表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/39

「トロルの暴走」




「俺たちが来なければ食われずに済んだんだろうか」

「……わからないけど。早く何か考えて、トロルの暴走を止めないと」

「全く」

「!」

 男が立っていた。長髪を後ろで括っている。確か……

「ナガレ」

「誰?」

 ナガレはミサキの言葉を無視した。

「君の記憶を見たぞ。その中に答えはあった」

「なんの話です?」

「ナガレって誰よ」

「……えっと、俺が転生したばかりの頃、お世話になった転生者だよ。それでいい?」

 ミサキはムッとしている。

「女性か。名前はなんと」

「ナガレさんもこんな時に名前に拘らなくても。もうトロルが」

「私はミサキです。見ての通りマスケットの使い手です」

「握手とかいいから。記憶がどうしたんですか?」

「ああ、君の記憶の中に、トロルを倒す技が」

「えっ?」

 精神(こころ)のCodeを書き換えるのは厳しい。ピンポイントで倒せる急所でもない限り、超加速で九体もいるトロル全てを倒せるとは思えない。トロルの目に俺たちが見えなくなったとしても、それは倒せることにつながらない。

「何も…… 何もないです」

 ナガレは木の幹をポンポンと叩いた。

「これだよ。これ」

「木?」

 胸ポケットからキズンが動いた。

『草でトラップを作ったあれのことか?』

「木でトラップを作れと?」

「ああ、もうしようがないね。時間切れだ。ついてこい」

 ナガレは森の奥へ走り出した。

 大きな音がして、俺は振り返る。

 森の外にトロルが次々とやってきて、木々を蹴り倒していた。倒したり、折ったりするコツを掴んだのか、速度が上がっているようだ。

「待ってくだい」

 ナガレを追いかけるミサキの後ろを、俺は走った。

 しばらく森を進むと、ナガレは木の幹手をついて、立ち止まった。

 俺は息を切らせていた。

「今度はどうしたんです?」

「やってみせるから、君も森を走ってこのくらいの木を見つけるんだ」

「?」

「離れなさい。危ないぞ」

 俺たちはその木から離れた。

「もっとだ」

 ナガレが何を始めようとしているのかまだわからない。

 俺たちはナガレの姿が小さくなるほど離れると、ナガレは何かを念じるように目を閉じた。

「何をしている?」

「Codeの書き換えでしょ」

 そんなことは分かっている。どんな書き換えなのかが知りたいんだ。

 疑問はすぐに解決した。

 大木が根を大地から出し、起き上がった。

「何、あれ? 木が動き出した」

『あ、あれ、思い出した。お前がやっていたキモいやつか』

「確かにやっていたが、あの大きさの木に対してできるかどうか」

 ナガレは動き出した木の上から言った。

「ある程度大きい木じゃないとトロルに敵わない。トロルは九体いる。同数か、もっと多く作らないと。俺も次を作るから、急いでくれ」

 この森にあんな大きい木が何本あるのか、そしてどこにあるのか。

 森の中にいては探せない。Codeで探査してもいいが、距離が遠くなると極端に疲労してしまう。木を起こす為にCode書き換えの力はセーブしたい。効率よく木を見つける方法は……

「そうだ。キズン、上空から大きい木を見つけてくれ」

 俺は木の幹に手をつき、近くの鳥を探した。

 すぐにCodeを書き換える。

『声が大きいんだって』

 俺の左手の指に鳩がやってきて、止まった。

 ポケットからキズンを摘み上げ、鳩の背中に乗せると、飛び立った。

『いきなり一本見つけたぞ。一番近いのは、真っ直ぐ南にいったところ』

 キズンの視覚イメージを受け取る。

 ナガレは動き出した木を利用して次の大木を探しているようだった。

 根の高さもあるため、大木が動き出せば、トロルより大きい。これなら勝てるかもしれない。

「私はどうしたらいい?」

 ミサキが言う。

「木の上に乗って、戦いのサポートしてくれ」

「わかったわ」

 俺はキズンが見つけた大木についた。

 ミサキは先に木の上に乗った。

 出来るかわからない。けどやるしかないんだ。やるしか。

 目を閉じて、この木の中のCodeを探す。全く存在しない行動するための関数(メソッド)を追加して、呼び出せるように変更する。強力で、揺るぎない力。トロルに対抗する力。

「動かない……」

「焦らないで、出来るわ。ナガレが言っていた。あなたの記憶にあったって」

 確かに記憶にある。小さな木を歩かせたんだ。キズンに気味悪がられたっけ…… あの時は小さいながらも、動いた。何かあの時したことと違うのか。

「何かのエネルギーがいるんだ。単純に光合成をするだけじゃない力が」

 風、水、太陽、木々も普通に酸素を使って二酸化炭素を出す行為も行う。

 パワーを出すには、呼吸をもっと大きくさせる必要がある。

 俺はさらにCodeを書き換えた。

「動け、動いてくれ!」

 大木はびくともしない。

 Codeは書き換えた。過不足はない。起動してくれ。頼む。

 何か吸い上がるような音がして、枝が震え始めた。

 足元が盛り上がってきて、土が爆ぜるように飛び散った。

「動き出した!」

 根が抜け、大木が立ち上がった。

 キズンのイメージが見える。

 森を見下ろす視点。

 高さが同じような木々の中に、吐出して大きな木があって、それは動いている。

 ナガレが作り出す二本目の『生ける大木』が立ち上がると同時に、俺が起動した大木が森の中に立ち上がる。

「まさに樹人(ツリーフォーク)だ」

 細かい根は統合され、四、五本の足に変わる。

 枝もそれぞれがくっついて、三、四本の腕にまとまる。

 ミサキは、木の肩の辺りに捕まっている。

 俺は腰の辺りにいた。

 一体だけでは、単なる奇異な魔法生物かと思うが、二体、三体と立ち上がるとまさに(ツリー)民族(フォーク)と呼ぶに相応しい。俺はそう思った。

『ほら、こっちとそっちに二本ある』

 キズンが大きな木を見つけて教えてくれる。

 あとはこの『樹人(ツリーフォーク)』がトロルに勝てるかどうかだ。

 俺たちから見たCodeやパラメータでは、単純な勝ち負けの判定が出来ない。戦った結果を決めるのは世界の秩序(ワールドオーダー)だから。

 キズンの指示した大木へ移動し、俺はCodeを書き換える。

 四体、五体、ナガレがさらに一体作り出し、計六体の『樹人』が動き出した。

 すると森を侵攻中のトロルの上空に黒いものが集まり始めた。

「コウモリ…… まさか、アンプ城で落ちた老人か?」

 俺が言った声が、ナガレに聞こえたらしい。

「違う! アイツは」

 コウモリが、一塊になり、色が変わり人の姿になる。

「空間に浮いてる……」

「騙されるな、あれは本体じゃない」

 本体じゃないなんて。そもそも遠隔から、あの数のコウモリの群れを操ったり、人の姿に変化(へんげ)させたりするなんて、どれだけ書き換え能力が高いんだろう。俺は恐ろしくなった。

「あれはムツオだ。トロルの暴走を引き出したのはアイツに違いない」

 アンプ城でハルバルドではなく、こいつと戦うハメになっていたら、と思うとゾッとする。

「アイツがゴブリンの王を洗脳して、オークに戦争をさせていたんです」

「そうか。ヤツならやりかねん」

 ムツオが樹人の方を指差し、言った。

「トロル。そこの樹上にいる人間達をヒネリ潰せ」

 響き渡った声に反応し、トロルの狂ったような眼差しが俺たちに向けられた。

 トロルの動きがさっきより機敏になったように思える。

 ナガレが作った最初の『樹人』とトロルが組み合って、手を掴み合い、プロレスラーのように力比べを始める。

「まずいな……」

 ナガレは、そう言うと、Codeを使ってムツオについての情報を俺に流してきた。


 現女王のトモヨは転生者だ。転生者なのに『ドラゴンを統べる者』として女王でいるのには訳がある。

 トモヨの前の女王『ドラゴンを統べる者』が死に追い込まれる事件があった。

 元々、ムツオが自分の手足として動く者を、勝手に転生させているのが前女王にバレたのがきっかけだった。

 前女王はその力を使ってムツオを『世界の端』に閉じ込めた。

 世界の端は、何もない氷の世界だ。

 しばらくの間、ムツオは大人しかった。

 だが、『世界の端』から、遠くのもののCodeを操る技術を会得し、再び暗躍を始めた。

 そして、気が付いた時には前女王が知らぬ間に不治の病に罹っていた。

 病の原因を調べていくとムツオのCode改変だということが分かったが、複雑に世界の秩序(ワールドオーダー)と絡められたCode改変は自然に元のCodeに戻ることも、正しくCode修正することもできないことがわかったんだ。

 まさに『不治の病』に罹った状況だな。

 前女王は強力なCode改変能力を持つ人物、トモヨに目をつけた。

 トモヨをこの世界へ転生しようとしたんだ。

 しかも、ただの転生ではなく生ける者同士の命を交換する『交換転生(ライブエクスチェンジ)』と呼ばれるものだった。

 『交換転生』は生きた者を強制的に、交換転生する為、世界の管理者の監視から目を背けることが必要だった。

 つまり『交換転生』の為、大きな犠牲が必要だったと言うことだ。

 トモヨは『水晶のCode』を書き換えた。

 水晶のコードを書き換えたトモヨの世界に、未曾有の大災害が起こった。

 そのどさくさに乗じ、前女王とトモヨの交換転生(ライブエクスチェンジ)が行われ、前女王はトモヨの世界に転生し、トモヨもこの世界に転生した。

 二人とも不治の病に冒された身だったが『交換転生』でCodeを修正し、病気を消去していた。

 女王の転生を知ったムツオは、転生直後の女王『トモヨ』の暗殺を図ったが、甲冑の騎士の活躍により防がれてしまう。

 その後、ムツオの動きはピタリと止まった。

 力を使い果たしたムツオが『世界の端』の中で眠りについたと考えられた。

 前女王への病を仕掛けた手口や、力の使い方からして、十年以上は寝ている計算だった。


「だが、実際は二、三年で活動を再開していた、と言うことになるな」

 ナガレは自身の作った三体目の『樹人』の肩に乗った状態でそう言った。

「君はまだ『樹人』を作れそうか?」

「あと一体ぐらいなら」

「俺はもう無理だ。最初の『樹人』がトロルと交戦に入る。最後の一体は、状況を見てからにしよう。(ムツオ)が来たのなら、余力を残しておく必要がある」

「さっき樹人はトロルと同じ数か、より多く作らなければと」

 ちらっと、森の先を見ると、ナガレの作った樹人はまだトロルと力比べをしていて、決着がついていない。

「永遠にCode改変を続けられないのは、ムツオも俺たちも同じだ。どこかで力尽きる。トロルを『制御』せず『暴走』させたことから推測して、ムツオの力も終わりかけているはずだ」

「なら、やっぱり樹人を作った方が」

「だめだ。俺たちはここで寝てしまったらトロルに食われてしまう。向こうは寝てしまっても自分の命は危険に晒されない。だからムツオは最後の力を振り絞ってくる。それに対抗(カウンター)すれば勝ちが見えてくる」

「……わかりました」

 対抗(カウンター)と軽く言うが、ソウタから教わった中で一番、不可解で厄介な技術だった。

 簡単に言えば後出しのジャンケンなのだ。出してきた手を見て勝つ手を出せばいい。

 だが、ジャンケンのように勝ち負けが明確なものばかりではない。

 そしてタイミングも重要だ。ジャンケンで『後出し』がわかれば負けだ。つまり出し遅れるにしても程度があるのだ。相手の手が進行してしまえば後出ししても勝てない。

 これまで見てきたCodeの量と経験がものをいう。

「ナガレさん、俺に対抗(カウンター)が出来るでしょうか」

「出来る出来ないじゃない。やるんだ。間違った方向に行かないよう、俺もサポートするよ」

「お願いします」

 相手は女王とやり合うことができるCode技術を持った転生者だ。ハルバルドの比ではない。その点も不安要素だった。

 しかし、ナガレの言う通り考えている暇はない。今は進むしかない。

 最初の樹人がトロルと力比べをしているところに、後続のトロルがきて加勢した。

 樹人は枝を動かして新しい腕を作り出し、加勢してきたトロルとも力比べを始めた。

 根が複雑に地面にからみ、二体のトロルに負けない力で押し返した。

 もしかしたら、女王がこのフィールドのCodeを書き換えてくれているのかもしれない。樹人一体で、トロル二体と互角に渡り合えるなら、六体の樹人で、九体のトロルに勝つ計算になる。

「まずい、三体目がくるわ」

「ミサキ、その樹人に言って、最初の樹人を助けに向かってくれ」

「そんなことできるの?」

「聞く前にやってみてくれ」

 ミサキは自らが乗っている樹人に対して叫ぶ。

「あの樹人(ツリーフォーク)を助けにいくのよ!」

 樹人が向きを変えると、森の木々が避け道を作った。まるでモーゼが神の軌跡で海を割ったように。

「なんだその特殊能力は?」

「知らないわよ。あんたの作った樹人でしょ」

 トロルが移動するところには木々が邪魔をし、樹人が動くときには木々が助けてくれる。と、すれば森で戦う限り樹人が有利だ。

 ミサキの乗った樹人が駆け寄ると、三体目のトロルの左腕を取って捕まえた。

「そのまま投げちゃえ」

 ミサキが適当に言った言葉に樹人が反応する。いくつもの枝が束になった腕が、トロルの右手を掴み引っ張り始める。十分に力が溜まると、抑えていた左腕を離す。

 しなっていた右手側の枝が、勢いよくトロルを反対側に動かした。

 投げ飛ばすまでは行かなかったが、トロルを転ばせることは出来た。

「よし、これなら」

 様子をみていたムツオが、トロルに無言で指示を始めた。

 樹人と力比べしている二体を除き、残りのトロルは近くにある樹木を引き抜き、手に掲げ始めた。

「これで逆転だ」

 ムツオがそう言いながら、右の指をトロルの掲げた木に向ける。

 青白い炎が空間を走ると、トーチのように木の先端が赤く燃え始めた。

「乗っている人間ごと焼き殺してしまえ」

 ナガレが言う

「カウンター!」

 どうしろと? トロルが手にする木に次々と火がついていく。三体、四体…… 最初のトロル以外の八体が火のついた木を掲げて森を進む。

 どうする気なのだろうと、様子を伺っていると、火のついた木を俺に向けて押し付けてきた。

「!」

 樹人が枝葉をガードする盾のように展開し、乗っている俺を守ったのだ。

「いつ迄も防げまい」

 ムツオはそう言うとトロルはしつこく、何度も俺に向かって火を押し付けてきた。

 枝葉のガードで守っていたが、樹人はついにトロルの腕を叩いた。

 トロルは火のついた木を拾おうとすると、ムツオが止める。

 火がついた木は森の草木の水分で、炎が消えかかっていた。

「違う…… ブレスだ」

 ムツオの声に従い、トロルは体を使って息を吸い込むと、消えかかった炎に吹きかけた。

 すると、消えかかった炎が、勢いよく燃え上がった。

 上がる炎を見て、樹人が叫びに近い声を発した。

「お前たちもやれ」

 ムツオの指示で、他のトロル達も火に息を吹きかけ、炎を大きくした。

 そしてその炎を森の木々に押し付けた。

 バチバチと大きな音を上げながら、森の木々が燃え始めた。

 トロルは吹き続ける。

 息の成分が影響しているのか、吹き方のせいなのか、あっという間に一面の草木が燃え始めた。

 業火(ごうか)

 いや、世界が滅びる時に起こると言われている大火事の『劫火(ごうか)』と言うべきだろうか。

 炎は赤く、草木からは白い煙が立ち昇り、燃えた木や木の影、炎の作り出す煙は真っ黒かった。

 見えるもの全て、赤みが掛かって見え、強烈な熱風が吹き荒れた。

「カウンター!」

 ナガレの声が、遠く、小さく聞こえる。

 俺たちは樹人の枝葉の盾のおかげで、かろうじて燃えず、生きていられる。

 そうだカウンター。この炎を打ち消す(コード)

 なんだろう、どうすればいいんだ…… 俺には考え付かなかった。

 この炎の中でも、トロルと樹人は戦っている。

 腹を殴り、足を取ってひっくり返し、殴り、蹴り、踏みつける。

 やってはやり返される。

「早くしろ」

 ナガレの声が弱ってきている。

「なんでもいい、助けて」

 ミサキの声も聞こえてきた。

 俺は考えがまとまらないまま、Codeを探査し始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ