【第30回】 『魂の消滅』に掛かる時間
ベソイミカは真顔に戻り、続く言葉を発した。
「しかも、仮現界から来た魂が移動している場所と、死直界の管理人がいる場所……、ここには君達二人もいるんだけど、その両方では時間の流れ方が違うんだ……」
「その件に関しては儂が話そう」と、珍しくチクノクサが口を挟む。
軽い驚きの表情を浮かべたベソイミカに対して、チクノクサが、「この件の導入部分となる話を先程、入谷としたのだ」と告げてから、その視線を俺達に向ける。
「君は『魂の消滅』という問題に対して、『千人とか万人という単位で人間を殺戮した場合も、『魂の消滅』という同じ対応しか行わないのは、不公平だと感じましたが……』と言った。これが発端となり、救痛界の話題へと移行して行ったのだが、実は、この『魂の消滅』という事象に対しても『差』があるんだ」
そう言った彼は、「あれを見て欲しい」と言って、ゲート型金属探知機の様な物……、実際には刳り抜かれた岩らしいが、そこを指差し、続きを話す。
「死直界に来た魂は睡眠状態だ。君達にも、そう説明したが、その時、『正確に言えば、〈ある時点〉で覚醒するのだが』とも告げた。その『ある時点』とは、あの岩を魂が通過し、その分類が終わると睡眠状態から覚醒するのだ。
そして、岩が『黄色』の光を放ち、『消滅』が確定した魂には新たな〈精神的苦痛〉が与えられる。
一言で『魂の消滅』と表現しても、そこには『差』があるのだ。魂の重さに関して、『あと少し重ければ』、真現界に行けた魂と、『あと少し軽ければ』、救痛界行きとなった魂を全く同じに扱うのでは不公平感が残る。そこで消滅が決まった魂に対して、与えられる時間が異なる様に死直界は出来ているのだ。
具体的に言えば、〈あの岩〉から『魂が消滅する扉』までの距離は一緒だが、魂が重い場合、精神的な苦痛を与えない為、そこに至るまでの時間が『短く』設定され、魂が軽い場合は、その時間が『長くなる』様になっている。
岩を通過した際、魂は『どの様な分類を受けたのか』を知る。そして、睡眠状態から醒めるのだが、『消滅』が決定した魂にとって、そこからの『時間経過』は、一緒でない。特に『魂の重さ』が軽かった場合、『消滅』という事実は突き付けられたものの、それが中々実行されず、苦悩の日々を過ごすのだ。
具体例を挙げるなら、わずかな差で真現界へ行けなかった魂が感じる時間は儂達と一緒だ。だが、魂の重さが軽くなれば、なる程、それと比例して、感じる時間が長くなる。場合によっては、儂達にとって一秒と言う時間が一年という長さに感じられる訳だ。
更に加えるのなら、この時、魂は動けない様にされ、声も出せない。その顔に恐怖だけを湛え、『消滅の時』を待つしかないのだ。頭の中では仮現界で繰り返したであろう『悪行』を悔いつつ……。
ここで一つ加えると、仮現界で意図的に『他人による苦痛が少ない死の選択』……、君達が住む日本の場合、『死刑』が、それに該当すると思われるが、それを望み、人を殺した場合は例外なく救痛界へ落ちる。そんな輩は殺人に対して『反省する気が毛頭ない』からだ。だが、消滅となった魂には、『反省の余地』があるものの、それを許さないが故の『恐怖』と闘わなければ、ならぬのだ……。
更に加えよう。反省すべき事象が含まれた自らの行為に対し、『反省しない』のは死直界の常識として『悪行』と見なされる」
(なるほど、そういう事か……)と、俺は二つの意味で感心していた。
一つは『魂の消滅』という事象に対しても、その重さにより、与えられる精神的苦痛に『差』が出来るシステムが採用されている点だ。
そして、もう一つが、その『差』を作る為に『時間』を利用している事への驚きと納得だった。
(まさか、時間をコントロール出来るとは……、だから、『相対的な時間』という言葉が使われたのか……)と考えつつ、俺の脳内では「形になり始めた何か」が、その姿を現したと認識する。
(チクノクサは、『相対的な時間に、わずかな〈ズレ〉が生じているらしい。まだ誤差の範囲内だが、注意しておく様に……』と、ベソイミカに言った。
消滅が決まった魂に与えられる『感じる時間の差』が生じるのは、『その時間を管理している者がいる』という証明でもある半面、チクノクサが、『らしい』や、『誤差』、『注意しておく様に……』という言葉を使った事実からすれば、ここの管理人は『時間を管理していない』事を意味する……)




