルの岩を確認した後、俺は山のように重なったトロルを見つけた。
その岩というかトロルは、下に三体、上に一体が重なっていて、それを大きな木の根が、まとめて覆い被さっていた。
「?」
雲が流れ去った空の隙間から、光が差し込んできた。
光はトロルの岩の重なった天辺を照らした。
よく見ると、そこには小さく若い幹があって枝が伸び、数枚の緑の葉をつけていた。
光を受け、葉が生き生きと輝いていた。
「あっ」
一段目の岩の上、絡み合った根の上に、黒い服の人の姿が見えた。
「ミサキ!」
俺は、岩をよじ登って黒い服に近づいた。
足場が狭く、俺は一段下にいる。
ミサキ自ら喪服だと言っていたその黒い服は、エプロンのないメイド服だった。
顔を近づけると、息の音が聞こえた。
「ミサキ」
呼びかけると、ようやくミサキに反応があった。
「ばか、落ちる!」
トロルの岩の狭いところに横たわっていたミサキが、声に驚き寝返ったのだ。
そのまま下に落下してしまう。
俺は慌てて抱き止める。
接近する顔と顔。
「バカッ!」
頬を叩かれた。
「なんだよ、落ちそうだったから、助けたんだろ」
「抱きつかなくても助けられた」
「助けて損した」
「それより、この状況を説明してよ。どうやってあの火が消えたの? どうして私たちは助かったの?」
俺も知らない。ミサキに正直に言って、ナガレから聞いた内容を伝えた。
「ナガレが怪我しているの? それを早く言いなさいよ。助けに行かなきゃ」
「ああ、あっちだ」
俺とミサキはナガレがいるところへ戻った。
ミサキと俺でナガレの肩を担ぎ、南へと歩き出した。
「街までどれくらい距離があるんだろう」
「けど、いくしかないわよ」
「そうだよな」
俺たちはゆっくり燃え跡になった森の中を歩いた。
しばらく進んでいくと、鳩が降りてきて目の前の焦げた木の枝に止まった。
「キズン?」
鳩が飛び去ると、そこに小さな人の形をした生き物が立っていた。
『ようやく会えた。長かった』
「長かった?」
俺はキズンを手にのせ、肩に乗せた。
『俺たちノームはお前らと生活のサイクルが違う。一度陽が落ちて、また昇ったんだ』
「えっ、一日以上経ってるってことか」
ミサキもナガレもびっくりしたようだった。
俺は訊ねた。
「何が起きたのか分かってないんだ。キズン。教えてくれ」
俺はキズンから話を聞く。
直接会話できない為、俺がキズンが言ったことをまとめて、ナガレとミサキに話した。
キズンの記憶ではこうだ。
燃え盛る業火に、森は焼けていった。
その業火の中、トロルと樹人の戦いは続けられていた。
暴走し、熱さを感じなくなっているトロル。
熱で次第に身体が燃えはじめる樹人。
互いに奇怪な叫び声を響かせ、熾烈な戦いが続く。
その中で、空中に浮いていたムツオは業火に燃え尽きたように消え失せた。
焼き尽くされていく中、突然森の中央付近の岩が割れ、勢いよく水が吹き出した。
それと同時に、厚い雲からも雨が降り出した。
水を被ったトロルの動きが鈍り、火が消え始め、力を取り戻した樹人。双方の力関係が元に戻った。
その後、キズンは寝てしまい、起きた時にはトロルは、樹人に封印されていたそうだ。
いつしか吹き出す水が止まり、雨も次第に小降りになっていった。
さらに夜が明け、朝が来て、今のこの状態なのだという。
「多分、その水がお前の打ったカウンターだ」
「……そうですね。なんとなく記憶があります」
どうして良いかわからず、闇雲に周囲のCodeを探査して、見つけたのが地下水脈だった。
物凄い炎に包まれていて、トロルをやっつけるとか、ムツオに何かするという余裕はなかった。
ただ燃え盛る炎を消す方法だけを考えた。その結果だ。
あふれるほどの水で流されかけた。俺はあの木に絡まって、どこかに流れ落ちずにすんだのだ。
俺たちは三人で歩き続けた。
森を出た先は、草原になっていた。
まだ街は見えない。
ナガレの足が心配になってきた時、雲の晴れた空から、ドラゴンが降りてきた。
「女王だ。女王が迎えに来てくれた」




