「キズンの作戦」
残した少しばかりの夜を、代わる代わる休憩して過ごし、明るくなったと当時に出発した。
山は険しかったが、長くはなかった。
陽が落ちる頃、麓が一望できた。
いよいよ北の地に入ったのだ。
オーク達の国の主要な部分が、この高地にある。
高地であり、同様に緯度も高く、木々に針葉樹が多くなるのは元の世界の理屈と一緒だった。
眺めながら考える。
この高地を南北に走る街道に沿って進めば、首都ダウンチューブにつく。
だが、街道は軍の補給部隊がひっきりなしに行き来している。
だから、そのまま街道を通るわけにはいかない。
並行している道も、少ないとは言えオーク達が行き来している。
道を堂々と歩けば、あっという間にやられてしまうだろう。
俺たちは麓を見下ろしながら考えた。
「キズン。どこをどう進む?」
『普通に考えれば、街道を避け、森をこう』
俺はキズンのイメージを手で示した。
ミサキは腕を組んで、ルートを見ている。
「まあ、妥当ね」
『もう一つ手はある』
「キズン、もう一つの手ってのは、なんだ?」
『君がCodeで洗脳して、オークの馬車に乗せてもらうんだ』
「オークの馬車に?」
キズンが送ってくるイメージを見た。
オーク達は移動に馬車を使っていた。
寒冷地でも働ける、体が大きく足の太い、荷物を運ぶのに適した馬だ。
その馬に、車を引かせている。
南へは兵士、武器、食糧を。北へは鉄鉱石や怪我人を運んでいる。
『昨日の能力があれば、馬車に潜り込むのはわけないだろ』
「昨日の能力ねぇ…… オークの考えを変えさせたり、隙を作るとか、フリッカー融合頻度を下げたりするには、Codeを書き換えれる距離に近づく必要があるんだ。そう簡単に」
「私がマスケットを撃って、囮になる。ケイゴは隠れていて、近づいた瞬間に私たちのことを見えなくなくなるようにCodeを書き換えて、その隙に乗る。乗ってしまえばしばらくの間は何もする必要ないわ。降りるときだって、近くにいるわけだからもう一度書き換えればいい」
「ミサキは馬車乗っ取り作戦に賛成、ってこと?」
『それが早いし、楽だ』
「……乗り込んだ後、本当に問題ないかな」
「動いているものが見えにくくなっているなら、馬車に隠れている間は、書き換え続ける必要はないんじゃない?」
『その通りだと思うぞ』
「キズンも同じ意見のようだ…… 大丈夫かな?」
「あまり考えている時間もないわ」
「わかった。それで行こう」
俺たちは、闇に紛れて麓に下りオークの馬車を狙った。
街道近くの森に隠れ、ミサキは陽動のために少し離れて待機した。
いくつかの馬車が止まっている。
オークは、遊牧民が作るゲルやパオと言った雰囲気の簡易テントを作っていた。
そこを出入りしているオークの数が多すぎる。オーク全員のフリッカー融合頻度を書き換えたら、時間がかかるし、大変な力を消費してしまう。
俺達は、馬車が出発し、オークの数が減るのを待った。
夜が深くなると、馬車も減って、覚醒しているオーク達も減った。
キズンが昆虫に乗り込むと、オークの近くまで行って、オークの首や、腕にCode避けのお守りや、ブレスレットなどがないかを確認してもらう。
『大丈夫そうだ』
キズンからの答えをもらうと、俺はミサキにCodeで意思を伝え、タイミングを合わせる。
音でオーク全員が起きてしまったら最悪だった。
俺はただ祈った。
パン。
小さく音が響いた。
音は小さかったが、火縄と火薬の匂いが漂ってきた。
見張りで起きていたオークが立ち上がると、あたりを見回してから、馬車の周りを周回した。
もっとこっちに来い…… ミサキがもう一度マスケットを撃った。
見張りのオークが気付いたようにこっちに近づいてくる。
俺はCodeを書き換える準備をする。
もう少し…… 来い。あとちょっと……
「!」
鳥の声が、森に響く。
オークは鳥の声に反応して、怒ったように円月刀を振り上げた。
オークが何か叫ぶと、鳥は羽ばたき飛び立った。
奴はマスケットの音を忘れてしまったように、元居た場所に戻って座ってしまう。
マスケットの火薬も無限にあるわけじゃない。
音を出す為だけに火薬を少なくしているが、何度も撃てる余裕はない。
俺は起きているオークの死角から近づき、Codeを書き換えることにした。
『ミサキ、作戦を変える……』
俺は音を立てないように森を抜けると、馬車やオークの簡易テントに隠れて進んだ。
『ケイゴ、ここだ。拾ってくれ』
街道に立っている小さな影を拾い上げ、肩に乗せる。
ミサキも急いでこっちに向かっている。
俺は意識を広げ、起きているオークのCodeにアクセスする。
ソースコードが見ている景色にオーバーラップする。
書き換え箇所のコードの色が変わる。
よし、これでオークに見つかることはないだろう。
俺は動き出して、ふと考えた。
この馬車のどれに乗ればいい?
荷物を見るしかない。鉄鉱石を乗せていれば『北行き』で、武器や食糧なら『南行き』だ。
俺は急いで移動して立ち止まらないように馬車の中を見た。
見張りのオークの視界に入っていてもおかしくないところを移動したが、見つかった感じはない。
俺は三台目の馬車を覗き、鉄鉱石が乗っているのを確認すると飛び込んだ。
すぐにミサキも同じ馬車に乗り込んできた。
馬に運ばせるには鉄鉱石は重いのか、人が隠れるほどの山になっていない。
俺達はボロ布に包まり、鉄鉱石を適当に乗せてカムフラージュすることにした。
鉄鉱石の匂いは強いものではなかったが、幸いなことに火縄や火薬の匂いを紛らせるには十分だった。
俺達は馬車の荷台で、交互に休息をとることにした。




