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「さてと、行くか」


「着替えたんですね」


「当たり前でしょ?さすがにドレスで動き回るのは合理的じゃないし」


フィアットはルーアンに対して警戒心もないように見えたから気さくに話しかけられた。


そこは指導が変わって良かったと思えるところだった。


「港町は色んな人がいるね」


「えっ?」


「うん?顔つきが違うでしょ?」


他国の人間ともなれば肌の色や体つきが異なる。


だが、それは見慣れていないと分からないくらいの差異でもあった。


「分かるんですか?」


「えっ?分からないと困ると思うけど。下手に他国の人を捕まえたりしたら国際問題になるし」


「そうですね」


「あとは言葉の発音の仕方も違うから聞き分けてね」


昨日はユーリーンが地図を完璧に覚えていて、今日はフィアットがわずかな違いを完全に見分けていた。


その能力に劣等感を抱いていた。


「仮だとしても第三特務部隊では四神帝の部下であることを求められるから気をつけてね」


「はい」


フィアットなりの激励ではあったが、その優しさは伝わらなかった。


暗い雰囲気で歩いていると昨日立ち寄った猫根子亭の前で騒ぎがあった。


「離してください」


「いいじゃねぇか。ちょぉっとお酌して貰いてぇだけなのよ。俺たちは紳士だからな」


「だから離してください」


「何をしているの?」


フィアットは穏やかに話しかけた。


それを見て男たちは驚いた顔をしたがフィアットたちが軍人だと分かると態度を変えた。


「これはこれは新しく来た嫌われ者の軍人さんたちではないですか。いやね、ちょぉっとお嬢ちゃんにお酌して貰おうと交渉してるとこですよ」


「そうなの?」


「それは」


女性は否定したいが、フィアットたちが軍人だということで手を借りるのを嫌がった。


街の人も表立っては何も言わない。


「私には嫌がっているように見えたのでね。軍人としては見過ごせないのよね」


「そんな大ごとにすることでも無いですよ」


「そこで一つ交渉といこうか」


「交渉?」


「そう。私たちは軍人であるから嫌がる女性が連れて行かれたとなると仕事をしないといけない。それは大ごとになる。そこで代わりにこのルーアン=モシェットを差し出そう」


「はい?」


「彼女の身分は言わずとも軍人。軍人が攫われた場合は他の隊では知らないけど、私たちの所属している第三特務部隊では自力でどうにかするのが鉄則。仲間が殺されようが何をされようが自力でどうにかできないのなら軍人でいる資格はないというのが我が隊長の考え」


それは一見、冷たいようでもあるが、軍人は庶民の身の安全を守るのが仕事だ。


自分たちの身を守ることが仕事ではない。


「つまりは彼女が攫われたとしても軍は動かないから大ごとにもならない。一隊員がいなくなったところで第三特務部隊も困らない。お互いに良いことずくめだと思うけど?指名手配犯の山賊さん」


「俺たちのことを知っていたのか」


「指名手配書ならすべて覚えてる。さて交渉といこうか。私はこの街に来てすぐに山賊退治をしたくない。どうだろうか?」


どちらが悪党か分からないが軍に追われることなく女が手に入るというところに揺れ動いた。


その感情の機微を正確に把握するとフィアットはルーアンを山賊に向けて押し出した。


本当に差し出されると思っていなかったルーアンはたたらを踏んで山賊の男にぶつかった。


「うわっ」


「おっ」


思わず抱き留めてしまい山賊は攻撃される前にとルーアンの手を縛り上げた。


それでもフィアットは動かず欠伸までもらしている。


「それでは交渉成立ということで解散」


「ちょっちょっと!」


「そうだ。業務連絡をしておこう。ルーアン、健闘を祈る」


本当に山賊を追いかけることなくフィアットは猫根子亭に入った。


いくら嫌っていても仲間を平気で売るフィアットへの軽蔑の視線は多かった。


「けっ」


「胸糞悪い女だな」


「わが身可愛さに仲間を売るとはな」


「六さんたちが居てくれたらよかったのによ」


さんざんフィアットを罵る言葉だけがあり、昼時ではあったが猫根子亭はフィアット一人だけの客になった。


「食べたらすぐに出るから一番早くできるものをお願いするよ」


「ゆっくりしていってくれて構わないよ」


「そうはいかない。昼なのに客が一人では商売上がったりだ」


「そんなことで潰れるほど軟な店じゃないよ。助けてくれてありがとう」


「何のことだろう」


「あそこで騒いだところで、あの子が連れて行かれるだけなのは分かってるよ。街の連中はあの山賊が好き勝手するのを見逃す代わりに自分たちの身を守ることだけを考えてるからね」


連れて行かれそうになっているのを周りは見るだけで何もしないし、何も言わない。


権力を行使して山賊を捕らえたところで、また別の山賊が攫いにくるだけだった。


第六海上隊はそんな連中を抑えていた。


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