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本当に見捨てられたと思っているルーアンは連れて来られた山賊の根城の隅で膝を抱えて丸くなっていた。
山賊の男たちは連れて帰ったときは全員を相手させようと思っていたが可哀想になるくらいに落ち込んでいるから同情して手を出せないでいた。
「おい、女を連れて帰って来たらしいな」
仕立てのいい服を来た女性が現れた。
カードゲームをしていた男たちが一瞬で佇まいを正した。
「って、軍人じゃねぇか。しかも第三特務部隊」
「お頭、見て分かるんすか?」
「どアホ!肩に所属を示す刺繍があるだろうが!はぁ面倒なモン持って帰って来たなぁ、オイ」
「おっ俺らが選んだんじゃねぇっすよ」
お頭の逆鱗に触れたくなくてルーアンを連れ帰るに至った経緯を細かく話した。
それは、ますます怒りを買う結果になったが、一般人の女を連れ帰るよりはマシなのは知る由もなかった。
「まぁ連れて来ちまったもんは仕方ない。今すぐにここを発つ。準備しな」
「追いかけて来ねぇって言ってたのにすか?」
「お前・・・馬鹿か?どこの軍人に人さらいの山賊を見逃すヤツがいる?しかも仲間を攫わせてる。一網打尽にする格好の機会だろう」
「ならコイツだけを置いて行ったらどうすか?」
「拾ったなら最後まで責任もって飼うようにってママに習わなかったか?」
「いや、拾ったんじゃなくて・・・はい」
最後まで反論を許されずに即撤収ということで痕跡を消すことに努めた。
これが隊長たちが来たときには人気が無かった原因だ。
ルーアンも一緒に連れて行かれ、山賊だと思われていたが実際は海賊だった。
補給のために陸に立ち寄っただけで本当は街でも騒ぎを起こすことなくひっそりとしている予定だった。
だが、荒くれ者の集まりであることと女日照りの生活についつい魔が差してしまった。
「さて、野郎ども帆を上げな。出航!」
「アイアイサー」
お頭は海賊の頭であり船長であるから行先を決める権限もある。
乗組員の選別も行う。
意図せずに連れて来ることになったルーアンは船長預かりになっている。
「どうして、殺さなかったんですか?」
「うん?陸で殺すと死体の処理が面倒だからな。その点、海は良いぞ。海流の激しいところで突き落とせば簡単だ」
「なら突き落としてください」
「面倒だな。第三特務部隊の隊員とは思えないな」
「まるで良く知っている口ぶりですね」
「あそこの隊長とは浅からぬ縁があるからな。乗り掛かった舟だ。話してやろう」
ルーアンが沈んだ表情でいることに心当たりがあり、このまま殺してしまうのは癪だと思い昔話をすることにした。
それはほんの暇潰しにしかならないが、ルーアンを前向きにするには十分だった。
「さて、まずは誤解を解いておこうか」
「誤解?」
「そう。見捨てられたと思っている誤解」
「誤解も何もその通りですよ」
完全に後ろ向きになっているルーアンを見て溜息を吐いてからウィスキーを呷った。
「なら何故、自分がいた場所を示す痕跡を残さなかった?街から根城までの目印を残さなかった?」
「だから見捨てられたから別に」
「そう考える前に自分の立場を考えな。軍人だろ?」
「あっ」
「だから同僚はお前を生贄にしたんだ。目印を残す。根城では貞操を守る。まぁ第三特務部隊の特殊性を考えると入隊試験に使ったというところか」
どれも一般人では無理な話だ。
説明をされて初めて納得がいった。
だけど遅すぎた。
痕跡を残すどころか消され、今は海の上だ。
「そして入隊試験にするときは死なない程度の規模のものを用意する。今回は突発的なことだから三日もすれば助けが来ただろうね」
「どうして、そこまで分かるんですか?」
「簡単なことだよ。私が元軍人だからさ」
「えっ?ならどうして」
「どうして?軍人ではできないことをするためさ。私のことはいい。今、考えるのはルーアン、お前のことだ。今回の誘拐でっち上げのカラクリを知ってどうしたい?猶予はそう。一週間というところだ」
「一週間」
「あの隊長なら見つけて追いついてくる。それまでに考えな。海賊になるというなら歓迎はする」
軍人が海賊の頭をしていることも気になるが聞いても教えてくれない以上は自分のことを考えるのが優先だ。
一週間という時間があり、選択肢まで示されているからには答えを出さないといけない。
答えはすぐには出そうになかった。
「アネット!不幸な女性が攫われて来たというのは本当か?」
「アルベンス、女の部屋に入るときはノックをするのが紳士というものだよ」
「俺とアネットの仲だろう。細かいことを気にするな」
「不幸かどうかは分からないが攫われてきた女性なら彼女だよ」
「おぉ!美しい!そんな女性が顔を曇らせているのは大きな損失だ!どうかこのアルベンスに憂いを晴らす手伝いをさせてほしい」
恩赦で釈放されたアルベンスは何故か海賊船に乗っていた。
それも比較的自由に出入り出来る立場にいる。
「えっと」
「俺はアルベンス、名前を教えて欲しい」




