3
「いらっしゃい」
「二人だけど空いてる?」
「・・・あんたら六さんたちの代わりの軍人かい?」
「えぇ第三特務部隊よ」
「奥の席に座りな」
元気な声から一転して警戒し品定めをする視線に変わった。
そんな態度を気にすることなくユーリーンは席に座るとメニューを開いた。
「さすが港街ね。生の魚が食べられるのね」
「私は、この肉定食にします」
「はぁ?港町で最初に食べるご飯が肉?そんなもん王都に行ったときに食べなさいよ」
「魚が苦手なんで」
「そう。じゃぁ生魚の盛り合わせ定食にしよっと」
会話が全部聞こえていたのだろう何も言わなくても料理が出てきた。
ユーリーンとルーアンが第六海上隊の代わりだということは周りの客にも知れ渡った。
針の筵のような状況での食事に音を上げたのはルーアンだった。
「あの細っこい嬢ちゃんたちが六さんたちの代わりだとよ」
「あんなんで務まるのかよ」
「きっとあっちがすごいんだよ」
「お相手願いたいものだな、へへ」
昼から飲んでいる男たちはユーリーンとルーアンのどちらが良いかと話題に挙げた。
そんな会話には慣れているのかユーリーンはにこやかに手を振りながら海鮮汁を啜った。
「どうして普通に食べていられるんですか?私たちは、この街の治安を守ってあげてるのに」
「守ってあげてる?」
ルーアンの言葉に反論をしようと腰を上げた男たちはユーリーンの様子を見て止まった。
「私たちは昨日、ここに到着して、今日ここでご飯を食べてるだけ。街の治安を守るって犯罪者の一人でも捕まえたの?前にいたところは、それで許されたのかもしれないけど、第三特務部隊に来たからには第三特務部隊のやり方に従ってもらう」
「ただご飯を食べてるだけの人に言われたくないです」
「そう。不満なら異動届出せば?隊長なら喜んでハンコ押してもらえると思うけど?」
「ここ以外に行くとこないですから」
「なら黙って食べてくれる?もし不満なら私以外の人間についてくれてもいいから」
「そうさせてもらいます」
険悪なままで食事が終わり、黙ったままの見回りになった。
機嫌が悪いユーリーンは真っ直ぐ隊長のもとに行くと見回りの報告をした。
「本日は問題もなく、相変わらず第三特務部隊への敵意はあちらこちらで感じられました。それと明日のルーアンの指導は別の人にしてください」
「分かった。明日はフィアットにつけ。以上だ」
「ルーアン、明日は昼から出発するからそのつもりでいて」
フィアットも何も言わずに黙って聞く。
この雰囲気が他の隊に無いものでルーアンは馴染むのに時間がかかっていた。
「ルーアンが気になるところリストアップしといて」
「分かりました」
「私から言えることは以上」
和気藹々とした隊を期待したわけではないが、完全な個人プレーというのに戸惑いを覚える。
それを助長させているのは隊長でもあった。
釈然としないまま朝を迎えた。
「昼まで何をしよう」
シフトで昼勤務と夜勤務があるが、第三特務部隊では明確に決まっていない。
誰もが好きな時間に働いている。
「貴女、新しい顔ね」
「はい、ルーアン=モシェットと言います」
「へぇ、と言っても一応顔合わせをしたのだけど、覚えてないということは大したことないわね。そんなんじゃ指名手配犯が目の前にいても取り逃がしちゃうわよ」
「なぜ踊り子風情に言われないといけないんですか?」
「ははは、甘いわね。セルライン=アンクルワー第五尉よ。まぁあまりここにはいないから知らなくても仕方ないけど、見た目で判断すると痛い目を見るわよ」
上機嫌にセルラインは隊長がいる執務室に入った。
時間を持て余していたルーアンも何となく着いて行った。
「あぁ隊長、そのお姿もお美しいですわ」
「セルラインか」
「はい、こちらがお望みの報告書になります」
「別に望んでいないが?」
「その冷たさも素敵ですわ。それよりも少年姿なら今夜いかがです?」
「人妻に興味はない」
セルラインの誘いを一蹴すると黙々と書類に目を通した。
怪しい現場を見てしまったルーアンは扉の前で立ち尽くしてしまう。
「ヴィヴィ副隊長」
「何かしら?」
「あの、隊長と彼女はどういったご関係ですか?」
「どういったって、上司と部下という関係以外に表すものはないけど」
「えっ?でも」
「いちいち気にしていたら大変よ。時には流すことも必要よ」
確かに貴族なら人妻だとしても問題はない。
でもルーアンは庶民だからその考えに馴染めなかった。
「ただいま」
「おかえりなさい、フィアット」
「えっ?フィアットさん」
ルーアンが戸惑うのはフィアットが軍服ではなくコルセットで腰を極限まで細くした貴婦人スタイルだったからだ。
髪も結い上げて、誰も軍人だとは思わない姿だった。
「この街の領主ですら四神帝を嫌ってますね。街を歩くことすら汚れると思ってるようでしたよ。でもまぁただの伯爵家に手出しはできないでしょうけど」
フィアットの口調が一定のものに統一されつつあった。
特に意識したわけではなく、慣れの問題らしい。




