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水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


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「転生者の対決」




 ミサキは登ってきた道を降っていた。

 雲が掛かって、天体の明かりが届かない。

 マスケットの火種でぼんやり見える道を進んだ。

 もう意識を広げて届かない距離は戻ってきた。

 そろそろアイツと接触してもいい頃だ。

 そう思ってミサキは暗い道の先を凝視した。

 虚空に目だけが浮いている。

 目だけが浮くわけはない。暗くて他が見えないだけだ。

 冷たい、冷酷な目。

 その目をミサキが見間違う訳がなかった。

 夢の中で何度も見た目だ。間違いない。こいつはセイトだ。

 ミサキはマスケットの弾丸を確認する。

 顔をあげると、そこに見えていた目は消えた。木の影に隠れたか、岩陰に隠れたのか、暗くて詳細はわからない。

 この世界の銃器の技術は、火縄銃のレベルだった。これは夜間使うには向かない武器だ。どうしても火縄の種火が明るく見えてしまうし、火縄の燃える匂いがする。それは、こちらから居場所を教えているようなものだった。だが、女性であるミサキは、体重や筋力で男を上回れないなら、より強力な武器を持って対抗するしかなかった。

 ミサキの持つマスケットは通常のもの銃身が短いものだった。その分近づいて打たねばならなかったが、弾道の精度を考えれば近づいて撃っても変わらない。長い銃身を振り回すより取り回しの良さを取ったのだ。

 マスケットは弾込めに時間がかかるため、連続で撃つことが出来ない。外せば一気に不利になる。

 ミサキはその為の格闘や短剣の備えもあった。だが、格闘や短剣で勝てるのなら、最初からその方法を選択していただろう。最初の一撃が必殺でなければならかった。

 ミサキはCodeを探査した。

 おそらくセイトも同じことを始めるに違いない。

 この世界で転生者はCodeを感じ、時に書き換え、利用する事が出来る。

「!」

 ミサキはCodeでセイトの動きを察知した。

 木に登っている。

 どこの木かまではわからない。見逃して通過し後ろを取った時、もしくは上を取った瞬間に上から降りてくる作戦だろう。

 そもそも雲が掛かってあたりが暗い中、密度の高い葉のせいで、木の下は異常に暗かった。

 上を向いて一つ一つ確認していたら、こっそり近づかれてやられる可能性もある。

 つまり、こちらからは近づかない。

 それしかない。

 火種の明かりで、セイト方が、ミサキを見つけ易いはず。つまり、ミサキが先に動けばセイトの思う壺なのだ。

 逆に、セイトが先に動けば、ミサキに近づく間にマスケットが火を吹くことになる。

 耐えられなくなって、先に動いた方が負けだ。

 だが、ミサキが距離を取る作戦を、いつまで続けられるか。

 火種が尽きては撃てない。火種も時折調整したり、交換したりする必要がある。

 どこかで決断して動かねばならない。

 だが、まずは耐えることだった。

 深夜の山の中で、お互いが息を潜めて相手が動き出すのを待っている。

 緊迫した時間が過ぎていく。

 ミサキは考える。

 相手は木の上。

 不意をつくため、降りてくるなら派手に音がするはずだ。

 冷静にそこを撃てば勝てる。

 ミサキは何度も頭の中でシミュレーションを始める。

 後ろ。

 振り返って、撃つ。

 右、左も同じ。

 真上? その時はこの短剣で。

 時間の経過に耐えることは、最初の判断が間違いでないことをどこまで信じられるかが重要だ。

 先に動いたら勝てないはずの戦いが、先に動いても勝てるような、間違った判断に変わっていく。

 緊張からくる疲労がそうさせるのか、それとも……

 ミサキは最後にセイトの目を見たあたりに向かって、回り込みながら進み始めた。

 木々の中を進むと、ガサガサと音がして下草が動いた。

 いる。木の上に登っているのではなく、そのあたりに隠れている。

 ミサキはマスケットを向ける。

 音がして闇から出てきたのは、鹿だった。

 短剣で目を傷つけられ血を流していた。

 鹿はフラフラと進むと、倒れてしまった。

 撃ってしまうところだった。

 狙いが定まる前に相手の姿を確認出来て良かった。

 もし撃っていたら次の弾込めまでの間にセイトが襲ってきただろう。

 ミサキは鹿に手を合わせる。

 いつからこの状態にされていたのだろう。あいつは、命をなんだと思っているのか。ミサキの怒りが込み上がってくる。

 お前を殺して灰に還してやる。

「それじゃあ、俺の命はなんだと思ってるのかな?」

 どこから声がする? ミサキは懸命に周囲に目を配る。

 妙に音が反射している気がして、居場所がわからない。

 それにセイトにCodeを読まれている。

 もしかすると何か書き換えられたかもしれない。

 例えばCodeを書き換え、耳の信号を左右逆にされれば、こんな風にどこから声がしたのか分からなくなる。

「……」

 そもそもこっちから動き出したのもセイトが書き換えたのかもしれない。

 焦りが、ミサキの気持ちを煽り、冷静さを失わせていく。

 ガサッ、と正面の枝草から音がする。しかし、動きはない。ミサキは咄嗟に後ろだと思った。

 正面から音が聞こえるようにしている、つまり本当の音は後ろから聞こえてきているのだ。

 振り返り、動く枝草の中心に狙いを定めて引き金を引いた。

 火縄が筒の奥に入り、火薬が発火する。

 パン、と音と光が走り、込められた弾が射出される。

 枝草の軽い音以外に、刺さるような低い音が聞こえてくる。

 耳の神経が逆のせいか、ミサキには後ろから聞こえてくるように感じた。

「やった……」

 枝草の間からは、同じように目を短剣で潰された猪が出てきて倒れた。

「やってないだろ」

 右から声がする。

 一瞬、反応が遅れるが、ミサキは左を確認する。

 短剣を持った手が伸びてくる。

 ミサキはそれをかわしながら、腕を取って投げ飛ばす……

 それより先に、セイトの腕は引き戻されていた。

 おそらく発砲の音か、鹿や猪が逃げ出すのと同時に木を降りたのだ。

「今度は声をださねぇぞ。どっからくるか当ててみな」

 ミサキは左右に首を振った。

 マスケットに次の火薬と弾丸を詰めながら、その場を周り、周囲の確認をする。

 何歩か回った時、背中に痛みを感じた。

 急所は外れているが。刺されるまで気が付かない事が恐怖だった。

 あの短剣で斬りつけるためには、相当近づく必要がある。近づくなら、この枝草を踏みつける音が聞こえてもいいはずだ。

 セイトには何か気配を消して近づく能力があるのか。

 あるいは自分が踏みつけている音に合わせて近づいてきたのかもしれない。

 ミサキはなるべく上体の動きで周囲を把握し、足を踏みかえないことで雑音を消すことを考えた。

 音のする方向は信じれないが、近付かれれば音がする、気配がする事が重要だ。

「!」

 また刺された。

 脇腹。横なら、音がなくとも気がついてもさそうなのに…… ミサキは傷を押さえた。

「転生前の世界じゃ、こんなゲームがあったよな。『なんとか危機一髪』とかいうやつ。俺は友達いねぇから遊んだ事ないけど。さあ、何本刺すまで持つかな」

 気配が消えている。

 何かCodeを書き換えられているのだ。

 だが、今の状態ではどうにもならない。

 正面にセイトが現れた。

 そのまま伸ばしてくるセイトの短剣を、叩き落とすようにミサキは拳を振り下ろす。

 嘲笑うような表情を残し、セイトが消える。

 これじゃ、正面から来られても勝てない……

 考えているうち、セイトへの怒りより恐怖が上回ってくる。

 右肩に痛み、今度は左腰。

 正面右寄り、また同じ。

 傷が増えていく。

 服が自分の血でベタつく。

「弾は込め終わったようだな……」

 後ろから声が聞こえているように思えるのに、セイトの姿は正面にいる。

 何かがおかしい。けれど何が起こっているかわからない。

「さあ撃て。この距離なら的を外さないだろう」

 ミサキは躊躇った。

 これで当てられなかったら、今度こそ致命的だ。二度も同じ人間に殺される訳にはいかない。絶対に負けれない戦いなのだ。

「撃てないなら、このまま死ね」

 正面にいるセイトの腕が伸びる。

 ミサキは体を(はす)にして避けながら、引き金を引く。

 もう止められない。このまま撃つしかない。

 当たれ…… 正面に見えているはずなのに、ミサキは祈る。

 パン、と音と光が走り、込められた弾が射出された。

 着弾した音はない。枝草に軽く穴が空いた程度の音。

 弾丸はセイトの体をすり抜けてしまったのだ。

 正面のセイトは仰け反るように体を曲げると、闇に笑い声が響いた。

 いくらCodeを書き換えても、物理法則までは変えられない。

 ではなぜ弾がすり抜けるのか。

 混乱と、恐怖、そして絶望。

 思考は停止し、ミサキは次の弾を込めることも忘れ、ただ打ち終えた姿で立ち尽くしていた。

「勝った。俺の勝ちだ。前世と同じように()ってやるよ。久々に興奮してきた」

 セイトは近づいてくるとマスケットを持っている両手をバラバラにした。

 そしてミサキの頬を平手打ちした。

 打たれた頬が紅潮してくると、セイトはミサキの口に舌を突っ込んできた。

 それが終わると、そのまま覆い被さるようにして、二人は枝草の上に倒れ込んだ。

 ……はずだった。

 セイトは困惑していた。

 セイトの下にいるはずの女、ミサキがいない。転がって逃げたとしてもすぐ近くにいるはずだ。こんなに気配が消えているはずがないのだ。

 ゆっくり立ち上がりながら、あたりの様子を探る。

 予想外の出来事に、異常なほど警戒していた。

「おい」

 声を掛けられると共に、セイトは肩を突き飛ばされた。

「君は確か、死刑になったはずだろ。誰に転生してもらった?」

 肩を突かれたセイトは、突いてきた相手が見つけられない。

「誰だ、お前は!」

「ケイゴだよ」

 そういうと、セイトの前に朧げな姿としてケイゴが現れた。

 セイトは持っていた短剣を素早く突き出す。

 しかし、ケイゴの姿はホログラフィのように実体が無い。短剣は空を切ってしまう。

「……」

 ケイゴはセイトからCodeを探りに来られているのを感じた。

「気づいたみたいだな。だが、ちょっと遅かった」

 パン、と音と光が走り、込められた弾が射出された。

 散弾が、セイトの背中から入り脊髄を砕き、心臓や肺の機能を破壊して止まった。

 ケイゴに書き換えられていたCodeが元に戻る。

 散弾で裂けた肉から血が噴き出している。

 セイトは撃たれた方向を振り返る。

 マスケットを両手で突き出した格好で、ミサキがじっと見ている。

 冷静で冷酷な目のようにも見える。

 情けをかけているようにも、見える。

 この感じ。どこかであった気がする。


 判決は死刑だった。

 ミサキを殺した後、遺体を解体し、気付かれないように分割してゴミとして捨てた。

 性交したいと思う度、居酒屋で女を見つけて部屋に連れ帰った。

 女の金がなくなったり、『働け』など説教が煩くなったりすると殺した。

 殺した時の屍姦は最高だった。

 最後に殺した女の兄がしつこいせいで、足がついた。

 警察に調べ上げられ、九人殺した事がわかってしまった。

 同じ居酒屋を使い過ぎた、と反省したが遅かった。

 何年も同じことを問いただされる裁判が終わると、刑務所に入れられた。

 独房での生活は暇だった。

 天井に仕掛けてあるカメラに向かって精液をかけてやろうと思ったが、途中で邪魔が入った。

 死刑の日は突然きた。

 いきなり、紙を広げて読み上げられ執行だと言われた。

 遺言を書けと言われたが「死刑を執行させる奴も俺と同罪だ。訴えてやる」とだけ書いた。

 手錠をされ、マーキングの位置に立つと目隠しされた。

 首にロープが掛かった。

 立っていた床が抜け、首に全体重が掛かって、閉まる。

 死ぬ…… 何度も殺してきたが、自分が死ぬとは思わなかった。

 おい、待てよ…… まだ、死にたくねぇ……

 違う。これは違う。

 俺は手を伸ばす。片目の男に…… 死にたくねぇ、死にたく

 違う、違う、違う!

 死にたく…… ない……




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