【第31回】 死直界が認知されない理由
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気が付けば、ここにいる四人の視線は、部屋の中央にあるゲート型金属探知機の様な物に向けられていた。
そこをイスに座った二つの魂が通過していく。双方共、放たれた光は黄色だった。
俺の耳が倉見の声を捉える。
「『魂の消滅』が続いて起こったわ。でも、ここから、あの扉……、『魂の消滅』が実行される扉に至る時間は違うんだ……。あの二つの魂にとって……」
その言葉を聞きつつ、俺は部屋の奥を見る。
(この装置から、救痛界へ向かうエスカレータ、魂が消滅する扉、そして、真現界の入口となる扉まで各々、約二十メートルといった処だろう。ここを二十秒程掛けてイスに座った魂は移動する。速度にすれば秒速一メートル程。だが、今、消滅が決まった魂にとって、その速度に意味はない。各々に与えられた時間の中で『残された時が過ぎるのを待つ』しかないのだ。しかも、それは『消滅する為に与えられた時間』……)
ここで倉見の口が再び開く。それは新たなる疑問の提示であった。
「『消滅する魂』に関して、その時間を誰がコントロールしているのですか?」
(どうして、倉見は俺が聞きたかった質問をタイミングよくするのかなぁ……)
もう、それは『驚き』の範疇を超え、『呆れ』に近い感情を俺に抱かせ始めている。
この問いには、チクノクサが応じた。
「儂らには、この『時間をコントロールする能力』はない。それは『死直界そのもの』が全て行っているのだ」
その返答を聞いた瞬間、俺は頭の中で姿を現した〈何か〉が完全なものとなった。同時に、(これだけは確認しなければ!)と思った事を尋ねる。
「ここ死直界の中で時間の流れが変わるのは、消滅が決まった魂だけですか?」
ベソイミカは訝しげな表情を浮かべ、「何故、そんな質問をしたんだい?」と聞き返したが、チクノクサは淡々と、「そうだ」とだけ答える。
(やはり、そうか……。これで謎が解けた!)
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俺は今、チクノクサとベソイミカに向かい、ある説明を行っている。それは仮現界で死直界の話題が出ない理由であった。
「俺が話し易い様に『俺達の時間、及び、距離感覚』を使いますが、死直界にある『魂の分類装置』から、真現界の入口となる扉まで約二十メートルです。イスに座った魂が、ここを通過するのに必要な時間は二十秒程。決して長い時間ではありません。
もし、『例の装置』を通過した瞬間に魂が睡眠状態から醒めたとしても、この約二十秒という時間で『完全に覚醒する』のは難しいと俺は推測しました。
チクノクサさんとベソイミカさんには理解し難いかも知れませんが、人間は睡眠から醒めた時、『熟睡状態から一瞬で覚醒』というのは珍しいと言えるでしょう。それが『絶対にない』とは断言しませんが……。
つまり、死直界内で『睡眠状態から醒めた』と言っても、『寝起き』という『不完全覚醒』のまま、ここを離れ、真現界へ行くのが『通常の状態』だと俺は認識しました。
そうなれば、魂にとって死直界は『あった様な、なかった様な場所』という感覚しか持てず、そう思われた死直界に対して、積極的に話す機会が少ない……、いや、『ほとんど、ない状態』では、ないかと推測出来ます。
結論を言ってしまえば、『良く覚えていない世界の話をしても意味はない』……、例え、この死直界で『魂の分類』という『自らの運命を決定付ける重要な〈作業〉』が行われていても、『記憶が薄い』、もしくは、『残っていない』状況なら、その話題を口にする事もなく、その為、死直界という存在が『知られない』状態になったと俺は解釈しました」
ベソイミカの顔からは表情が消えている。当初、チクノクサも同様であったが、話の途中から、その顔が紅潮し始め、俺の話が終わった瞬間、笑い声を上げ、「入谷、君も中々の逸材だな。その点には全く気付かなかった!」と告げ、ベソイミカの顔を見る。その色はチクノクサとは反対に蒼白いものへと変化していた。そして、震えた声で呟く。
「そういう事か……」
一方、倉見は俺へと視線を向け、「完璧な推理ね。恐れ入ったわ」と、こちらは笑顔で告げる。




