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水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


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「行進曲」

 ケイゴはドラゴンの世話の仕事で、サムと家を出て行った。

 ソウタは家の窓から外を見ていた。

 リムの街の大通りに楽隊が出て音楽を奏でている。

 人を奮い立たせ、歩かせるような音楽。

行進曲(マーチ)だ」

 楽隊の後ろには、列が出来ていた。

 進むに従い、街の住人が一人、また一人と列の後ろに連なっていく。

 これは徴兵だ。誰が軍に参加したか、誰がしなかったか、はっきり分かるようにああやって街を練り歩くのだ。

 遠すぎて良く見えなかったが、通りを見守っている女たちの絶望が伝わってくる。

ケイゴ(あいつ)も責任重大だな」


 サムが首を振った。

「戦争が始まったんだ。仕方のないことだ」

 ドラゴンは頭を上げると、大きく翼を広げた。

 喉なりのような、ドラゴンの中でガスが生成される音が聞こえる。

 ドラゴンは女王がオークの軍団に対し宣戦を布告したことを知り、この国にはいられないと判断したのだという。ドラゴンが我々の言葉を理解しているのか、どういうコミュニケーションをとっているのかはまだ謎が多い。昨日から次々にドラゴンの家族が飛び去っている。サムの考えは『オークとの戦争』が原因だということだ。

 俺たちは彼らを見守るしか出来ない。

「ドラゴン達はどこにいくんですか?」

「俺たちが世話をしなかった頃は渡り鳥のように定期的に住まいを移していたらしい。この星にはあちこちにドラゴンの棲家があるのさ」

「南ですか」

「南は大きな陸地がなく、海に島が点在する地形だという」

 飛び去っていくドラゴンを見つめる。

 俺は想像する。海に面した大きな崖。いや島自体が塔のように高く聳え立っていて、崖にドラゴンが入れる大きな穴が開いている。同じような島がいくつも近隣にあって、同じようにドラゴンの家族が住んでいる。

 洞窟の中の石は、体の中でガスを生成する為のものを含んでいて、必要に応じてそれを口にする。

 食べ物は平野の多い島まで飛んでいき、そこに生えている豆などを食べる。これがドラゴン本来の生態なのだろう。

 女王の『ドラゴンを統べる力』で、人の役に立つという契約が成立し、ドラゴンを留めて置けたのだ。だが、人が戦争を始めるなら女王との契約は破棄される。ドラゴンは中立で、争いを好まない生き物なのだ。

 最後のドラゴンが南へ去っていくと、サムは手を広げて言った。

「当分ドラゴンは帰ってこない。俺たちの仕事は失われた」

「これからどうするんです?」

「兵士に志願するしかないな。何しろ仕事がないんだから。お前は」

「……」

 女王に言われた話をすることは出来ない。しかし兵になるとも言えない。

「昨日きたソウタから訓練を受けることになっていて…… それから考えます」

「そうか。ケイゴ、お前、今日はもう帰ってもいいぞ。俺は適当に片付けをしているから」

「はい」

 頭を下げて職場を離れた。

 家に帰る道で、誰ともすれ違わなかった。

 誰もいないわけではない。建物の中に、人影は見えた。

 戦争という重苦しい空気をそんなことから感じてしまった。

「ただいま」

 家に戻ると、奥の部屋からソウタが出てきた。

 ソウタはツインテールの女子に見えるが、中身は喜寿のお爺さんだ。

「ケイゴ? 仕事はどうしたの?」

「ドラゴンが女王との契約を破棄して、旅立ってしまった」

「意味が分からないけど、仕事がなくなったのね?」

「その通りです」

「じゃ、修行をしましょうか」

「はい。お願いします」

 目の前のヘッドドレスをつけたツインテールは笑顔を作ったまま固まった。

 無言で見つめ合う時間が十分だと思った頃、俺は口を開いた。

「どう言った修行を……」

「何?」

「何をすればいいでしょうか?」

 ソウタはポンと手を叩いた。

「見てて」

 ソウタのヘッドドレスは白と黒で出来ていたが、黒の部分が青くなった。

 着ている服やチョーカーも白と黒で構成されていたが、黒い部分が青くなった。

「……」

「ほら、やってみて?」

 ソウタは続けて青を赤に、赤を残して白を黒に、と色を変え続けている。

 確か、これは過去やったことがある。俺はイメージすると自分が着ている服の色が変わった。

「できるじゃない」

「ええ」

「どこまで出来るのかしら」

「それは分からないです。どんなことが難しいのかとか、そういう判断が出来なくて」

「じゃあ、街に出ましょう。動物のCodeを書き換えてみましょう」

 ソウタはそういうと俺の手を引いて外に出た。

 手は柔らかく、とても喜寿のおじいさんとは思えない。

 通りを歩く人は少なく、歩いていても女性だった。男は…… (いくさ)に行くのだ。残っている俺たちは裏切り者だ。みんなが困っているのにズルをしてまだ街に残っている。そんな視線が注がれる。

「まずは動物…… 虫でもいいわね。探すところから」

「どうすれば」

「気持ちを広げるように、オープンに。付け加えるように。継ぎ足すように……」

 過去にやったように、Code探査の範囲を広げる。服、靴、地面に意識が延びる。虫…… 虫はどこだ。動物でもいい……

 虫に出会う前に、意識を広げているとソウタを見つけた。

『君の中を見させてもらうよ』

 そう言うイメージが届くと、ソウタが逆ハックしてくる。俺は必死に閉じようとするのに、ソウタのスピードに負けて次から次にCodeが抜け出してしまう。

 無視しろ、無視するんだ。そのまま俺の意識を遠くに伸ばせ。動物を見つける。

 動物。虫。人、人の亡骸…… なんだ、なんだこの物体は!

「ソウタ!」

師匠(マスター)と呼んでくださる?」

師匠(マスター)、あそこ、あそこに」

 俺は指で示した。

 その方向にソウタの意識をつれていく。

 建物の屋根。

 そこには……

「生首ね」

 感じたままのものが見上げた先にある。

「誰なんだろう」

「転生者。転生者の首よ」

「えっ? 知り合いなんですか?」

 触れた手からは、そんな情報は流れてこない。

「顔を知っている、って程度かしら」

「け、警察に届けなきゃ」

「いえ。そんなことをしたら、我々が容疑者になるわ。あなたはとにかく狙われているのよ、自覚なさい。だから、ここはおとなしく家に戻りましょう」

 ソウタはアサッテの方角に歩き出す。

 そっちは家じゃない。俺は手を引き戻す。

「どっちでもいいわ、家に戻りましょう」

 出会った時からの話だが、ソウタは絶望的に方向音痴だ。

 この距離で帰り道を見失うのは、扉を出た瞬間に戻れなくなるような感覚だ。

「修行する場所を考えないといけないわ」

 手を引いて歩きながら、俺はたずねた。

「どうしてですか」

「何故転生者(かれ)が殺されたのか、という問題よ」

「理由を知っているんですか?」

「言葉では言えないわ。これも修行と思って」

 繋いだ手を通じて、複雑で大量のデータと共にCodeが流れてくる。

 必死にそれが何かを考える。

 これは映像だ。つまり、生首が死に際に見た記憶。


「起きろ、おい。起きろって」

 見知らぬ声に男は、跳ね起きる。

 ランプが点けられていて、そこに誰かいることが分かった。

 声を出すか、出さないか、と言う瞬間。顔に短い刃物が突きつけられた。

「!」

「起こしたのはさ。寝ている間に殺すとツマラナイからなんだ」

 ナイフの先端から、次第にそれを持っている人物に焦点が移っていく。

 童顔の男。髪があちこちにバラバラの長さで広がっている。服装は地味だが、この世界の常識にあった服ではない。転生者だ、瞬間にそう思った。

「その通りさ。俺も転生者。ついでに言っておいてやると、お前を殺したいと言っている依頼者も転生者だ」

 考えが読まれている。

「誰が俺を『殺したい』って言うんだ、俺は誰にも恨みを買うようなことは」

 童顔の男の口元は、ニヤリと歪んだ。

 だが、目は殺意に満ち、かつ冷静だった。

「そいつも恨みがあって殺したい訳じゃないってさ」

「どういう意味……」

 刃物が喉に触れて、言葉が途切れた。

 血が吹き出て、呼吸に合わせて、液体を吹き出すような音が響く。

「もういいや。お話は終わりだよ」

 自分の血で咳き込む音、血圧が下がって視野が暗く薄れていく。


 痛み、苦しみ、悔しさ、無念な感情。死の直前まで味わった恐怖などを合わせた感情が飛び込んでくる。

 胸が苦しくて、俺は目を閉じ、立ち止まった。

 ソウタが言う。

「今の見たでしょ? 殺した男は、女王に敵対する者よ。だから転生者を殺していこうとしている」

「こいつ、知ってる。豚の首を切って、多足虫を殺した奴だ…… 確か、セイトという名だ」

 タンク山の麓で、セイトと出会ったことを覚えている。思い出すだけで不快で、恐怖の感情が伴う。

「けど、なんで転生者が女王と関係するの?」

「転生者は、多かれ少なかれCodeを書き換えれる。Codeを書き換える能力は、女王がコントロールしているこの世界のチート能力。つまり『切り札』なの」

「え、だけど、転生者は何も優遇されていないじゃないか。切り札なら、城に住まわせてくれてもいいのに」

「そのまま女王に言ってみたら」

 いや、言える訳ねぇだろ。




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