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水晶の世界 〜世界のコードを書き換えて敵を倒すのも楽じゃない〜  作者: ゆずさくら


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「山から下りてきた男」




 しっかりと石を並べて舗装した道路、並び立つ建物。

 リムの街と呼ばれるここは大きな街だったが、城下ではなかった。リムは城下町のクランクに近く、国の中で最も人口の多い街だった。

 その街の通りを、何も見ずに適当に切ったように長さがバラバラの髪をした男が歩いている。その髪は洗っていないせいか、それとも髪質のせいか、或いはその両方が原因なのか、爆発したように八方に広がっていた。服は汚れていて臭ったが、地味な服装だった。男が街を歩いていると、周りの人間が自然と距離を取った。

「……」

 男は、避けて行く一人一人の顔を観察するように真剣に見つめる。

「おい、そこのお前止まれ」

 男の後ろから警察官が呼び止めた。

 男がゆっくりと振り返る男の表情を見ていると、警察官は急に仰け反った。

 ウィービング。ボクシングでいうアッパーカットを避ける動作のような動きだった。だが、男は何か威嚇するような動作をした訳ではない。警察官は、男に気圧(けお)されたのだ。

「人々の通行の邪魔をしたら罰金だ」

「どこを歩いても自由だろ」

「他人の邪魔にならない限り、という事だ。お前は他人の通行を邪魔した。罰金を払うんだ」

「ふん。酷い言いがかりだな。悪いが金がない。罰金は払えない」

 男が言うと、警察官は言った。

「じゃあ、留置場でしばらく反省してもらうぞ」

「……」

 また警察官は仰け反った。何か圧を感じるのだ。殺気なのかもしれない。

「お前、見かけない顔だな。名前は」

「セイト」

「セイト。やっぱり知らない名だ」

 警官がそう言ってセイトの腕を掴もうとすると、腕にある多数の傷跡を見つける。

「なっ……」

 一瞬怯むものの、警官は腕を掴んだ。

 その時、別の警官が寄ってくる。

「おい、そいつは捕まえるな」

「えっ?」

「いいから手を離してこっちにこい」

「こいつ、どう考えても怪しいじゃないか」

「いいから手を出すな」

 セイトの手を掴んでた警官は、後から来た警官に腕を取られてその場を去っていく。

「……」

 セイトは何かを察して、あたりを見回す。

 通行している人々を睨み返す。

 通りには気配がない。

 気をつけて見ていると、建物と建物の間、細くて暗い路地から、注がれている視線に気づいた。

「見つけた」

 セイトはそう言うと視線のある路地の方へ急いだ。 

 細い路地に入ると、そこには警官の格好をした、片目の者が立っていた。

 片目の警官は言った。

「いきなり呼び出して、用はなんだ。街中ではなるべく接触は避けたい」

「そんなこと言うなよ、ハルバルドさんよ」

 セイトはニヤつきながらポケットに手を突っ込んだ。

 ハルバルトは戦闘態勢を取るかの如く、足をひき、腕を上げて構えた。

「ビビるなって」

「ビビっているわけではない」

 ハルバルドはゆっくりと姿勢を戻した。

「情報だよ。山を降りた時、多足虫を運転している転生者に会った」

 言葉より先に、ハルバルドはセイトのCodeを探っていた。

「!」

「山を下りる時に出会った。丁度いい、手始めに殺そうと思ったが、逃げられた」

「まさか、そいつは」

「貰った人相書きに載ってなかった。おそらく最近転生したんだろう。俺が読んだCodeが正確なら、そいつケイゴとかいうやつだ」

 ハルバルドは親指を立て、セイトに言った。

「探していたんだ。よくやったぞ」

 そして何か考えるような表情をして

「タンク山近くで、多足虫を運転していただと……」

 と言った。

「あのあたりに現れるのはハルバルド、あんたか、もしくは……」

 わざわざ多足虫を運転してタンク山の近くを通過するのは何かものを捨てに行く必要があるからだ。セイトはタンク山の近くの川原にゴミを捨てる連中をいくつか知っていた。

「そいつは、ゴミ処理の仕事をしているのかもな。あるいは、あの近辺のゴミ場だとドラゴンの世話をする奴らか」

「そうか。それが確かなら居場所も、大分絞れるな」

「じゃ……」

 セイトは手を開いて上に向け、ハルバルドの方に差し出した。

 ハルバルドは手のひらの無数の傷を見つめる。

「情報料ってヤツだ」

 腰の袋から硬貨を取り出して仕分けると、セイトの手に乗せた。

「これっぽっちか。それならそれでこっちにも……」

 さらにいくつか硬貨を選って落とす。

「ナメてんのか」

 また硬貨が落ちていく。

「ここまでだ。これ以上は出せん」

「全くケチくさいぜ」

そいつ(ケイゴ)をやったら、今の倍を払ってやる」

「一人殺すだけでか。大した奴には思えなかったが」

「調べはついていないが、こいつには何かある。早めに潰しておいた方がいい」

 冷たい目をしたまま、セイトは口だけ笑ったように歪んだ。

「すぐに金が必要になるから、用意しとくんだな」

「頼もしい言葉だ。頼んだぞ」

 ハルバルドはそう言うと、消えるように姿が見えなくなった。




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