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「あの」


「うん?」


「助けてくれてありがとうございました」


「私は軍人だからね。助けるのは仕事だよ」


魚を油で揚げながら中はレアという技術のいる定食を食べながらフィアットは何でもないように答えた。


「それで、あのお嬢ちゃんはどうするんだい?」


「どうもしない。彼女も軍人だ。助けられる存在では有事の際に困ることになる」


「フィアット!」


店に飛び込んで来たのはユーリーンだった。


その様子からフィアットが何をしたのかは分かっているようだった。


「ルーアンを奴隷商に売り飛ばしたってどういうこと!?」


「おそろしく誤解だな」


「違うの?」


「正しくは、誘拐されてもらった、だ」


言葉として正しいが、ルーアンからすれば誘拐させられた、だ。


誘拐犯はきっとフィアットだ。


「違うのか」


「どこでそんな話になったのか」


「奴隷商に売り飛ばしたお金で街一番の猫根子亭で飲んだくれてるって聞いたから」


事実確認のためにユーリーンは“跳躍(リープ)”と“瞬発(モーメント)”を使って飛んで来た。


噂を聞いた隊長から殺気と視線による指示でユーリーンは本能的に飛んだ。


あと数秒遅ければレイピアに貫かれた死体になった姿しか想像できなかった。


「隊長、ものすごく機嫌が悪かった」


「プリンでも買って帰っとこうか」


「それで機嫌が直ればいいけどね」



***************



「・・・ということです。あと、街一番の猫根子亭のプリンです」


「チッ、ヴィヴィ」


「入隊試験をどうしようか考えていたところだから丁度いいけれど、三日経って帰って来なければ救出ね」


プリンと紅茶を隊長の前に準備してヴィヴィは舌打ちの意味を代弁した。


少年姿になった隊長は常にピリピリしていた。


「一日で山賊くらい壊滅させられないようなら首だな」


「異動申請書、作っておきますね」


ただの山賊だと誰もが思っていた。


それが大きな事件になっていくとは思ってもみなかった。


「・・・相変わらずここのご飯は美味しいね」


「ここ以外、行けないけどね」


「はい、追加の天ぷらね」


「私たちがいると他のお客さんが入ってこないのは申し訳ないけどね」


「気にすることないよ。店の看板娘を守ってくれたんだし、それにこんなことで潰れるほど柔な味をしてないよ」


窓の外では仇でも見るような目で男たちがたむろしている。


そんな目を気にしていると軍人はやっていられない。


「さて、行きますか」


「ルーアン救出大作戦」


「チッ面倒だな」


三日経っても帰って来ないから山賊の根城に乗り込むための腹ごしらえだ。


完全に見捨てたわけではない。


それだけの実力がなければ特務部隊に所属するのは危険だからだ。


「これ、親戚が送ってきた金平糖だよ。おやつにでもしておくれ」


「感謝する」


隊長が甘いもの好きだと思っている女将は何かにつけてお菓子を隊長に渡している。


そのときは隊長も素直に受け取り愛想良くしている。


外に出ると突き刺さる視線の中、全員が走り出した。


それはすぐに話題になり、向かう先がどこなのか噂になった。


「今回はルーアンの救出が目的だ。山賊の壊滅は付属だと思え」


「御意のままに」


「では、行け」


先発隊としてユーリーンが“跳躍(リープ)”と“瞬発(モーメント)”で確認をする。


同時に発動はしないが今は隊長からの圧力がそうさせていた。


森の中でも人がいた痕跡は完全に消すことは難しい。


「最近までいたのは確かなんだけど、気配がまったくない」


目印をつけて森の奥に進んだからそれを隊長たちが追ってくることになっている。


合流できるまで探したが人の気配だけは見つけられなかった。


「逃げたか?」


「でも私たちが追いかけるということは誰にも言っていませんよ」


「猫根子亭の女将にも今朝初めて言いましたし」


完全に見捨てていないということは気づかれていたかもしれないが、それを山賊に伝えるメリットがない。


もしかしたら裏で繋がっていたという可能性もあるが、知ってからここまで綺麗に気配を消せるというのはあり得なかった。


「ここを出発することは決まっていた?」


「それくらい手際が良いわね」


「面倒なことになったな。しかたない、一度街に戻って可能性を探るぞ」


「御意のままに」


ただの山賊がそうではない場合は本当にルーアンの命が危なかった。


生きてはいるがという状況もあり得た。


「チッ逃げ出すか、目印くらい残してから消えろ。ばかめ」


「・・・ルーアンは本当に見捨てられたと思ってるかもしれませんね」


「ヴィヴィ」


「生きていればしっかりと教育いたします」


口では見捨てるとは言いながらも、どんな戦況でも部下を見捨てないのが隊長だった。


それは四神帝としての在り方でもあった。


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