【第24回】 倉見の新たな疑問
※
チクノクサの話を聞きながら、俺は目の前で生じている光景を見続けていた。
イスに座った「死んだ人間の魂」……、一応、「人間の姿」として認識出来るが、「世界中の人が集まっていた」と言っても構わない状態である。しかも、老若男女を問わず……。中には「生まれた直後」と思われる赤ん坊もいた。
半面、「グロテスクな姿」をした人間はいない。
(彼は、『ここでは魂を『人間の姿』として捉える事が出来る。例外もあるが、多くの場合、『生前の容姿』と、ほぼ同じものだ』と言ったが……)
その様に考えていた時に、「どうか、したのか?」と、チクノクサが声を掛けて来た。俺は思わず、頭の中にあった言葉をそのまま発してしまう。
「ここにいる魂は、地球上のあらゆる国や地域から集まっていると認識したのですが、その中には紛争地域も含まれている筈です。しかし……」
俺は、ここで言葉を詰まらせた。「損傷した死体」という言葉に強い抵抗感を覚えたのだ。
それを察した様にチクノクサが話し始める。
「戦争や紛争と言った状況だけではなく、事故でも『肉体が傷付く』……、しかも、『酷い』という言葉が当て嵌る場合も少なくは、ない。だが、死直界で見える魂は『〈そうなる〉直前の姿』だ。
これに関しても我々は、その理由を知らない。
魂にとって、仮現界で与えられた肉体は、あくまでも『仮のもの』だ。我々の立場からすれば、『大きな意味は持っていない』のだが、『仮現界にいた時の〈普通の姿〉』が死直界で見えるのは『死後の世界』が与えた『優しさ』だとも感じている」
ここで倉見が口を挟んだ。
「話が横道に逸れますが、ここに来る魂が地球規模だとしたら、『宗教』は……」
彼女の言葉が突然、止まる。そして、首を横に傾げた。
倉見自身、俺とチクノクサとの会話を聞いて、〈何か〉を思い付いたのだろう。しかも、疑問として……。だが、その件に関して発言してみたものの、自らの考えが纏まっておらず、「自分でも何を聞いたら、いいのか?」という状況に追い込まれたと俺は推測した。
一方、チクノクサは、「宗教の問題か……」と呟き、倉見の顔を見て、「これも厄介な話なんだ……」と言い、「少し待って欲しい」と告げてから、先程、俺達の場所へ来た副管理長を呼ぶ。その際、チクノクサは、「宗教絡みの話題は副管理長の方が詳しいんだ」と、説明した。
俺は、ここで〈ある事〉に気付く。
チクノクサは俺達が抱いた疑問を丁寧に答えている。突然の質問に対しても、そうだ。
彼が死直界の管理長という立場上、死直界について詳しいのは当然として、「どうして、ここまで答えてくれるのだろう?」という疑念を抱いたのである。しかも、倉見が発した「宗教の件」に関しては、副管理長に説明させ様としているらしい。
その副管理長が俺達の傍に来た。そして、口を開く。
「一応、自己紹介をしておきましょう。ここの副管理長をしている、ベソイミカです。短い間ですが、宜しく」
それに呼応して、俺達も自己紹介をした。とは言っても、名前程度だが……。
チクノクサが言葉を発する。
「ここにいる副管理長は仮現界へ行った時期が長い。『約百二十年に渡り仮現界にいた』という話は少ししたが、時間的要因だけではなく、彼自身、観察力が相当、高いのだ。その為、仮現界に対する知識も豊富と言えよう」
ここで副管理長が口を挟む。
「まぁ、観察力の話は別として、何故か僕が研修で仮現界へ行くと、重大な事件が発生するんです。副管理長になる直前の研修では大規模な戦争が起こりましたし……」と、俺達に言ってから、「で、何の話です?」と、チクノクサに向かい尋ねる。
「宗教が関係する話だ」というチクノクサに対して、「解りました」と副管理長……、ベソイミカは応じた。




