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水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


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「旅立ち」




 修行を続け、数日が経っていた。

 ソウタが今日の修行は休みだと言って、早々に部屋に引っ込んでしまった。

 俺はやることがなくなり、リムの街に出ていた。

 知り合いがいるわけでも、買い物をするわけでもなく、俺は目的もなく、ただ街を歩いていた。

 ソウタから学んだ意識を広げる技で、警官が近くによれば先回りして逃げることは出来る。それくらいの自信はあった。

 数日で変わっていることと言えば、金属の回収が進んで、建物のあちこちが壊れていた。

 綺麗に金属部分を取れば壊れないのだろうが、取った後も壊れたままにしていることから、金属回収の緊急度がわかる。

 見たことからの推論だけではなく、Codeを読み取る技の応用で、俺は建物でどんな事があったのかもなんとなくわかるようになっていた。

 金属は根こそぎ回収して、武器を作るために再利用される。

 オークの軍団は国を侵食していて、早く反撃しないと致命的な事態になってしまう。

 俺は歩きながら、息を潜めるように生きる街の人々の意識を感じた。

 戦争で物資は真っ先に軍に渡る。金属しかり、灯りのための油、食料まで。

 あるものは軍に届けるために食べ物を作る。あるものは兵隊の服を作る。全てが戦争を中心にして動いていた。その中で、街の人々は、さらに気掛かりなことがあった。

「連続殺人……」

 ソウタと一緒に街に出た時、転生者の首が建物の屋根に置かれていた。

 実は、このような事が街中で起こっていて、噂になっているのだ。

 あの日だけでも他に二人。翌日は二人、その次の日は四人。

 街の人々が気づいているか分からないが、それらは全部『転生者』だった。おそらく女王の耳にも入っているだろう。

 街の建物からCodeを読み取り、殺された時の記憶を拾う。

 殺している時の様子までは分からないが、切った首を置く男、死の前後に建物を出入りする男が浮かび上がる。

 四方に広がる、長さがバラバラな髪。幼い顔つき、いくつも傷のある体。

「セイトだ」

 出歩いている人が街にいないのは、戦争に男をとられただけじゃない。この連続殺人が街に影を落としている。警察も軍に人手を取られてまともに捜査出来ていない。出歩かない事がさらにセイトに有利に働く。

「奴もCodeを読めたはずだ」

 出会った時にセイトに考えを読まれた事がある。建物の外から、転生者がいるかを確認し、寝静まった頃に入り込み、殺す。街に、敵となる男たちは徴兵のためいなくなっている。さらに人々が出歩かないからセイトは好きなように街を動き回る。

 悪循環だ。

「!」

 背中に硬いものが当たる感覚。同時に後ろから声がする。

「振り向かないで」

 植物か何かが燃える匂いがする。Codeを探ると『マスケット』という言葉と共に、背中には火縄銃が突き付けられていると知った。

 Code探査に慣れているのか、後ろの人物からはCodeが読み出せなかった。

 俺は軽く両手を上げ、言った。

「君、転生者?」

「余計なことを…… 黙って。手をあげる必要はないわ。だから言う通りに歩きなさい」

 俺は後ろから突かれながら、街の通りを歩きある建物の中に入った。

「手を頭につけて」

 俺は手を後頭部に付け、部屋の壁に押し付けられた。

「なんで、街中であんなことしてるの」

「修行の一環というか」

「修行? わけわからないこと言わないで」

 グリグリッと火縄銃(マスケット)の先端を押し付けられる。

「けど、そうとしか言えない」

 意識を広げて、俺にマスケットを突きつけている者のCodeを探る。

「やめなさい。大体、あなた、いつ転生したの。見たことない顔ね」

「俺もまだ、あんたの顔を見たことないけど」

「誰があなたを転生させた?」

「……」

 女王。転生などという力を持つのは、女王しかいないのではないか。

 ……いや、セイト。あいつを転生した奴がいるはずだ。女王以外に、もう一人転生が出来る人物が。

「君と一緒だよ」

「気持ち悪い言い方するわね。女王は、あんたみたいな人間を必要とするかしら?」

 良かった。こいつは味方だ、と俺は簡単に判断してしまった。

「俺は女王から『ゴブリンの王』を改心させる命を授かってる」

「……」

 再びマスケットが強く押し当てられる。

「それより、あなた、転生者連続殺人のこと、何か知ってるでしょ?」

「知らない」

「じゃあなぜ、あんなに死体に関してのCodeを探っていたの」

「さっきも言ったろう。修行してるんだ。ゴブリンの王を改心させなきゃならない」

「……」

 俺は顔を見てやろうと体を捻ろう、とした瞬間、再びマスケットを押し付けられた。

「動くな」

「思うんだけど、君こそなんで『転生者連続殺人』を調べている俺に突っかかってくる? 同じ転生者なら、情報を共有しようとは思わないの」

「……」

 俺はその沈黙に何かを感じた。

「殺される恐怖、以外の強い感情があるよね」

「やめろ! これは脅しじゃないぞ」

 焦げ臭い匂いが続いている。種火が付いているままだ。このまま火がつけば、火薬が爆発して、筒に込められた弾丸が俺をメチャメチャにする。そしたら転生後の『短い』人生が終わってしまう。

「ごめん」

「謝るな!」

「じゃ、どうしろって言うんだよ」

「去れ。何も喋るな。そして振り向くな。余計な詮索はやめろ」

 ふう…… これだけ寄り道をさせられて何も得ずに帰らされるのか。

 背中のマスケットにつつかれるまま、建物の出入り口に進んだ。

 そして背中を蹴り込まれると、俺はよろよろと通りに出た。

「振り返るな。狙ってるぞ」

「はいはい」

 言うことを聞いて、振り返らずに自分の家に真っ直ぐ歩き出した。

 街を出て、家に着き、部屋に戻ると何かいつもと感覚が違った。

 昼のご飯を食べようと、食事の支度を始めた。

 やっぱりおかしい。ソウタの気配がない。

 いつもなら、食事の準備を始めると『今日の飯は何だ』と言って近づいて来た。

 俺は慌てて部屋を探した。

 いない。

 どこにも、何も残っていない。

 そんなバカな。極度の方向音痴のソウタが一人で外に出てしまった。全ての荷物をもって。今すぐ探せば、周辺をグルグル回っているだけかもしれない。

 家を出ようとした時、入り口に誰か立っていた。

 外の光で顔が影になっていて、よく見えない。けれど、ソウタに違いない。

「ソウタさん。良かった奇跡的に帰り道がわかったんですね!」

「……」

 近づくとその人物がソウタではないと気づいた。

 それが誰なのかも、同時にわかった。

 一体、何が起こったのか。

 部屋に入ってくると、その女は言った。

「お昼ご飯作ってるの? 私にも食べさせて」

 俺は女に深く頭を下げ、無言で食事の準備を進めた。

 二人分の昼ごはんを、テーブルに運ぶと俺は女の前の席に座った。

 女は手を合わせ、頭を下げた。

 俺も手を合わせてから食事を始めた。

 半分ほど食べた後、女は言った。

「ソウタさんはお亡くなりになった」

 俺は怖かった。それを知るのが。だからCodeを読まなかった。

 ソウタのことだから、妙に女子っぽいさようならの伝言を残したはずだった。

 Code(それ)に触れたら、泣き出してしまう。

「ソウタさんから、あなたに全てを授けたと聞いた。だから、明日にでもゴブリンの王を改心させる旅に出発して欲しいの」

「女王、お言葉ですが、今はそれどころじゃ……」

「ソウタの死は悲しい出来事だわ。けれど我々には死を悼んでいる時間はないの。戦争終結が一日遅れる度、大勢の国民の命が失われるのよ」

 言っている途中で、女王はテーブルに手を付いて立ち上がった。

「ゴブリンの王を目指して、出発しなさい」

 俺は視線を外して首を振った。

 転生してきた俺にとっては、親近感の持てない国民の命より、ソウタの命の方が重い。今はそうとしか考えられない。

「ふざけないで。人間だけじゃなく、戦えばオークも死ぬの。あなたはソウタから一体何を学んだの?」

「……」

 ソウタ。

 俺に教えるなど、面白くなかっただろう。ソウタは自分を犠牲にして、わざわざ俺に技術を教えにきた。

 それはなぜか? ソウタも戦争を止めたいからだろう。

 ソウタの命を無駄にしない為にも、俺はゴブリンの王の元へ向かうしかない。

 ふと、周囲からCodeが頭に入ってくる。

 ソウタの残したCode。部屋の壁に残した、消えかかっているCode。俺が読もうとしなくても、勝手に俺の中に入ってくる。

 目の前に見えている食事を置いたテーブル、手をついて俺に訴えかけている女王。それにオーバーラップしてものすごい勢いでCodeが流れる。

 Codeが流れると同時に、俺の目から涙が溢れ出してくる。

 修行の思い出。

 極度の方向音痴との出会い。

 共に過ごした時間の記憶。

 目を閉じると、一度にボタボタと涙がテーブルに落ちた。

「ごめんなさい」

 Codeが止まると、俺は目を開けた。

「行きます。何ならこの食事の後にでも」

 女王はテーブルから手を離した。

「お願いします」

 そう言って去っていく女王が、途中で足を止めた。

「美味しかったわ。それと…… ゴブリンの王の元に行くには、Codeの力だけでは難しい。一緒に行く仲間が必要です。合流する手筈は整えておきます」

 仲間? Codeの力は言わば魔法のようなものだ。とすれば『剣』なのだろうか。確かに魔法だけでは勝てないだろう。強い武力や、知性が必要だ。それらを補ってくれる仲間がいれば心強い。

 女王が出ていくのを見ると、俺は旅の準備をした。

 この世界で長旅をする時にどんな準備がいるかは分からなかったが、山に登るようなものだろう。天候の変化に対応するために着る物を揃えるのと、日持ちのする食料。自然の動植物を取って食わなければならないだろうから、短い刃物を持っていくべきだろう。それらを無くさないように纏め、紐の長い袋に入れた。

 袋の長い紐を肩に回し、袋の先に結んで止める。

 後は女王から教えられたこの世界の地図の通り、オークの国アロコスの首都ダウンチューブを目指して歩くだけだ。歩く? 多足虫を使えば早いじゃないか。

 俺は早速家を離れ、職場に向かった。

 完全に歩いていくイメージだったが、多足虫に乗って進めばあっという間に首都ダウンチューブだ。もちろん、途中でオークに邪魔されるだろうから、そう簡単ではないが。

 ドラゴンのいない仕事場は、ただガランとしていて静かというより寂しい感じがした。

 ここでは重いものを運ぶ為に多足虫を飼っていて、端の方に多足虫の小屋があった。

 俺は小屋を覗くと、何もいなかった。

 サムも戦争に向かって、誰も職場に来ていない。多足虫に餌をやる者がいなければ死んでしまう。いや、それにしても死骸ぐらいあるはずだ。

 俺は目を凝らして見ると共に、Codeの探査を始めた。

 いる。多足虫だ。

 小屋の端でじっとしている。一匹だ。俺は小屋の床に多足虫の頭につけていた金具が落ちているのを見つけた。つまり、一匹が弱って死に、残った一匹がそれを食ったというわけだ。

「すまないことをした」

 多足虫の餌になるものをかき集めて、小屋に入れてやる。

 多足虫が貪るようにそれを食い尽くすと、俺は板を渡して背中に乗り込む。綱を手に取って指示すると、多足虫が走り出した。

 リムの街から北へ向かう。

 草で覆われた草原。餌になる虫や小動物が多く、多足虫の制御が難しい。ある程度多足虫に任せ、捕食しながら進んでいく。それでも歩くより何十倍も早い。

 まだオーク達には出会わない。

 つまり軍はもっと北に行っているということだ。

 俺が気がかりなのは、女王が言っていた『仲間』のことだ。いつ、どこで仲間になるのか。多足虫か、もっと早い移動手段を使わないと、俺に追いつけない。女王の指示は何もなかった。とにかく前に進むしかない。

 陽が落ちるころになり、夜を過ごす場所を考えなければならかった。

 多少起伏はあるが、地平線が見渡せるこの土地で、どこで寝ればいいかを考えるのは難しかった。

 可能な限り低いところに隠れるようにした方がいいのか。

 相手がくるのを先に見つけられる高い方がいいのか。

 判断がつかなかった俺は、北側が少し高くなっている丘の中腹に多足虫を係留した。

 多足虫から離れたところの草を潰し、服を着込んだ。夜は寒いだろう。

 陽が落ちると、あたりは真っ暗になって、空に星が見えた。

 転生した先でも世界の仕組みは同じなのだ、と考えると不思議な気持ちになった。

 もしかして、小さく光っている一つの星が元いた地球の太陽なのかもしれない。

 何万年も違って、同じではないかもしれない。そもそも銀河もその成り立ちも違う世界かもしれない。

 星を見ているうちに眠くなってきた。

「?」

 頬に何かが落ちてきた。

 雨かと思って指で触れると、雨ではなく鳥のフンだった。

 指を洗いたかったが水は貴重だった。

 とりあえず、草にフンを擦り付けてもう一度仰向けになると、また落ちてきた。

「……」

 ついていないのか、それとも……

 俺は周囲に意識を伸ばす。Codeを読み取っていく。

 何かいるのだ。わざと俺を狙ってフンをさせている者が。

 パタパタと鳥の羽ばたく音がした。

 音がする方から鳥が飛び去っていく。

 あいつが俺に落としたのだ、と分かった。

 もう大丈夫だろう。ようやく安心して眠れる。

 俺は体を横にした。

『おい、危ないじゃないか』

 何かが意識に話しかけてきた。

 この感覚…… 俺は何かを思い出した。

 この世界に来て初めて目覚めた時、鼻の上にいたカブトムシ。そいつを摘んで引き剥がした。あの時と同じだ。

「キズン!」

 俺は体を起こした。

 体を捻って後ろ振り返る。

 草が妙に動くところをじっと見ていると、指ほどの人を見つけた。

『やあ。声が大きいのは相変わらずだね』

「俺を見捨てておいて、今になって、どうしてこんなところに来た? それと、さっき顔に鳥のフンを落したのはお前の仕業だな」

『やかましい。フンを落としたくらいなんだ。またお前は女王から何も聞いてないのか』

「女王は『仲間が必要だ』って…… まさか」

 俺は、Code書き換え以外の力が必要だと思っていた。ノームのキズンを仲間にして、何ができる? 以前、森の中では、俺よりオークを先に見つけることが出来たが、敵を見つける能力がオークを上回っていたわけではない。あの時、不利にならないだけで、有利にはならなかった。

『まさか、っていうのはこっちのセリフだよ。お前がオークの王の意識を変えられるとは思えん』

 女王のところまで連れていくのがこいつの役目だったはずだ。

 それなのに俺を見捨ててどこかに消えてしまって……

 おかげで俺は警察に捕まり、色々と回り道をしてしまった。

 キズン(こいつ)とうまくやれるのだろうか。

 しかし、そうするしかない。地図は頭に入っているが、この世界に来て日が短い。この世界のことは、キズンに確認しなければならないこともあるだろう。

「まあ、Codeの技術がソウタに及ばない点は、道中にもっと成長して、ゴブリンの王の意識を変えれるように努力するよ。とにかく、これからよろしく」

『女王の命だからな。今度はやり遂げるつもりだ』

「ああ、ありがとう」

『だからお前のためじゃない。お前も疲れているならさっさと寝ろ。俺の方が寝たり起きたりのサイクルが早いから、周囲であったら、俺が起こしてやる』

「すまない」

 俺は横になった。

 キズンは俺に潰されないように、頭の先のあたりで寝るらしい。

「おやすみ」




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