「キズンと鳩」
一羽の鳩は、森の業火から逃れ、遠く、高くから森を見ていた。
背中にノームを乗せていた。
『ケイゴ……』
樹人の死にそうな叫び声が森に響き渡る。
空気が歪むのか、樹人やトロルの戦う姿が波打って見えた。
トロルは命を顧みず、樹人と戦う。
樹人とトロル。巨大なその二種の生物は、時に拳をぶつけ合い、時に蹴ったり、投げうちながら戦う。
業火の炎のせいで弱っていく樹人と比較して、トロルは生き物としての『たが』が外れたようだった。
鳩に乗ったノームは、赤黒く燃え盛る森の上空で消えていく人の姿を見た。
遠くてわかり難いが、その人は笑っているように思える。
人の姿は分解してコウモリの群れになった。コウモリの群れも一匹ずつ、燃え尽きるように灰に帰していく。
『あれがナガレの言っていたムツオ?』
赤黒い炎が空を焦す。
低く分厚い雲を、森の炎が照らしていた。
この炎の中でも、燃えていなかった樹人に変化が起こった。
頭の先や、手の先に火がついたのだ。
体の中の水分が抜け切ったことを示している。
もう、持たない。
世界はトロルに破壊し尽くされる。
鳩の上のノームはそう思って目を閉じた。
『?』
低い、うねりを伴う低音が、離れた上空にも響き、聞こえてきた。
何か、この状況に対抗する事象が発生しつつある。
いや、それとも、トドメを刺すような事が起ころうとしているのか。
樹人はそれでもまだトロルと戦っていた。
樹人の心は、折れると言うことがないのか。
鳩の上のノームは、ただ見守ることしかできなかった。




