表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/39

「城からの脱出」




 俺とキズンとミサキは、ゴブリンの王の部屋から通じているゴミを捨てる配管(ダストシューター)を落ちていた。ゴミが引っかからないよう急な角度がつけられていた。配管の中で加速していく俺は、ミサキに言った。

「ここ、実際、王の脱出用なんだろうな」

「匂いからして、もろダストシューターでしょ?」

 ミサキの声は俺の頭の方から聞こえてくる。俺とミサキの速度差のせいで、たまに俺の肩や、頭にミサキの足が当たってくる。

「けど、脱出用を兼ねているんだよ。ゴミ専用なら垂直の穴でいいはずだ」

「何にせよ臭いし、このスピードで床に激突したら死ぬわ」

「だからこの爆発式クッションを渡されてるんだろ」

「エアバックって言いなさいよ」

「こっちの世界の言葉には『エアバッグ』なんてないんだよ」

 意図的に頭を蹴られた。

「ゴブリンの王が爆発式クッションというのはわかるわよ。なんであんたまで同じ言葉使うのよ。分かりやすい言葉があるでしょ」

「……解ったよ」

 言い終えるとすぐに配管を飛び出し、広い空間に出た。

 暗くて良くは分からなかったが、ゴミが小山を作っている。ここが底辺なのだ。

 足で挟んでいた爆発式クッションを蹴り飛ばした。

 しかし、バッグは広がらない。

「まずいわよ」

「まさか、テストしてないのか……」

 俺たちの予想を外れ、まさに今爆発するような音がした。複雑に畳まれていたクッションの布が広がる。

「した噛むなよ!」

「あんたこそ」

 ゴミの山の上で広がるクッションの上に、間髪入れずに落下する。

 中で広がっているガスと、布から抜けているガスのバランスが良くて、押し戻しすぎず、減速が不足することもなかった。

 俺は爆発式クッションからする匂いに、懐かしさを感じていた。

 バッグのガスが抜け切ると、俺たちは立ち上がった。

「助かった」

「最後の最後で騙されたと思ったけどね」

「そうか。思い出したぞ。これ、ドラゴンの息の匂いだ」

「じゃ、このエアバッグが発生させたガスは、ドラゴンが空を飛ぶために体の中で作るガスと同じってこと?」

「きっとそうだよ」

 鼻が曲がりそうな臭いに耐えながら、俺たちはゴミの山を降りた。

「放射状に穴がいくつかあるな」

「水が流れてる」

「下水なんだろうか」

「下水なら、もっと流れていないと。こんなふうにゴミが溜まっちゃダメでしょ」

「なら良かった。とりあえず地上に出る場所を探そう」

 ミサキが、マスケット用の火種を使って明かりの代わりにした。

 いくつかある穴から、俺たちは、最後に飛び出してきた穴の正面に位置する穴を選び、進んだ。

 しばらく穴を行くと、縦穴を見つけた。

 はしごがかけてあり、メンテナンスのために下って来れるようになっているようだ。

 横の穴も縦の穴もオークの身長を前提に作られているため大きく、梯子の位置が高くて届かない。

「肩車してよ」

「逆だろ? 俺が先に梯子に取り付いて、引っ張り上げてやるよ」

「そんな筋力ないくせに。私が先に上がって、縄を梯子に結んで垂らせばいいでしょ?」

 結局、ミサキの案が採用された。

 俺はミサキを肩に乗せ、壁に手をつけながらなんとか立ち上がった。

 フラフラと歩くと、ミサキは俺の頭にしがみつく。

「うわっ、見えない」

「しっかり歩かないからよ」

 梯子を登っていき、上の蓋を押し上げた。

 そこはダウンチューブの街中だった。建物の裏手であることは分かったが、外は明るく、まだ出ることはできない。俺たちは、梯子に体を縛り付けて、休憩をとることにした。


 蓋を押し上げ、外の様子を確認する。

 ミサキが出た後、俺も外に出た。

 オークが何やら騒いでいる。

 聴き慣れない単語ばかりで、俺はキズンに尋ねる。

連中(オーク)は何騒いでるんだ?」

『ゴブリンの王の、臨時の演説があると言っているな』

 ミサキが訝しげな顔で俺をみる。

「ゴブリンの王の臨時の演説。それはこの戦争を終わらせるということだろう」

「『演説』って、本当にキズンは『演説』と言っているの? 戦争を終わらせる、なら『宣言』とか、他の言い方がありそうなんだけど」

『いや、オークの言葉のニュアンスからすれば『演説』で間違いない』

 ミサキの言葉にキズンがそう伝えてくる。

「やっぱり『演説』ということらしいよ」

「それなら『演説』の内容を確かめてからダウンチューブを離れても遅くないわ」

「……うん。そうだね」

 俺たちを逃してくれたゴブリンの王を疑うわけではないが、念のためだ。

 裏通りから、表通りを覗き見る。

 ダウンチューブの街の広場に、大勢のオークが集まっていた。

 アンプ城の橋は下ろされていたが、門は閉まっていた。

 門の上のバルコニーに警備のオークが立っている。

 広場のオーク達がそこを見つめているということは、警備と警備の間の空間にオークの間に王が現れるのだろう。

 裏通りから俺たちは息を潜めて城を見つめていた。

 空砲と軽快な楽器の演奏があった後、城の上に一人の男が現れた。

 長髪の男。明らかに人間の姿をしている。

「えっ?」

 俺は思わず声を出してしまった。

 背後からミサキの手が伸びて口を押さえ込まれ、そのまま裏通りに引き摺り込まれた。

「声が大きい」

「けど、見たか? オークじゃない。人が出てきたぞ」

「確かにそう見えたけど、小さいだけじゃ……」

「もう一度、ちゃんと見よう」

「声を出さないでよ」

 俺たちはもう一度裏通りから、そっと顔を出そうとした。

 その時、表通りからオークが入ってきた。

「!」

 タイミング的に避けようがなかった。踵を返し、俺は逃げ出そうとした。

「おい、同志。こそこそ隠れてないで王の演説を見ろよ」

「?」

 俺は呼び止められて振り返った。

 ミサキは裏通りの角を曲がりながら、俺に言う。

「何立ち止まってるのよ。逃げるわよ」

 表通りから裏通りに入ってきたそのオークは、建物の壁に向かって小便を始めた。

 俺は思わずそのオークに話しかけた。

「同志って、俺のこと?」

「当たり前だろ」

「同志って、仲間のことだろ」

「お前はバカか? 同志の意味もわからないのか?」

 まさか、と俺は立ち小便をしているオークの背後を抜け、表通りから城の門の上にいる人物を見た。

 長い髪と長い顎髭を生やしていて、ゆったりした黒いローブを着ていた。髪や髭に白髪が混じっていたし、皺の感じから、年齢的にはかなり上だと思われる。

 だが、何度見ても、どこをどう見ても、人間だった。

「城の上に人間がいる」

 俺が言うと、小便を終えたオークが表通りに走り出る。

「なんだって?」

「ほら、あそこ、城の門の上」

「いないじゃないか。あそこに人がいるわけがない。一番警備が厳重なんだぞ」

 さっきから、このオーク自身、俺のことを人間だと認識していない。

 誰の仕業かはわからないが、ここにいるオーク全員を騙す為に、個人個人のCodeを書き換えるのではなく、もっと広域なCodeを書き換えたのだ。そういうCodeの操作があること自体は、ソウタから聞いて知っていた。

「そりゃそうだな」

「ほら、お前も演説を聞け」

「ああ、聞くよ。だが、まず、あっちに行っちまった奴を呼んでくる」

「ふん。好きにしろ」

 そう言ってから、そのオークは城に立つ人間の声に合わせ、拳を突き上げた。

「アタック! アタック! アタック!」

門上の人(あいつ)、戦争を煽ってやがる」

 俺は裏通りに入り、ミサキが消えた先を追った。

 角を曲がると、ミサキはすぐに見つかった。

「あなたとオークの様子、ずっと見てたわ。ねぇ、どう言うこと? なんでオークと平然と話せるの? Codeを書き換えたのなら、そう言ってよ」

 声は小さかったが、好奇心からなのか勢いよくそう言った。

「違う。俺じゃない。Codeを書き換えたとすれば、門の上に立っているあいつだ」

「余計にわからないって」

「人をオークと見間違うようにこのCodeを書き換えたんだ」

「じゃあ、戦争している地域じゃ大混乱ね」

「いや、そんな規模の世界の秩序(ワールドオーダー)を書き換えたら、『コード管理プログラム』に見つかり、ハルバルドと同じ目にあう。おそらく小さいエリア限定のCodeなんだ」

「分かったわ。けど、どうするの? あいつが、ゴブリンの王なら、戦争は止められない」

「Codeを元に戻して、あいつが人であることをバラすしかない」

「そんなこと、演説中に間に合うの?」

 ソウタに話を聞いただけで、やり方もどこをどう直せばいいのかも知らない。けど、やるしかない。

「やるだけやってみる」

「……」

 ミサキは言葉に出さず、ただ頷いた。

 俺は目を閉じた。

 建物に背中をつけて、地面に腰を下ろした。

 体は動いていないが、三半規管は、グルグルと後転を繰り返すような目眩を感じている。

 瞼の裏には、さまざまな箇所から、大量のソースコードが流れ込むように映し出されていた。

 字が読める程度に複数枚が重なり合い、高速な検索をかけている。

 何がキーワードかすら、わからない。そのせいで機械的な検索ができないのだ。ただひたすら愚直に閲覧を繰り返すしかない。

 閲覧を繰り返すうち、俺の直感に引っかかるCodeが少しずつ絞られてくる。

「アタック! アタック! アタック!」

「また煽ってるわよ。急いで」

「黙ってくれ、気が散る」

 ソウタが言っていた。

 女王は問題になるCodeの行の色が、自然(ナチュラル)に変わって見えるのだそうだ。

 Code改変能力の高さから『ドラゴンを統べる者』としてこの世界に降臨しているのだと。

 ならば、女王がこの相手と戦うべきだったのではないだろうか。

 なぜ俺にこんなことを……

 突然、サムの顔が浮かんできた。

『ケイゴ。俺がいない時にはお前がやるんだぞ』

 同じことを複数の人ができなければ仕事が回らない。サムに何度もそう言われた。

 俺が世界に存在する意味。

 あの時もそんなことを考えた。

 目を閉じた暗闇の中で、やっと人をオークに見せる魔法のようなコードを見つけた。

 オークという条件下で働く地域のCodeだ。だから俺やミサキは互いにオークだとは思わなかった。だが、オークから見ると、人間が全てオークに見えるのだ。

 俺は目を開いて周りを確認した。

 すぐにオークに見つかっては元も子もない。

「よし、書き換えるぞ」

 俺はCodeに触れ、書き換えた。

「キズン。広場の様子を見てくれ」

 俺は手を伸ばし、建物の軒の上にキズンを乗せた。

 軒の上を動いて、キズンは城の上の様子を見た。

『オーク達、かなり戸惑っているみたいだな。まだ捕まえようとはしていない。必死に言い訳しているようだが……』

 キズンの報告を受け取れないミサキが耳を近づけてくる。

「なんだって?」

「人だということには気づいた見たいだけど…… どうしていいかわからない感じだって」

「ここで本物の『ゴブリンの王』が出てくれば完璧なのに」

 確かにそうだ。

 城の門の上で偉そうに演説をしていたオークが人間だとわかる。その後ろから堂々たる姿の『ゴブリンの王』がやってくる。全く正反対な内容を語り始める。インパクトも、説得力も段違いだ。

 流石にここからではCodeを探査できない。俺の力で『ゴブリンの王』を呼ぶことはできない。

「そううまくいくかな」

「うまく行くように祈りなさいよ」

『男が捕まった。城の様子を見て、広場が騒ぎになってる』

 オーク達の騒ぎ声は、言われなくても聞こえてきていた。

 男は、Codeを書き換えて、自分をオークに見せるCode改変をして、万一それが解けた時のことは考えていなかったのだろうか。

 俺はキズンが見ているイメージに直接触れる。

 門の上の警備のオークが中央であたかもオークの王のように振る舞っていた男の腕を掴んでいる。

 後ろに下がって、広場からだと男の姿が見えなくなっていく。

 広場で見ているオークは様々な憶測で話し合う。

『なんだ今のは』

『鉄の精錬所であった火事に紛れて、人間が街に入ったって噂だ』

『いや、王の姿は人間に変わったが、王の姿をしている時の言葉には一貫性があった』

『そうだな。戦争を仕掛けると決まった頃から、王の態度や言葉に変化はなかった』

『そもそもなんの理由で戦っているんだ』

 オーク達は人になったことで混乱している。だが、当初からあの人間がオークを煽動していたのがあいつだったのだとしたら、俺はなんの為に本物の『ゴブリンの王』の考えを変えに来たのだろう。

 ざわつく広場をほったらかしにして、城の門の上には誰も立たず、なんの説明もない。

 次第に広場のオークの声は大きくなる。

『キング!』

『キング! お言葉を』

 次第に声がまとまってくる。

 一定のリズムで『キング!』と繰り返し連呼し始めた。

『キング! キング! キング!』

 門の上から警備のオークや、側近と思われるオーク達は困惑した表情を浮かべている。

 すると、奥から誰かが進んでくる。

『キング! キング! キング!』

 声がどんどん大きくなる。さっきまの戦争を進める「アタック!」の声より、声は数倍大きい。

 門の上のオークの顔が、明かりのもと、はっきり見えると、騒ぎ声は熱狂に変わった。

『キング! キング! キング!』

 現れたのは城で見た『ゴブリンの王(キング)』だった。

「ゴブリンの王が現れた」

「で、なんて?」

「まだ何も言ってない」

 広場のオーク達が突き上げる拳と共に叫ぶ。

 ゴブリンの王は微笑みながらそれに応える。

 そして、スッと手をあげ、止めると、広場のオークの声が止まった。

 出鱈目だと思っていたオーク達の、この統制された姿に、俺は鳥肌が立った。

『私は謝らねばならん』

 両手の拳を前に下げ、それと同時に頭を下げた。

 広場のオークも片膝をついてそれに応えた。

『私の影武者が戦争を始め、戦争を拡大していた。私自身も妻のエステルを失い、心が乱れていて、それを止めれなかった』

 王の声だけが響いている。さっきの戦争演説とは違い広場は異常な静けさだった。

『だが、ある出来事により、私は心を取り戻した。勇気ある者の心に触れたのだ』

 俺はなんとなく、それが自分のことだと思っていた。

『最初からすべきではない戦争だ。何か得るものがあっただろうか? 鉄? 領土? それだけだ。失ったもの考えてくれ。世界の秩序、平和な生活や心、トロルに食われた食糧…… 全土が戦争の混乱に乗じて乱れている。これが私のしたかったことではない。断じてない。今、ここにそう宣言する』

 これが事実上の戦争終結宣言なのだろうか。

 広場のオーク達が、ぽつ、ぽつと立ち上がる。

 立ち上がるのは『賛成』ということなのだろうか。

 一気に全オークが立ち上がり、その場で飛び跳ねる者もいた。

 歓声と拍手が巻き起こり、鳴り止まない。

 俺はキズンのイメージを読むのをやめ、ミサキを見た。

「今、ゴブリンの王が、戦争終結を宣言した」

「うん。わかってる」

 ミサキの瞳に涙が溜まっていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ