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水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


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「フリッカー融合頻度」




「教えねぇ」

 セイトはそう言うと、うつ伏せに倒れ、息絶えた。

 ミサキは横に立っているケイゴにたずねた。

「何言ってるの?」

「Codeを追って、セイトを転生させた者を探っていたんだ」

「分からなかった、というわけね」

「……」

 一瞬見えた片目の男。

 片目の男と言えば、あの警察の長官しか思い浮かばない。

 あれが大ボスなのだろうか。

 ミサキは、目のあたりを指で擦っている。

「出来れば他人の手を煩わせたくなかったのだけれど……」

 悲願だったのだ。

 なんとしても復讐を成し遂げたかった。次の転生があった場合はわからないが、これで同じ立場になった。

 この世界でセイトを殺しても、俺が黙っている限りミサキは『殺人罪』にはならないだろう。だから、完全に同じではない。だが、そもそも転生したくてここにいるわけじゃない。元の世界でまともな人生を過ごせなかった事が、これで晴らしたことになるのかはわからない。

 そこは、ミサキの心の問題だ。

 あの重い夢を見なくなれば、初めてミサキは自分の人生を取り戻したことになる。

 握りしめているマスケットも、格闘術も忘れ、平凡な生活に戻ることが必要なのだ。

 そんなことを考えながら、俺はただセイトの死体を見て泣いているミサキの横に立ち続け、セイトの死体が動き出さないか見つめていた。

 ミサキは肩から前に出していた、長い髪の編み込みを解きはじめた。

 まるで狙っていたかのように風が吹くと、ミサキの長い髪を、大きく後ろに流した。

「!」

 凛々しい表情のミサキが、俺に短剣の柄を差し出した。

 俺は何も言わずに短剣を受け取る。

「切って」

 首の後ろで髪を握り、背中を俺に向けた。

「上側を? 下側を?」

 しばらく間が空いてから、ミサキは言う。

「私の手の上側で切って」 

 俺は首の下に剣を差し込み、刃を外に向けて髪を切った。

 すごい量の髪が、ミサキの手に握られた。

 ミサキは叩きつけるようにセイトの死体に髪を放った。

 目を閉じて、何か呟くように口を動かす。

「終わり」

「?」

「終わったわ」

 短くなったミサキの髪を風が撫でていく。

「……そうか」

 良い雰囲気だ。

 俺は勝手にそう思っていた。

 突然、ミサキは目を細くして、俺を睨むようにして言う。

「何が『そうか』よ。カッコつけないでよ」

「別に格好つけているわけじゃ」

 俺は手で押さえるような仕草をした。

 ミサキは何か思い出したように指を立てて言った。 

「そう言えば、あの時、あなた何をしたの。あの感じだと、セイトからあなたは見えていなかった」

「セイトがミサキに施したCode変更をそのまま、セイトにやってやったのさ」

「だから、何をしたの」

「フリッカー融合頻度を下げてやったのさ」

「余計にわからないわ」

「元の世界でさ、蛍光灯って明かりを覚えている? LED照明でもいいけど」

「バカにしてるの?」

 俺は頭を掻いた。

「蛍光灯とかを動画に撮って点滅して写ったりした経験ある?」

「ないわ」

「……」

 俺は用意していたたった一つの例が通じないことで挫折しかけた。

 必死に何か別の例を考える。

「分厚い本の端っこに絵を描いてパラパラ漫画というか、アニメーションを作って遊んだことある?」

「ええ」

「あれは人の目に残像が残るから動いて見えるんだけど、ある程度ページを早く動かす必要があるよね。ページの捲る速さ、それがフリッカー融合頻度だと思ってくれればいい。遅くされた相手は、しばらく前に見た映像を消さないで取っておく。そうしないと全てが点滅して見えてしまうからだね。いや、本当に点滅しているものは点滅して見えても構わないんだけど」

「パラパラ漫画を捲る速度が遅くなり、相手の動きが見えなくなってしまった。つまり、相対的に周囲が速く動いているのと同じってこと?」

「そういうことだ」

「けど、いくら動きが速くたって、マスケットが放った弾丸を避けることはできないでしょ」

「マスケットの発射スピードなら、ミサキの指を見てれば避けれるだろうし、ミサキの目に残像を残せば良いだけだから、実際、ずっとミサキの正面に立っている必要もない。ミサキは普通の目をした第三者から見れば、誰もない虚空に向かって引き金を引いたことになるんだ」

「……」

 動いているところは見えず、止まった時だけ姿が見えるとすれば、ケイゴが言った通りの結果になる。

 銃を撃つまでは、正面で立ち止まり、また走って移動する動作を繰り返す。走っているとフリッカー融合頻度より早くなり姿は見えない。立ち止まった時の残像だけを見ているから、まるで正面にずっと立っているかのように見える。銃を撃ったと思えばその撃った方向に進んだり、立ち止まったりすることを止めれば良いだけだ。

 セイトからすれば動いている間中、ミサキの目に映ることはないのだから。

「けど、こんなに刺される前に助けられたんじゃない?」

「……」

「今度、逆の立場になった時、私もそうするわよ」

「えっ……」

 ミサキは、踵を返すと元居た横穴の方へさっさと進んでいった。




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