表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/39

「首都ダウンチューブへの侵入」




 馬車の車輪には鉄が巻かれているだけで、車輪と荷台の間にサスペンションはなく、街道の凹凸が直接響いた。

 元々こういう振動や揺れに慣れているキズンはともかく、ミサキと俺は繰り返し吐き気が襲っていた。

 吐くわけもいかず、もう一度それを胃に戻すことで、状況はより悪化した。

 しばらく進むと、馬車を路肩に寄せて止めた。

 振動に苦しんでいた俺達は、顔を見合わせ、安堵した。

 ぐっすり寝ていたキズンは馬車が止まると目を開けた。

『何だろう。ちょっと見てくる』

 キズンは体の小ささを生かして、状況を確認しに馬車の端に向かった。

『なんだ、大きな影が見えるな。あれとすれ違うために道を空けたんだな』

 キズンが言った直後から、荷台が揺れ始めた。

 初めは軽い振動だったが、次第に揺れが大きくなる。

 大きくなるに伴い地響きも聞こえてきた。

 何か大きなものが北からやってくる。俺の中で、重く、暗く、陰鬱な感情が湧き上がってきた。近づいてくる者がもたらす雰囲気を感じ取ったとしか思えない。

『ありゃ、いかん。トロルだ』

 キズンがそう言うと、慌てて俺の元に戻ってきた。

『トロルが戦争に加わるとまずい。一気に戦力バランスが崩れるぞ』

 俺はキズンが想像するイメージに触れた。

 灰色の肌の大男が、人を踏みつけて殺していく。

 槍に刺された痛みも、マスケットで撃たれた事も、何もかも、無視したかのように進む。

 背負っているランドセルから、オークが飛び降りて円月刀を振るう。

 暴れ回るオーク。

 さらにトロルの拳の一振りで、四、五人の兵士が死んでしまう。

 あっという間に戦力のバランスが傾く。

『それよりまずいことに…… トロルは人間を憎んでいる。人の臭いが分かると言われている』

 えっ? どれくらい匂いが嗅ぎ分けられるか知らないが、最悪、ここですれ違う時、俺たちがいることがバレてしまう。

 馬車を運転しているオークのCodeだけ書き換えても騙せない。

 すれ違うトロルを騙さなければいけない。

『トロルのCodeを書き換えれるのか?』

 と、キズンは一方的に話しかけてくる。

 わからない。俺はトロルのCodeを知らない。今、初めて触れるのだ。トロルの嗅覚と、俺のCode書き換えの戦いになる。

 次第に振動が大きくなる。

 必死にCode探査を伸ばす。届かない。

 それよりトロルが背負ったランドセルにいるオークのCodeが見えてしまう。

「!」

 そんなバカな。オークが見えているということは、見えるはずだ。より近くにいるトロルのCodeが見えないはずがない。

 俺はもう一度、気持ちを集中させる。

 突然、振動が止まった。

 まずはトロルの足だ。足はどこに……

 足、足のCodeは見えた。これをたどって上がればいい。

 やっぱり見えなくなっている。まさか、Code除けを使っているのか。だとしたら、おしまいだ。

 キズンは俺の考えが読めたのか、再び荷台の端に移動してトロルを確認する。

『Code避けをしているようには見えないぞ』

 俺はもう一度、冷静に、順番にCodeを追う。

 足、腰、胸、首、頭…… 頭? 何だろう頭がないかのようだ。

「!」

 俺はようやくトロルのCodeを見つけた。小さな小さな穴(ピンホール)から入り込むと、ようやくトロルの主Codeに辿り着いた。気づかないわけだ。

 通常、人やオーク、草木にしても光り輝くように性質を表すCodeが漏れ出ている。それに比較してトロルのものは物体としてCodeばかりで、精神や性質を示すものが隠れている。本当に僅かな光がそこから漏れ出ていたから気づけたが、周りにいるオークが多かったら埋没してしまって気づくこともなかっただろう。

 トロルのCodeは単純で、短いものだった。俺は素早く書き換えて探査を終了した。

 しかし、トロルは立ち止まったまま動かない。

 何やら馬車の運転をするオークと、トロルの背中にいるオークが話を始めた。

 俺は必死に聞き耳を立てる。

「おい、どうした、お前らが先に進まないと馬車を出せねえ」

「トロルは荷台に何か見つけたみたいだ」

 まずい。ミサキに隠れろと合図する。

「何もねぇよ。俺もさっき荷台は見てるんだ」

 運転しているオークは実際には荷台を確認していない。俺がCodeを書き換えて、そう思わせているだけだ。

「……そうか」

 トロルに乗っていたオークが荷台を覗いてくる。

 キズンは頭から布を被ってじっと息を潜めていた。

「?」

「トロルが、さっきまで言っていたことと違うことを言い始めた」

「何だって?」

「何もいないだと。気のせいだったって」

 俺はため息が聞こえないよう、静かに息を吐いた。

「じゃあな」

 オークはトロルのランドセルに登っていくと、トロルが歩き始める。

 物凄い振動と音が、南へと移動していく。

 振動が小さくなってくると、オークは馬車を走らせた。


 停留地に入ると、馬車を止めオーク達は簡易テントを立て、酒を飲み始めた。

 ミサキと俺は、食事の音が響かないように食事を控えていた。オーク達が騒いでいる内に蓄えていた木の実を口にした。

 今日の移動距離は歩いて進んだのとは比較にならない。

 この調子なら明日の夜には首都ダウンチューブだ。

 俺は馬車に乗り込む前に話し合ったことを思い出していた。


「人間やノームの中で、ダンチューブに入ったものは誰もないわ。過去はいたかもしれないけど、記憶を持つものにはいない。おそらく女王も入ったことがない」

「じゃあ、どうするんだ」

「我々の目標はあくまで『ゴブリンの王』の思考を書き換えること。アンプ城に忍び込めばいいだけよ」

 ミサキは言い切った。

 オーク=ゴブリン国アロコス。現在はウルティマトーレなどと呼ばせているが、ダンチューブの大きさは誰も知らない。アンプ城がどこにあり、どんな構造なのかも、知る者がいなかった。

「簡単に言うな」

「誰も知らないのだから、そう言うしかないでしょ」

「……危険だな」

「それはこの任務を受けた時に気づくべきだわ」

 無策。

 その二文字しかなかった。

 やはりキズンが鳥などの背中に乗って偵察し、その情報を持って瞬間、瞬間に判断するしかない。

 キズンが捕まれば、明かりを失って闇に放り出された状態になるだろう。

 ミサキはキズンを見た。

 俺もその視線を追って、キズンを見る。

『俺を見るな、俺を』

 その為のキズンなのだろう。ある程度はCodeを読めばわかることもあるが、Codeを読んでいることに気づく勘のいい連中もいる。それにCodeを読んだりする体力は、ゴブリンキングを書き換える時や、俺たちが安全に脱出するために取っておきたい。

「おそらく、オークの馬車は、ダウンチューブに夜着くわ」

「なぜ?」

「朝や昼間についてしまうと酒場が開いていないし、別の仕事を振られるからよ。ちょうど夜につけば、そのまま宴会をやっても咎められない」

『ミサキは、オークの性質をよくわかっているな』

「なるほど。俺たちは夜に乗じて、馬車を抜け出せばいいわけだ」

 右も左もわからない世界に、夜放り出されるのは幸か不幸か、はっきりしない。

 周りに気づかれない代わりに、街や道を正確に把握できない。

「城に入る前に鳥を捕まえないと」

「鳥と虫とどっちがいいんだ?」

『鳥はコントロールしづらい。虫がいいんだが』

「贅沢言うな。大きい虫は捕まえるのが難しい。鳥で我慢してくれ」

『……なら初めから聞くな』

 キズンは拗ねてしまった。

「情報がないのだから、あまり先に話し合っても無駄よ」

「けど、馬車に乗ったらほぼノンストップだぞ」

「どこかで話せるわよ」

 ミサキは意外と楽天的だった。

 俺はもっと計画を詰めたかったが決まったことは、鳥を捕まえる。キズンで偵察する。夜のうちに城に入る。その三つだった。予想通り、オークの馬車が夜にダウンチューブにつけばいい。これが朝や昼についたら目も当てらない。

 馬車の運転手は騙せるかもしれないが、周り中のオークだらけだ。コードを書き換えて対処することことはできない。白昼の街を三人で逃げ回る羽目になる。

 そこで時間切れだった。


 話し合いのないまま、ここまできてしまっている。

 オークを起こさないよう、ダウンチューブに着くまでは話せない。もちろん、ダウンチューブに着いた後、話し合える状況になるかも分からないのだ。

 Code受け渡してミサキと話せれば……

 俺はそう思って横を向く。

 ダメだ。ミサキはもう寝てしまっている。

 俺は悩みながら目を閉じていると、寝てしまった。


 次の日も順調に街道を北へ進んだ。

 夕方になると、キズンが馬車の先方に行き状況を確認した。

『街が見えてきた。おそらく、あれがダウンチューブだろう』

 キズンが見ているイメージを読み取る。

 黄土色の、巨大な蟻塚のような建物が並んでいる。

 これがオークの住まいなのか。奥に山のような、高い建物がある。色は同じだが、蜂の巣のような六角形を重ねたような不思議な立体構造をしていた。おそらくあれが『アンプ城』なのだ。

 馬車はスピードを出したまま、ダウンチューブの中を走り続ける。

『何だろう。街に止めないのか』

 キズンの見ているイメージでは、馬車はダウンチューブの街を掠めるようにして通過し北東に進んでいる。

 この馬車はダウンチューブ行きじゃないのか。

 そう思っていると馬車が減速を始めた。そして慎重に坂を登っていく。ここならダウンチューブからさして離れていない。まだ少し明るいから、この辺りから戻れば、夜のうちにアンプ城に行ける。

『暑いな、いや、熱いというべきか』

 偵察に行っていたキズンが伝えてくる。だがオークの国は北に位置する。しかも高地なのだ。この時間帯に暑いことがあるか。

 偵察から戻ってくると苦しそうだった。

『熱い。耐えられない』

 俺の服の胸ポケットに入ってしまう。

 運転しているオークが何か話している。

「こっちにつければいいか?」

「そうだな。鉄鉱石を全部落としてくれ」

 俺は少し体を捻って運転しているオークの方を向く。馬が外れて、馬車が傾いた。

「?」

 馬のいた方が高くなり、後部が下がった。

 俺とミサキは積荷と一緒に滑っていく。

 鉄と木炭の山が交互に並んでいる。

 熱いわけだ。ここは、大きな大きな鉄の精錬所なのだ。

 そして滑り落ちていく先には、砂鉄、鉄鉱石や木炭を混ぜて焼く炉がある。

 このまま積荷と共に落とされたら、焼けて何も残らない。

「ミサキ!」

「わかってる」

 ここにオークがどれだけ居るのか。戦って勝てるのか。鉄の精錬所のオークは武装していないだろうが、体格と数が違う。

 流れ落ちていく鉄鉱石に足を取られる。

「?」

 炉に降る傾斜の淵にオークが立ってこっちを見ている。

 Codeを書き換えないと…… 気持ちは焦るが、Codeの書き換えが出来ない。斜面から落ちないように、体を動かすので精一杯だった。 

 俺は再び見上げる。オークは気づいているはずなのに、仲間を呼ばない。

「どいて」

 ミサキの声がした。

 俺にはその意味がわからなかった。

「!」

 オークが顔から倒れると、うつ伏せのままのオークは斜面を滑り落ちてしまう。

 横に移動して、オークの体をギリギリで避けた。

 オークの立っていたところにミサキがいる。

「助かった」

 俺は手を伸ばすが、ミサキは体についたオークの血を処理するのに忙しかった。

「これを間違えると死ぬわ」

「もう一体オークが居なかったか?」

 ミサキは、下を指さす。

「先に降りてしまったみたい」

 この連なる丘は、丘の一つ一つが高炉になっているのだ。人間の製鉄の設備は知らないが、この規模で鉄を作られていては、どう足掻いてもこの戦争で勝ち目はないだろう。

「鉄を作るんなら、何か燃えるものがあるはずだよな?」

「はっきり、石炭とか木炭とか言いなさいよ」

「どっちだったかなと思って」

「で?」

「見つけたら燃やそう。火事を起こす」

「……それ必要?」

「このまま鉄を順調に作られたら、俺たちがうまくいかなかった時、どうする」

「戦争の勝ち負けのためにやっているんじゃないはず」

「鉄の供給が遅れれば、俺たちが失敗した時、次の策のために時間が稼げる」

「……」

 俺たちは丘をおり、石炭を格納している小屋を見つけた。

「いくつもあるわよ」

「一つ燃やしただけじゃダメだな」

 俺の言葉にミサキは半ば呆れたようだった。

「やるけど」 

 小屋に火をつけた。

 俺たちは小屋に火をつけては、移動していく。

 五つ目の小屋に火を付け、三つ目の小屋も大きく燃え始めるとオーク達も騒ぎ出した。

 次々にオーク達が集まってくる。全ての石炭に火がつかないうちに分離しようとしているのだ。 

「これくらいにしたら?」

 ミサキが言う。

「オークが多すぎる。陽動も出来たから、このままダウンチューブに入ることは簡単だと思うし」

 俺は連なる丘が燃え上がっていくのを見て、頷いた。


 黄土色の巨大な蟻塚の塊。

 オークの都市、ダウンチューブの印象はそれだった。

 整然と並んだ蟻塚にオークが住んでいるかと思うと、恐怖で足が震える。

 通りを歩けば、絶対にオークに見つかってしまう。

 しかし、どちらが表側でどちらが裏側かわからない。建物のどちら側を通っても見つかってしまいそうだ。

 俺はまず、食べる為に持っていた木の実を使って引き寄せると鳥を捕まえた。

 キズンが鳥を操り、先に街を偵察する。

 通りにオークがいないか、道が間違えでないか。

『だめだ、左の通りはオークが複数道に出ている』

 俺はミサキに仕草で伝える。左そして指でバツを作る。

 そうやって街中を進み、俺たちはアンプ城を目指した。

 忍びこむのは今夜しかない。夜は警戒が薄いはずだからだ。

『見えてきたぞ、アンプ城だ』

 キズンのCodeに触れ、キズンの視点からアンプ城を見た。

 周囲には幅は狭いが、深い掘りがあって、それにより城は街とは隔離されていた。

 遠くから見た際の蜂の巣のような六角形の立体構造は、下側の土台部分だけで、土台の上には街で見る建物と同じ蟻塚状の山が幾つかある。オーク達の住まいはあの黄土色の蟻塚状の建物が、生活の上で都合が良いのだろう。

『大丈夫だ、街と繋がる橋は降りている』

 キズンの言葉のイメージがまだ見えない。キズンはどこを見てそう言ったのだろうか。

 キズンに誘導されながら、街中を進んでいくと、アンプ城と街を繋ぐ大きな橋が見えた。

 橋は緊急時に跳ね上げられるよう、綱が城側につながっている。

 城の橋の街側には大きな広場があり、対する城の橋の付け根の高くなっているところに幾何学的な模様の入った立派な(ゲート)があった。

 王が民衆に話しかけるための場所になっているのだろう。

 まだ夜は浅く、広場にはオーク達が重い思いに過ごしている。

『まだ無理だな。少し休もう』

 キズンが鳥と共に戻ってきた。

 建物の壁に背を預け、体に布をかける。ミサキと順番に警戒しながら、休憩を取った。


 夜深くなると、橋の前の広場からオークの姿が消えた。

 橋が跳ね上がっていたらと心配したが、アンプ城とは繋がったままだった。

 再びキズンは鳥を操り、偵察に飛び立った。

 橋の先の門は大きな門と、右側にある小さな通用口の二つがあった。

 城には当然、警備がいる。

 しかしキズンと連携すれば、扉に近づくタイミングがわかる。

 俺が扉に近づいてしまえば、扉越しとはいえ、距離の近いオークのCodeを書き換えるのは容易だ。

『警備のオークはCode除けをつけてないな』

 俺たちは、ダウンチューブ側の橋の(たもと)に隠れて待つ。

『ん、うまい具合に交代するみたいだ。準備しろ』

 俺はミサキとアイコンタクトし、頷いた。

『よし、今だ!』

 ミサキに合図して、大きな橋を素早く渡り切る。

 そしてアンプ城側の小さな通用口側に待機する。

 なるべく壁際に体を付けるが、ダンチューブ側から見れば俺達の姿は丸見えだ。一番危険な状態なのだ。

 早く来てくれ、と俺は願う。

『待てよ…… まだ複数いる。よし、一人がそっちに降りていくぞ。もう少し』

 キズンが警備のオークが一人、通用口の近くを通ると言った。そいつのCodeを書き換えて、扉を開けさせる。扉を開けさせたら、そのオークはしばらく寝ていてもらう。

『門の脇から、城壁に沿って進めば、門の上の警備からは見えないだろう。入ったら右に進むんだ。小さな窓が空いているから、そこから中に入ればいい』

 俺は門に手を触れる。

 門のCodeが頭に入ってくる。

 朧げに見覚えのある姿が頭を掠める。違う、こんなことをしている場合じゃない。俺はCode探査の範囲を広げる。

 降りてきたオークのCodeが見つかった。

『そこにいるぞ』

 分かってる、俺はそう思いながらオークのコードを書き換える。

 通用口の鍵を開けろ、という偽の記憶を与え、扉に近寄らせる。

 そして強い疲労と、睡眠欲求を極限まで高めてやる。鍵を開けた途端に眠りに落ちるぐらい……

 簡単な仕掛けの鍵が開く音がする。深夜にこの音は大きすぎる。俺は焦った。

 素早く扉を開けて中に入る。

 大きな体のオークは意識をなくし、鍵を放り投げて倒れていく。このまま鍵が下に落ちればもっと派手に音がする。

 俺は体を伸ばし、飛んで鍵を受け取る。

 そこへオークが倒れ込む。

 背中に岩が落ちたような衝撃。だが、声を出すわけにはいかない。肺が押し潰されて、息が苦しい。

 その間にミサキが扉を閉める。

 俺はオークが起きないように、ゆっくりオークを転がして退ける。

 右に行くか、左に行くかわからないミサキに俺は指で進むべき方向を示す。

 両手の指で、窓を示す四角を作ると、そこに放物線を描くように手を動かす。あの窓から飛び込む、と言うことが伝わっただろうか。まあ、俺がやって見せれば問題ないだろう。

 城壁沿いに進み、その窓の近くにやってくる。

 城壁自体は監視用の通路のために、上部が広くなっていて、確かに下は死角になっている。

 ただ窓に飛び込むには少し内側に入ることになる。警備のオークが、城の内側に目を向けていたら、その瞬間は丸見えになってしまう。

 俺はギリギリまで近寄ってキズンの指示を待つ。

 指示が来ない。

 まさか、捕まったのか? 捕まったなら、何か伝えてくるはずだ。

 もしかして、飛び込むのは勝手に判断しろと言うことだろうか。

 城壁から上空を探すが、闇も深く、キズンの乗った鳥は見えない。

 俺はチラチラと城壁の上で監視するオークを見ながら、タイミングを図り、走って飛び込んだ。

 ミサキは不意を突かれて動けなかったようだ。

 オークからは見えない角度から窓に近づき、ミサキの様子を見た。

 仕草でなんとか伝えようとする。オークの方向を指で示し、タイミングよく走って飛び込め、と。

 ミサキがチラチラと斜め後ろを見ながら、準備を始める。

 そして、走り出すと小窓に飛び込んできた。

 飛び込んだ時に外にあった木の台に足を引っ掛けてしまったらしく、大きな音を立ててしまった。

「!」

 まずい。

 俺とミサキは小窓の両脇で互いの顔を見つめた。

 オークが何か騒ぎながら、城壁の上から降りてくる。

 降りてきたら眠っているオークに気づくだろう。城の奥に逃げよう、と考えたとき、小窓の外で鳥が鳴き、羽ばたいた。

 俺は小窓からオークの様子を見ていると、その鳥の鳴き声と羽ばたきを見て、オークは再び城壁の上に戻っていった。

 俺は壁に背を預けて、座り込んでしまった。

『うまく行ったな』

 小窓から、キズンが降りてきた。

「今の鳥、お前か」

 キズンが頷いた。

「機転を利かせてくれて、助かったよ」

 キズンは胸を張って偉そうに振る舞う。

「それにしても、ここ、臭いわね」

 ミサキに言われて、初めてそれに気がついた。

「確かに」

『当たり前だ。ここはゴミ溜めだからな』

「マジか!」

 声を抑えながら怒った。 

『ゴミ溜めだから、そんなにオークも近づかない』

「とにかく、寝ているオークに気づかれる前に城の奥へ進もう」

「ええ」

 俺たちはゴミ溜めから城の奥へ入る道を探し始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ