【第32回】 ある夫婦の魂
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気が付くと、チクノクサは笑いを収め、俺と倉見を凝視していた。少しして、口を開く。
「儂は仮現界に行った際、とんでもない人間と出会ってしまった様だな。儂を死直界へと戻し、その上、長らく疑問だった『死後の世界という話の中で死直界が登場しない理由』までも指摘するとは……」
ここでベソイミカが言葉を発した。
「入谷君の考え……、僕は現状で敢えて『推測』とするけど、その話が聞けるとは思わなかった。誤解がない様に付け加えるなら、君の推測は、そのまま『結論』になるのは間違いないと思う。僕自身も、そう考えているから……。だけど、僕は他の管理人に『こういう話もあるけど、どう思う?』って聞いてみたいんだ。『結論ありき』ではなく、『自由に意見を言っても構わない』という状況で入谷君の『推測』を示す事によって、他の管理人達が持った感想を知りたい!」
そう話すベソイミカの顔は先程の蒼白な状態とは異なり、かなり紅潮している。軽い興奮状態にあるのは間違いないだろう。
「副管理長の意見に儂も賛同するが、議論となる前に全員が納得してしまうのでは、ないか。入谷の『推測』に……、儂にとっては既に、それは『結論』だが……」と、チクノクサが告げた後、俺達に向かい、声を掛ける。
「君達二人には本当に世話になった。心から感謝する」
そう言った後、「これで忘れられない人間が二人増えたな……」と呟く。それに呼応して、ベソイミカも、「注目の的になるのは間違いないでしよう」と応じた。
「それって、どういう意味ですか?」と、尋ねたのは倉見である。
その顔に微笑みを浮かべたベソイミカが、話し始めた。
「僕達は人間の魂と直接の関わりを持たない。倉見さんと入谷君の場合は『死んではいない人間の魂』だから『例外中の例外』。でも、仮現界だけではなく、真現界の管理人でさえ全員が『知っている魂』がある。そして、何かの折に、この魂の話をすると、管理人全員が暖かい気持となり、『人間にも良い処があるじゃないか……』と思うんだ。人間に対して殺戮行為を行う人間が多数いる中で……」
「その話、聞きたいです!」と、喰い付いたのは倉見であった。もちろん、俺も同じだ。
チクノクサが微笑みながら、俺達の方へ視線を向けた後、ベソイミカの顔を見て、軽く頷いた。
ベソイミカの口が言葉を紡ぎ始める。
「先に前提となる話をすると、ここには二つの魂が登場するんだ。しかも、この魂には死直界、真現界双方の管理人が〈何だかの形〉で全員が見ている。ただ、その全体像を知る管理人はおらず、各々の話を纏めると『こうなる』という内容なのは理解して欲しい」
俺と倉見は黙ったまま大きく、その首を縦に振る。
彼の話が続いた。
「僕が仮現界へ研修に行った時、〈ある老夫婦〉と出会う。仲の良い夫婦だった。でも、奥さんが先に死んでしまう。その後、僕は研修を終え、死直界へと戻る。
しばらくして、死直界で魂の様子を確認していたら、見覚えがある顔と出会った。仮現界で会った老夫婦の旦那さんだ。その魂は何の問題もなく、真現界へと向かう。
ある時、真現界の管理人と話す機会があり、その際、『転生を拒む魂』の話を聞く。その理由は、『あの人と、この世界で会い、再び一緒に仮現界へ行きたい』だった。
(余程、前回の仮現界で相性が良かったんだな……)と思っていたら、そう言ったのは、僕が仮現界で出会った『老夫婦の奥さんらしい』とも聞かされる。
後日談として、後から真現界に戻った旦那さんの魂は、奥さんの魂と無事、再会し、再び、仮現界へと転生した。
他の管理人から得た情報を精査すると、どうも、この二人の魂は仮現界で必ず、夫婦となっているらしい。
ちなみに、この二つの魂は常に第一級のレベルで真現界に戻る。その為、自然環境や社会情勢という意味では比較的安定している地域に転生するんだけど、それが『同じ国』になるとは限らない。真現界の管理人は魂の転生に関する準備はするものの、『どこの地域に転生させるか』という権限までは持っていないから……。でも、二人は仮現界で出逢ってしまう様なんだ。
『これも愛の力か?』と、管理人達は言うけど、実際問題として、その確率は異常な程、低い筈。
ある時、この魂の話が発端となって、『人間の愛は真現界に対して、どれほどの影響力があるんだ?』と真剣に議論した事もあった程。
その後も二人は輪廻転生を繰り返し、死直界と真現界の管理人として、全員が知る魂になって行く」




