「思い出」
軍がどれくらいの被害だったのかは分からない。
俺は草原の中で寝てしまい、起きた時には夕方になっていた。
森から襲いかかったオークの軍は、女王の軍隊が殲滅していた。その代わりに、女王の軍の側にどれだけのダメージがあったかは分からない。
既に夕方で、今日は全く先へと進めなかった。
その上、多足虫を失い、キズンにも逃げられてしまった。
俺は服を着込んで草っ原に寝転ぶと、夜空を見上げた。
ソウタの顔が夜空に浮かぶ。
『キズンが言ったことが正しかったのだ。軍隊同士の戦いに干渉せず、自らの目的を達成するよう動くべきだった』
「……」
確かに、そうしていれば多足虫もキズンも失わなかった。超加速を使う必要もなかった。
「ソウタ?」
俺はソウタがそこにいるような気がして、声を出した。
しかし誰も答えない。
『これからはキズンのいうことの聞くのじゃぞ』
「……」
俺は周りを見渡した。
転生者は死んでも他人に干渉できるような超能力者じゃない。だから、この言葉は誰か別の者が言っているに違いない。
背後に気配を感じ、振り返った。
そこにはノームの姿があった。
「キズン。やっぱりお前か」
『近くにいるノームのいうことを信じるのじゃ』
「おい、見えてるぞ。今までどこにいた」
『お前が勝てる方法は例の超加速しかない。頭の上にいたら超加速の邪魔だろう? だから、俺は逃げた』
「……」
誰がそんなこと信じられるか。
確かに、頭の上のキズンがいたら、頭にかかる衝撃を考えて超加速を躊躇っていただろう。
そして躊躇っていたら、対応の遅れでオークに殺されていた。
結果としてはそうだ。だが、キズンが俺の超加速を知って脱出したとは考えにくい。
「なんで俺がこの能力を使えるって知ってた?」
キズンは答えない。
『知っていたか、知らなかったかは問題じゃない。結果だ』
最初にキズンがいなくなった時も、今回も、お互いが生き延びるために取らざるを得ない行動だった、とでも言いたげだ。
まあ、女王が仲間と行けというのだから、従うしかない。
俺は袋に入れた荷物から布切れを出して切り、肩に結んだ。切った残りをキズンに渡し、肩の上で寝たり起きたりできるように工夫してもらうことにした。頭の上にいられて、今度、どちらかの判断が遅れれば致命的だ。肩の上なら、俺も躊躇せず行動を取れる。
だが、この能力はギリギリまで使わないようにしないと、必要な休憩や睡眠が長くなり、時間を無駄にする。
ゴブリンの王がいる首都ダウンチューブ、その中心にあるアンプ城に早く侵入し、改心させなければ、この戦争は終わらない。長引けば戦争による被害が拡大してしまう。
『あの超加速だが』
「何だ?」
『もっと何度も使えるようにならないのか? あるいは、反動が少なくなるようにすることは出来ないのか。お前がオークに立ち向かう方法があれしかないのなら、この先、ずっとオークの領域だ。もう何度かああ言った場面に会うことになる。下手すりゃ、トロルに会うかも』
ソウタが言っていた。
Codeの書き換え量に比例して睡眠などの反動がくる。Codeの書き換え量をなくすには……
ソウタのツインテールが思い出された。
『同じことを実現するCodeをまとめる。まとめ方は色々ある。メソッド、関数、最悪、マクロでも良い』
そう言えば、ソウタが大切なことをいう時には癖があった。
背を向けて話し始め、強調したいところで振り返る。
綺麗にツインテールが横に広がった。
『絶対通らないCodeがないか、よく考える。これを緊急時に突然やるのは無理だ。普段からCodeを見て、考えておくことだ』
あとは右手の人差し指を突き出し、左手を腰に当てるポーズだった。これもソウタのお気に入りらしく、よくやっていた。
『再利用可能なCodeを使うことだ。書き換えなくても、呼び出せば機能するCodeが埋め込まれている。さっきと同じで普段から考えておくんだ』
つまり、普段から何度もCodeに触れておくこと、ということだ。
いつだったか、ソウタが女王のことをこう表現していた。
『その点で、女王に敵うものはいない。あの方は天才としか言いようがない。修練でモノにした人とは全然違う。書き換えたCodeの量は極小なのに、効果は絶大だ。あの方こそ、この世の支配者に相応しい』
支配者という言葉には少し違和感があったが、あのソウタがそれほど賞賛する人物だと考えると、女王の能力は想像を絶するものがある。
俺は自分自身のCodeを読み始め、読んでいる内に寝てしまった。




