【第29回】 死直界での時間
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ベソイミカの話により、チクノクサが死直界に関して、丁寧な説明をしようとした理由を俺なりに理解する。
(確かに、死後の世界に関して、俺も色々な話を聞いたが、死直界の様な存在を耳にした事はないな……)と思いながら……。
目の前では相変らず、イスに座った人間の魂がゲート型金属探知機の様な物を通り、その度に装置が光を放つ。
俺は、この時、妙な事実に気付いた。
(ここって、全人類の魂が集まっているんだよな?)
地球規模で見た場合、約一・八秒に一人が死んでいるという話を聞いた事がある。単純計算すれば、一時間に約二千人が死んでいる筈だが、「死直界の中心部」と紹介された、この場では、そんなに多くの魂が、あのゲートを潜っている様に思えなかったのだ。
その時、管理長のチクノクサが俺達の傍に戻る。そして、副管理長のベソイミカに対し、「相対的な時間に、わずかな〈ズレ〉が生じているらしい。まだ誤差の範囲内だが、注意しておく様に……」と告げた。
(『相対的な時間』?)と、頭の中でチクノクサの言葉に〈引っ掛かり〉を感じた瞬間、倉見の口が動く。
「一つ、質問しても宜しいですか?」
その声にベソイミカが、「構わないよ」と応じ、チクノクサは黙ったまま頷いた。
彼女の疑問が呈される。
「今、ここの中心部にある『魂を分類する装置』には、約十秒で一つの魂が通過しています。ここに全世界から『人の魂』が集まっているとした場合、このスピードでは『処理能力不足』だと感じました。何故なら、日本では約二十一秒に一人が死んでいると、何かで読んだ記憶があるからです……」
(俺が思った疑問を、またしても倉見は口にした……)と感じながら、俺は補足説明を行う。
「全人類に話を広げますと、約二秒……、もう少し正確に言えば約一・八秒に一人が死んでいる筈です。そうすると、倉見さんが指摘した通りの感想を俺も持ちました」
その言葉にベソイミカが薄笑いを浮かべ、「さすがだね」と呟いた後、一度、チクノクサの顔を見る。彼は再度、黙ったまま頷いたが、そこにも薄笑いが浮かんでいた。
ベソイミカが話し始める。
「君達二人の観察力には恐れ入ったよ。『よく、そこに気が付いたな』って感服した程。
そう、ここ死直界の中心部には仮現界で死を迎えた人間の魂が全て集まる。そうなると、今、倉見さんと入谷君が指摘した通り、ここの処理能力よりも、死直界に来る魂の方が多い様に見えるかも知れない。でも、死直界には〈ちょっとした〉秘密があるんだ。
結論を言ってしまうと、仮現界と死直界とでは時間の流れが違う。具体的に言えば、死直界は仮現界と比べて約五・五倍早く時間が進んでいるんだ。
君達は今、魂という状態だから『体内時計』という言い方は変かも知れないけど、その時間感覚は仮現界にいた時と同じ。でも、実際は約五・五倍のスピードで時が流れている」
俺は、この話に絶句した。それは倉見も同じ筈だ。彼女は驚愕の表情を浮べている。そして、俺の顔にも同じものが表れているだろう。
ベソイミカは薄笑いを浮かべたまま、声を発し続けていた。
「でも、安心して欲しい。今の君達は『肉体を持たない魂』という状態。ここ死直界で何十時間……、いや、何年という時間を過ごしたとしても、年齢は重ねない。肉体を取り戻し、仮現界に戻った時は、ここに来た時と全く同じ姿をしているから大丈夫。お婆さんと、お爺さんには、なっていないよ」
微笑みながら発せられた彼の言葉を聞き、俺と倉見は一緒に安堵の溜息を漏らす。
一度は緊張した精神が安心感を覚えた為かも知れない。俺の中で〈何か〉が急速に形となり始めた。
(確かに倉見が指摘した通り、ゲートを潜る魂は約十秒に一つ。だが、これは俺達が持つ時間感覚を基準にした秒数だ。実際に死直界の時間が約五・五倍のスピードを持ち、その状態で『魂の分類』が行われていたのなら、地球上で人間が約一・八秒毎に一人死んでも、ここの処理能力で充分に対応出来る筈。何だかの理由で大量殺人が行われない限り……)




