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水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


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「無職の日々」




 仕事に行かなくなった日から、俺は毎日ソウタからCode書き換えの指南を受けた。

 何度も何度も、眠くなるまで書き換えを行い、書き換えのコツやポイントが分かってきた。見ている風景にオーバーラップしてくるCodeに慣れてきて、Codeと同時に見ているものに注意を払ったりもできるようになった。

 街は日に日に男が減り、大人しくなっていた。警官も殆どいなくなり、無駄に捕まっていた連中もそのまま軍に連れて行かれた。最近になって、軍の連中がきて、街のあちこちにある鉄製のものを外していた。

 女王がいつか言っていた、『金属の不足』が深刻化したようだった

 そんな風に、何日か過ぎた頃、俺の部屋をサムが訪ねてきた。

「突然悪いな。俺は行くよ。軍に参加する」

 そう言うと、サムは大きなカバンを床に置いた。

 以前言っていたことだが、実際に行くと言われるとショックだった。

「サム、そんなに急がなくても」

「遅いくらいだ。パレードの時にみんな参加していたのに」

 俺は何も言葉が出てこなくなって、サムに抱きついた。

「大丈夫。軍に参加するだけで、すぐに戦場にいく訳じゃないから」

「けど……」

 俺は声が震えていた。

 サムは覚悟が出来ているのか、落ち着いていた。

「最初は訓練からだ。素人のまま戦場に出たら返って足手まといなんだ。訓練が終わっても、前線って訳じゃない。多分、俺が死ぬようなことになる前に、戦争の決着がついてるさ」

 戦争の決着をつける為には、俺が急いでゴブリンの王のところへいき、その考えを改めさせないといけない。いや、女王も、俺だけを頼っているわけではないだろう。もしそうだとしたら、俺は反体制側に行く。

「とにかく、死なないでください。戦争が終わって、もう一度女王の契約の元、ドラゴンが帰って来たら、また一緒に世話をしましょう」

 サムは俺の背中をポンポンと叩いた。

「ああ。絶対だ。約束しよう」

 自然と頬に涙が流れていた。

 体を離し、俺たちは強く握手をした。

 そしてサムは戻っていく。

「じゃあな」

「必ず帰ってきてください!」

「ああ!」

 大きな荷物を背負って、サムは去っていく。

 俺は部屋のドアからそれを見つめている。

 部屋の奥からソウタが近づいてきて、言った。

「フラグ」

「えっ?」

「死ぬキャラのフラグよ」

 俺はソウタを振り返って、首を絞めた。

「冗談でもそんなこと言うな。どれだけ年上でも、許さない!」

「なんとなく感じたでしょ。あの人から流れ出るCode」

 体から流れてくるCodeを読んでいた。あの時、確かに何か不吉な未来が見えた。

「書き換える。俺が書き換える」

 さらにソウタの首を絞めていた。

「Codeはこの世界の真理よ。究極の法則なの。書き換えていいものと悪いものがあるの」

「なんだよ! なんなんだそれ」

 俺はソウタの首にかけていた手を離した。

 ソウタは首を押さえながら、苦しそうに左右に振った。

「そもそも書き換えることが非常に困難でしょ。頑張ってたみたいだけど」

「……」

「もし書き換えてしまったら世界が狂ってしまうこともあるの」

「……そんなことが、あり得るんですか」

「特殊なCode書き換えの特権を奪って、Codeを書き換えるところまではね。けど、書き換えた後にCode管理官が復旧し、書き換えた者は消されてしまう」

 特殊な書き換え特権。Code管理官。世界の真理側にも生き物がいるのだろうか。

「誰ですか? Code管理官って」

「誰というか、Code管理プログラムみたいなものね。それがなければ、今頃転生者が書き換えて、世の中めちゃくちゃになっている」

 Code管理プログラムと言う表現だとすると、人ではなく、無機物なのか。Codeだけでできた肉体や物理基盤のない純粋な実態としてのプログラム。そんなところだろうか。

「どうしようもないことがある。それが世界の常よ。わかっていても止められないこともあるの」

「俺は早く修行を終えて、サムが死ぬ前にゴブリンの王を改心させる」

 ソウタは俯きながら言った。

「そうね。それがいい。けど、中途半端な状態では行かせないから、必死に修行するのよ」

 俺は頷いた。


 街に出た時に転生者の生首を見つけてしまってから、俺たちはCodeの修行を『パイプ山』でやることにしていた。

 俺が住んでいる場所自体も郊外だったが、パイプ山はそこから、さらに郊外に向かう方向にあり、滅多に人が向かわないところが修行に適していた。パイプ山はリムの街の中心から見ると、タンク山と真反対に位置している。

 ソウタと俺はいつも手を繋いで歩いた。

 すぐ道を見失うからだ。

 修行で俺に負荷を掛けなければならない時は、俺がソウタを背負うか、どうしても一人にしなければならない場合、ソウタにものを食べていてもらうことにした。ものを食べている間は、場所を動かなくなるから、居場所を見失うこともなかった。

 そう考えると、女王の命を受けてソウタが俺の家にやってきたのは奇跡に思えた。

 ある時、俺は思わずたずねた。

「こんな方向音痴なのに、どうやって家にくることが出来たんですか?」

「あの時は女王にCodeを書き換えてもらったの」

 だから隣のクランクの街からリムの街に来るまで三日でこれたのだ。まあ、普通なら半日かからず来れるのだが……

「ソウタさんは自分で自分のそんなCodeを書き換えようと思ったことはないんですか」

「それが出来たら、きっと私があなたになったのよ」

 それきり、ソウタはこの話をしなくなった。

 ソウタが俺になっていた。

 それはもしかして、ゴブリンの王を説得する役がソウタになっていたと言うことなのだろうか。ナガレやソウタのように俺よりずっとCode書き換えが出来る人間がいるのに、なぜ俺がゴブリンのところに行かねばならないのか。何か理由があるはずだった。

 ナガレは何があるか知らないが、ソウタはこの『方向音痴』が災いになったのだろう。

 確かに戦争を長引かせない為にも、早くゴブリンのところに着かねばならない。ソウタを向かわせるとしたら、道に迷わないよう、ずっと手を離さないぐらい根性のあるガイド役が必要だ。

 いや、待て。

「そうか。俺が、俺がそのガイドになればいい」

「?」

「そうですよ。もしソウタが道に迷わなければソウタがゴブリンの王を説得するのが一番早くて、正確だ。俺幾ら学んでもソウタさんを越すことはない」

「あなたは、すぐに私を追い越すわよ」

 俺は手を振った。

「そんなわけないでしょう。俺が一人で修行しているなら別ですが、ソウタさんに教えられたことを学んでいるのですよ」

「私がいなくなれば、私の能力は消えてなくなる。あなたが一番手ということになる」

「えっ?」

「転生したって、寿命はあるのよ。みてくれは書き換えれるけど、本当に肉体の劣化を修正している訳じゃない。もう死にかけてる」

 そう言っている本人は、ツインテールの若年女子にしか見えない。

 だが、一瞬、輪郭が歪んで、投影されたように老人の姿が重なった。

「!」

「だから、私の言ってることの『本質』を理解するの。今、修行させている時間はないわ。力は、ゴブリンの王に会うまでの間、あなたの自身で積み上げるのよ」

「そ、そんな。サムが死ぬかもと知ったばかりなのに、ソウタさんまで死ぬなんて言わないでください」

 クルッと回ると、ツインテールが左右に広がって、また落ち着く。

 俺に背を向けた状態で、ソウタは俯いた。

「私だって死にたくないわよ。けどしかたないことなの」

 ソウタの足元に、涙が落ちた気がした。

「さあ、修行の続きよ。この周りにいる動物たちにアクセスして。ネズミがタヌキを、タヌキがクマを襲うように、Codeを書き換えるの。素早く、広く、見つけ次第」

「分かりました」




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