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突然現れたアルベンスに流されるままルーアンはアルベンスの部屋にいた。
まだ自分の中で整理がついていない状況で思いの丈を赤裸々に告白していた。
「ルーアンは頑張っているのに認められず辛い思いをしていたんだな」
「別に頑張るのは当たり前だし」
「頑張るのは当たり前でも辛いことを隠す必要はない。俺はルーアンのその心が好きだ」
「アルベンス」
初対面なのにアルベンスに心を許し、ルーアンは完全に虜になっていた。
心が弱っているときに優しくされれば恋に落ちることもあるが、見捨てられたと思っているときにアルベンスの言葉は効果的だった。
“スペル”を持っているとは露程にも思っていないルーアンは警戒することなく“魅力”にかかった。
ゆっくりと染み込む言葉はルーアンの思考を緩やかに停止させていた。
アルベンスの“スペル”を知っているアネットは一人船長室で溜息を吐いていた。
「仮にも軍人なら“スペル”の警戒を疎かにするんじゃないよ。これだから甘ちゃんは」
アルベンスの言葉に惹かれたあとは部屋から出て来ないことを知っている。
さすがにそこに飛び込むような無粋な真似はしない。
「戦争を知らない軍人の典型的な直情型。私のことも知らないとはね」
アネットは軍に所属していたときは四神帝と肩を並べるほどの実力があり、四天王の一人でもあった。
激情の青龍と呼ばれ、海では向かうところ敵なしと言われて敵の戦艦を沈めてきた。
戦争が終結するあたりで、軍を退き海賊の頭を名乗った。
軍一番の船乗り相手に勝負するほど軍も愚かではなく、戦争で疲弊した軍事力では追っ手を差し向けることも不可能だった。
その混乱期に乗じて逃げおおせ今では自由に海賊業を営んでいる。
「第六特務部隊とは違う厄介さが第三特務部隊にはあるから用心するに越したことはないけど久しぶりに戦えるなら楽しみかもね」
煙草を取り出すと、ゆっくりと燻らせる。
乗組員の中の女性は全員が軍人を辞めた者で構成されており、海賊の中では珍しかった。
「楽しむのは良いけど釘は差しとかないとね」
アルベンスを拾うことになったのも船に置いておくことになったのも成り行きだが、アネットはアルベンスを船から下ろしたかった。
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「しばらくは風があるから、しっかり帆を張れよ」
「アイアイサー」
「船長、あそこに土左衛門がいます」
「あ?」
「ほら、あっ、沈んだ」
「チッ、引き揚げろ」
海を漂流していたのはアルベンスだった。
引き揚げてしまったからには海に戻すわけにはいかず船に乗せることになった。
「いやぁ助かった。ありがとう、美しき女神」
「そうか」
“魅力”全開でアネットに迫るアルベンスは普通の人なら完全に落ちただろう。
だがアネットは元軍人で“スペル”に対する耐性を持っていた。
“スペル”を持っていて使い方を知っているというのは脅威でしかない。
それが訳ありとしか思えない人物ならさらにだ。
「ここは海賊船、そして船長は私だ。船は決まりがある。船長がすべてだ。それが守れないときは死を持って償ってもらう」
「君にそんな物騒な言葉は似あわない」
「その物騒な言葉を実行させなければいい。君ほどの男なら簡単だろう」
「もちろんだ。守ってみせるよ、セニョリータ」
そんな言葉もアネットには通じなかった。
だが、アルベンスには頑なな態度をとる女性に対して勝算を持っていた。
警戒している女性ほど“スペル”に一度かかると抜けにくいという経験則がある。
「働かざるもの食うべからず。明日から船員たちと一緒に働いてもらう」
「もちろんだ」
「楽しみにしているよ」
アルベンスの意気込みとは裏腹に船に乗り慣れていないため船酔いとの闘いになり、ベッドから降りられない日々が一週間続いた。
さすがに面倒だからと陸に戻そうとウィッティントン港町に寄港し、根城にアルベンスと数名の男を張り込ませた矢先の出来事だった。
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「はぁ」
「船長、大丈夫ですか?」
「あの面倒なアルベンスを拾ってから碌なことがない」
「そうですね。船員が人攫いをしようとして第三特務部隊に目をつけられて軍人を攫わされた。盛りだくさんですね」
「しかも拾った軍人は甘ちゃんも甘ちゃん。普通は仲間に足取りを取らせるために目印とか残すでしょう普通」
軍人を辞めたからと言って軍人がいやになったわけではない。
むしろ第六海上隊とは好敵手と呼べるような戦いをしてきた。
「しかも何人かはアルベンスのお手付きになってるし」
「それは驚きでしたね」
「はぁ仮にも軍人だったなら“スペル”くらい弾き飛ばしてよ」
“スペル”持ちの平民は本当に少ない。
海賊をしているが襲う相手は同じ海賊だ。
だから軍も後回しにしているというのもある。
「出会っても肉体系“スペル”が多いですからね。見た目で分からない精神系となると防ぐのは難しいですね」
「航行に支障がない程度に容認。アルベンスは本当に船から降ろす」
「その前に第三特務部隊に追いつかれると思いますよ」
「あの男は本当に面倒だ」




