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水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


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「平和な世界」

 オークと人の間の戦争は終結し、街に男が戻り始めた。

 俺も街での生活に戻った。

 今は食材の買い出しの為、リムの街を歩いていた。

 転生してきたすぐの頃より、歩いている人は少ない。

 俺は思い出していた。

 ドラゴンに乗ってこの街に戻ってきたとき、女王がこう言った。

『トロルは岩のようになっているけど、死んだわけではないわ。長い冬眠に入った程度のこと。ただ、トロルの寿命は長いから、次に目覚めた時に私達の誰かが生きているか、わからないわね。そして目覚めた時のトロルが、暴走するかもわからない』

『そんなに寿命が長いんですか』

『この世界でトロルの寿命について調べた人がいないから、はっきりとはわかっていないけど。我々の何十倍も大きいから、寿命もすくなくとも数倍はあるでしょう。二百年、二百五十年と言ったところかしら。ひょっとするともっと長いかも』

 現時点で封印出来ていても、俺たちの子供や孫の代でトロルが動き出すかもしれないということか。

 目的の野菜を買いバッグに詰めると、家路についた。

 家の近くに戻ってくると、杖をついた男の後ろ姿が見えた。

「……」

 足を引きずっている。けれど格好は覚えている。

「サム!」

 俺が呼びかけると、不器用に杖を使って振り返った。

 駆け寄ってから、そっと抱きしめた。

「良かった、生きてたんだ。良かった」

 オークとの戦争が始まった当初、前線でサムが死んでしまうイメージをみてしまった。

 だから俺はサムが死んでしまった、そう思い込んでいたのだ。

「いや、まあ、なんとか生きて帰ってこれたよ」

「本当によかった。さあ、家に戻ろう。食べ物をいっぱい買って来たところだ。ご馳走を作ろう」

「ありがとう。それなら、三人分作ってくれ」

「?」

 サムが、俺の後ろの方をみている。

 振り返ると、そこにはメイドの格好をした女性が立っていた。

「ミサキ?」

 何か違う、と思ってよく考えるとエプロンをしているのだ。今はエプロンまでしてまさに『メイド』の格好だ。エプロンを外していた以前の姿は、メイドより『喪服』に近かった。

 ミサキが軽く会釈をしてきた。

「ああ、よろしく」

「そうか、ケイゴはミサキのことを知っているんだったよな。彼女、俺の代わりにドラゴンの世話をすることになった」

「えっ? ちょっと待って、サムはどうするの?」

「これからはサムではなくボスと呼べ。ケイゴとミサキの指導をする立場だぞ」

 俺はサムの杖と足をチラッと見てしまった。これ以上良くならない、昔のように動けない、ということなのか。

「そんな暗い顔するな。これからご馳走を作ってこのボスの帰還祝いとミサキの歓迎会をするんだから」

 そう言ってサムは笑った。

 俺たちは戦争で離れ離れになってからのことを、色々話しながら家に戻った。

 キッチンで俺が食事の支度をしていると、ダイニングにいたサムとミサキの話が、異様に盛り上がっていた。

『ケイゴもこっち来いよ』

 直接脳に話しかけてくるこの言葉。キズンだ。俺はダイニングへ顔を出す。

「えっ? 何? どういうこと? 何人いるの? 二人、いや、三人」

「キズンの家族だ」

「家族? 家族がいたのか?」

『違う。戦争から戻った後、結婚して、子供ができたんだ』

 そうか。もう戦争が終わって二週間は過ぎている。キズンたちノームにとっては、この二週間は俺たちの一年ぐらいに相当する。結婚して子供を授かっていてもおかしくないのだ。

「ご馳走を作っているんだ。キズンたちも食べていくだろう?」

『ありがとう、そうするよ。ところで、ナガレはどうした?』

 ナガレは……

「ナガレは街を出ていったよ」

 実はサムが杖をついているのをみた時、一瞬、ナガレのことが俺の頭によぎった。ナガレは元々、孤独が好きなのだろう。足が治らないままに、ふらっと街を出ていってしまったのだ。いくあてはない。きっと俺が最初に出逢った時のように、どこかの森にいるのだろう。

 俺は作った料理を運び、皆に振る舞った。

 誰も座らない席に料理を置いているのをみて、ミサキに問われた。

「ああ、これはソウタの為に」

「陰膳なのね」

 ソウタのツインテールをその席に思い浮かべ、俺は頷いた。

 俺は何度かキッチンとダイニングを往復し、いくつか料理を運んだ。

 そしてキッチンに戻ると、最後に出そうと思って大鍋で煮込んでいたスープから、妙な匂いがするのに気づいた。

「色もおかしい」

 俺は小さい皿に取って味見をしてみた。

 明らかに味も変だ。

 いや、それより……

 体が、全身がこの食べ物を拒否している。

 毒だ。毒を混ぜられた。

 苦しくて、声も出ない。足が震えて立っていられない。俺は必死にしがみつくものを探した。

 用意していた皿や、空の鍋などに手がかかり、床に落ちて音を立てる。

「どうした?」

 サムの声。

 俺は必死に体を捩って仰向けになる。

 ミサキもサムの後ろから俺をみている。

「何があった?」

 俺が喉を押さえていることで、サムが何か察してくれた。

「毒か? こういう時は、とにかく吐け」

 サムが俺の口に手を突っ込んで吐かせようとする。

 何度かしていると、さっきまで食っていたものと一緒に吐き出した。

 ミサキはマスケットの火縄に火をつけた。

 サムが訊ねる。

「ミサキ、なんでそんなものを」

「ケイゴに毒を盛った奴が近くにいるはずです」

 ミサキがマスケットを構えてキッチンに入る。広い家ではない。人が入ったなら、すぐわかるはずなのだ。

「!」

 マスケットの銃声が響いた。

 サムが床に落ちたものに驚いた。

「コウモリ?」

「こいつは、ムツオの使い魔だ。足をみろ、赤くなっている。きっと鍋にオークの血玉を入れたんだ」

 コウモリの死体は、すぐに泡のように溶けていき、床のシミに変わった。

 ムツオも何も出来ない、というわけではないと言うことだ。

 トロルもいつかは動き出す。

 戦争が終わっても完全な平和などないのだ。俺はそう考えることにした。



 その後、ドラゴンもオークと人間の戦争が終わったと認め、人の街に戻ってきた。

 俺とミサキはサムに指示を受けながら、ドラゴンの世話を仕事にして生活していた。

 キズンはノームとして家族と森での暮らしに戻った。

 長い髪を後ろに縛った男は、杖をつきながら、炭になった木々が立ち並ぶ森の焼け跡を歩いていた。

 そして、大きな岩とそれを包むように根を張って、生えている木を見つけると、手を触れた。

「!」

 目で見ている短時間の間に、枝が伸び、葉が広がり、木が成長していく。

 この成長は、自然に成長する木々の速度ではない。トロルの影響か…… それとも……

「……いや、ムツオの力も、すぐには戻らないはずだ」

 ナガレはそう呟いた。

 漠然とした不安を感じながら。




 終わり



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