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水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


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「ツインテール」

「ねぇ。ねぇねぇ?」

 リムの街で買い物をし、俺は家に帰る途中だった。

 この世界にきて、初めて見るツインテール。

 フリフリのヘッドドレスに、チョーカー。よく服装のことは知らないが、こういうのはゴシックロリータなのだろうか。この世界にもこんな服があるのだろうか。上流階級の人間は女王以外に会った事がないからなんとも判断がつかない。

「ねぇねぇ」

 しかし、その声はちょっとダミ声というか、加齢したような声に聞こえる。

「どうしましたか? 道に迷ったとか」

「そうなんです。場所を探しているんです。ドラゴンの世話をする仕事している人が住んでいる場所って聞いたんだけど」

「ああ、それなら俺がこれから行きますから一緒に……」

 首を真横に振る。両サイドの髪の毛が肩を撫でるように何度も乗り越えた。

「いいんです。一人で行けますから。道を教えてください」

 ドラゴンの世話をする人が住む場所、というところには、俺とサムしか住んでいない。俺に用がないなら、この人はサムに会いに来たのだろう。

「別に俺も帰るところだから、手間とかそういうのは気にしないでもいいんですよ」

「いいんです。着いてこないでください」

 俺がこの人に興味を持っていると思われたのだろうか。

 肌も綺麗だし、声以外は若く思える。どちらか、と言われれば好みのタイプではあった。

 このまま強情になって、言い争いになったりしたら、サムに何を言われるか分からない。

 俺は今から帰る道を言葉で教えた。

「ありがとう」

 そう言うと、出会った(・・・)時と(・・・)同じ向き(・・・・・)に歩き出した。

「違いますよ!」

 俺はそういうとツンテールの肩に手をかけた。

「!」

 瞬間、俺は頭を下げて結んだ髪を避けていた。ボクシングの技術で言うところの『ダッキング』というやつだ。まさかツインテールの髪を避けるためにボクシングの技術が必要になるとは思わなかった。

 ゆっくりと体を起こすと、俺を無視したのか、気づかないのか、ツインテールはどんどん先に歩いていってしまっている。

 俺はツインテールを追いかけた。

「そっちじゃないです」

 流石にツインテールも俺に気が付いたようだった。

「キャァーーー ついてこないで!」

 ダミ声の『キャァーーー』はきつい。

 人通りはなかったが、街中で叫ばれるとこっちが悪者になってしまう。

「そう言うんじゃないんです。聞いてください。道が違うんです。後ろです後ろ」

「だから何度も言ったじゃないですか、ついて来なくていいって」

「ああ、分かりました、分かりました」

 俺が逆方向に向かえば気が済むのだろう。もうしばらく街をブラブラしてから帰ればいい。俺はツインテールに説明し、家とは逆の方向を向いて歩き出した。

「俺はこっちに向かって歩くから、あなたはそちらに言ってください。教えた通りに行けば間違いありませんから」

 曲がるのは一回だけ。しかも、ドラゴン用の大きな建物があるから、しっかり目を開けていれば間違いようがない。

 肩越しに後ろを見ると、すでにツインテールの姿はなかった。

「えっ?」

 俺は立ち止まって振り返った。

 誰も見えない。

 道を曲がるには早すぎる。『大きな建物が見えたらその角を曲がる』と繰り返し伝えたのだ。間違えて曲がるにしたって、近辺に曲がれる道はない。建物と建物の隙間に入って行ったとかだろうか。

 そうでなければ、ものすごく早足で去っていったか。俺はその場でしばらく考えた。

 結論は出なかったが、ツインテールも子供ではない。もういいだろう、と思って家の方向に向かって歩いていくと、正面にツインテールが現れた。ついさっき、最初に出会った場所でだ。

「サムには会えましたか?」

「誰ですかサムというのは?」

「その…… ドラゴンの世話の仕事をしている人の名です。あなたはサムに会いに来たのではないんですか?」

「私はケイゴという人に会いにいくのです」

「ケイゴは俺だけど」

 言いながら、この人物が誰かを考えていた。

「……」

 ツインテールは胸の前で腕を組んで首を傾げた。

「それならさっき私に触れた時にわかるはずです」

「なぜそんなことでわかるんです?」

「ケイゴは転生者で、体に触れればCodeを読めるのです。Codeを読まれれば、私も相手がケイゴか分かります」

 Codeを読めて、俺に会いに来る人。いくら考えても一人しか思いつかない。だが、その名前と、目の前に立っている人物の印象があまりにかけ離れている。

「その者はゴブリンの王を改心させに行く重要な役目を負っています。あなたのような下心剥き出しのアホではないんです」

「なっ……」

 俺は言い返した。

「今はそうかもしれません。しかし俺は『ソウタ』という偉大な師匠(マスター)に学ぶことになっています。ゴブリンの王を改心させる力も、まもなく身につけることが出来ます」

「……確かにソウタは偉大な師匠(マスター)です。しかし、目の前の男がケイタとは気づかないでしょう。この男は、辛抱がきかない。短気で、未熟で、何より歳を取りすぎている」

 ツインテールは暗くなり始めた空の方を向いて、そう言った。

「何言ってるんです? 映画か何かですか?」

「はっきり言わないと分からないの? 私がソウタよ」

「はぁ? ダミ声ツインテールのお前が?」

 逆ギレ。俺は逆ギレた。逆ギレというのは、意識してするものなのだ、と初めて思った。

「……ああ、もうだめ。見た目と『ソウタ』という名前が結びつかないから、違うと思っていたんでしょう? この道に迷っているのが、試練だとも知らずに」

 それは真面目に言っているのか。酷いこと言ってしまった俺は、どうしたらいい。

「……」

 まさか目の前の人間が『ソウタ』で俺の師匠となる人だとは。酷い勘違い。屈辱的なミスだった。

 頭を下げる?

 当然謝らなければならない。これからの関係に関わる。だが、どこまで頭を下げるべきだろう? 土下座? 土下座が必要なのか?

 頭を下げようとしても体が硬直して動かない。心のどこかで目の前の人間を『師匠』と認めたくないのだろうか。

「謝れないの? 別にCodeを書き換えれば幾らでも頭を下げるでしょうから、そうしてもいいのよ。けれど、こういうのは自ら判断することが必要でしょ」

 なんて嫌な感じの人間なんだ。これだ。これが引っかかっているのかもしれない。こんなのを『師匠』と呼ばねばならないのか。

 ソウタは腰に両手を腰に当てて少し反り返り気味になった。

「ほら、どうなの」

 だめだった。これまでの非礼を全て無しにしてもらうには『土下座』するしかない。

「申し訳ございません」

 膝をつき、おでこを擦り付けるまで頭を下げる。

 疎らな拍手で返された。

「はい。大変良く出来ました」

 顔を上げようとすると、ソウタは言った。

「ほら、まだ早い」

 後頭部に足を乗せてきた。

 抑えつけたはずの敵意が、再び心に湧いてくる。

「大体、見かけが女だからって、中身まで全部女だと思うのが間違っているでしょ。私はCodeを書き換えることによって見た目を女子にすることができるの」

 ウソだ…… ソウタという名が変わっているのではなく、むしろソウタは正しくて、外見が歪んでいたのか。

「何故か声だけはいつも変えられないのよね」

 ここは笑うところか? ダメだ、笑ったら殺される。というか、感情を読まれていないのか。俺は感情を押し殺した。

「私に欲情して、間違った道を教えた。だから私はいつまで経ってもケイゴの家につけないのよ」

 いや、正しい道を教えた。俺が信じる宗教はないが、どこかの神に誓ってもいい。正しい発音で、正しい言葉を用いて、正確な道順を教えている。それが出来ないのはソウタが方向音痴だとしか思えない。

「イテッ」

 足にかける力が強くなって、俺は思わずそう言っていた。

「誰が『方向音痴』なのよ。遥かに年上の者に向かってなんでそんなことを思えるの。私がCodeを読めないとでも思っているの」

 まさか…… 性別だけではなく、年齢も偽っているのか。

 俺は初めてソウタのCodeを読んでみようと試みた。

 溢れるような大量のCodeが網膜に映る映像に重なり、高速でスクロールして流れていく。

 とても解釈できない量だったが、年齢を知ることはできた。

「喜寿……」

「よくそんな言葉知ってるわね。ああ、ようやくCodeを読みにきたね」

 足を後頭部から外し、ぐるっと回しておでこにつま先を差し込んで足で俺の頭を持ち上げる。

 俺は頭を上げた。

 ソウタは俺の顎を指で持ち上げると、

「Codeを読むスピード、把握力、きっと、あなたの才能なのね。九十点ってところかしら。あなた、才能あり、だわ」

 ニヤリと笑った。

 性格は抜きにして、俺はその容姿にクラッときた。『これはこれであり』だ、そう思った。


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