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水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


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「女王の祈り」




 人とオークの戦いが始まって、既にいくつかの人の国がオーク達の手に落ちていた。

 それは戦力の違いだった。戦力の違いは、すなわち所有金属保有量の量の違いだった。

 オークには、兵士の数だけ円月刀がある。

 それに比較して、人は先端が金属になった槍を持てるものは四人に一人、フルサイズのマスケットを持つのは二十人に一人、ほとんどの兵士は木製の槍を持って戦うような状態だった。

 倒したオークが落とした円月刀は、人が拾った場合は槍の先や、マスケットの素材にされた。一部の体格の良い者は、そのまま使うこともあったが、ごく稀だった。

 落とした円月刀には、オークの血がついている場合が多く、回収は慎重に行う必要があった。

 オークの血が人間にとって毒になるという事実は戦場では非常に大きな問題になった。

 オークはそれを知っているから、仲間の死体を兵器に再活用する。

 頭部は投石器の石とまぜ、弾とした。

 肉は仲間の食糧となり、血は固めて、投げつけたりする為に使われる。

 彼らオークにも、仲間に対する敬意はあるが、死や死後に対しての考え方が明らかに人間と違っていたのだ。

 死後、精神は肉体を手放す、とオークは考えていた。だからオークにとって遺体は、今生きてきる仲間ものだった。好きなように活用して構わない資源(リソース)。その肉体に精神(たましい)が戻ってくるとは考えていないからだ。

 ただ、決して命を軽んじているわけではない。合理的なだけだ。

 あちこちにオークの血が混じっていると、怪我などの傷からその毒が入る。手や顔についたオークの血が、目や鼻、口から入っても毒にやられてしまう。蛇などの毒とは違い、数分で死ぬわけではないが、毒の入った人間は戦えなくなるから戦線を離れねばならない。十分な衛生状況を保てない戦場において、オークの血で溢れている状況というのは非常に危険だった。

 対照的に、人に死者が出ると、遺体を運んで穴に埋めた。

 墓標を立て、名前を刻んだ。

 そこに誰が死んだか書いてあるが、家族に知らせるわけでもない。せいぜいオークに死体を取られないようにするぐらいの意味しかなかった。

 そんな状況の中、人の勝ち目はわずかだった。

 例えば穴に落として、人数有利な状況を作りオークを個別に撃破するしかない。

 そんな地形がそこかしこにあるわけではない。

 一度穴に落ちれば、次にくるオークはその穴には引っかからない。

 穴を乗り越えてくるオークに複数の兵士がやられていく。

 開けた穴や地形を使い切れば、不利になる人間の軍は後退するしかなかった。

 後退していく中、罠や地形的有利を作れる森の戦いだけが残された希望だった。

 木々に縄を張り、穴を掘り、巧妙に隠した罠に嵌めることで、森では人が有利に立った。

 だが、森を超えては戦線を押し戻せない。森を出ればまた元の戦いに戻ってしまう。戦線は森で固定だ。

 今、人間の軍には鉄が必要だった。

「女王、このままでは、人は生き絶えます」

「かと言って降伏はできません。降伏すれば絶滅が早まるだけです。南からの鉄を待って反撃しましょう」

「作って兵士に渡すまでにはさらに時間がかかります」

「極秘ですが、もう一つの作戦も実施しています。ただ即効性はないので、戦線は森を使って耐えるのは同じですが……」

 言いながら女王は、ケイゴ達のことを思い描いた。

 今どこにいるのか。

 人の国の中では、オークに降伏する案も出始めた。

 今のままのオークのアロコス、いや『ウルティマトーレ』に降伏したら、人は皆殺しになるに決まっている。

 彼らには、それが理解できないのだ。

 キズン、ミサキ、そしてケイゴ。早く『ゴブリンの王(キング)』の説得を……

「オークは『トロル』を前線に送る計画をしているとの噂です。トロルがくれば森を利用した戦いなど無意味です」

「……」

 女王は『トロル』のことを考える。

 トロルはドラゴンに次ぐ陸上二番目に大きな生物だ。

 灰色の肌を持つトロルは人を憎んでいる。昔のトロルは変身能力を持っていたが、日中動けなかった。

 神と契約して変身能力を失うことを条件に、日中動けるようになったという。

 さっき側近が言ったようにトロルが加わると、森を利用してなんとか前線を維持している人の軍にとって脅威になる。トロルが前線に到達するのに何日かかるのか。

「エルフの力があれば」

「それは無理な話です。人は何度もエルフを裏切ってしまったのですから」

「ホビットの新しいマスケットを戦線に導入するというのはどうなっていますか」

「……ホビットは納得した形になるまで出そうとしません。急がせたり、無理を言ったりすればヘソを曲げてしまいます」

 側近は地図を見つめ、再び黙ってしまった。

 女王は北に開いた窓から、山を見つめる。

 ケイゴ…… 急ぐのです。残された時間は長くありません。

 女王は手を合わせ、指を組んで祈るように瞼を閉じた。




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